◯◯家の葬儀

4猿楽探偵事務所にて(蟹沢奈美)
 幼馴染が亡くなる7日前

「一応聞いておきたいんですが、金田編集長とは……」
「たまに会って食事をする関係。君は別れた恋人と会わないタイプ?」
「別れた理由によります。浮気とかなら無理です」
「なるほど、君は浮気されちゃうのか。不健全な恋愛はフラストレーションを溜めるだけ。浮気される子は恋愛向いてない、恋愛しない方がいい」

 編集部より電車で数駅、繁華街に建つ雑居ビル内に猿楽探偵事務所はある。ちなみに3階のインドカレー屋は食中毒を出し営業停止中、1階の喫茶店もカレーが名物らしいが現在コックが料理修行へ出ているとか。
 立地的にスパイシーな香りを覚悟して入室すると、鼻をついたのは編集長が愛用する香水だった。

「道すがら話した通り」
 一旦、言葉が切られる。
「僕は君が書いた都市伝説に興味を持ち、謎を解き明かすバディになって欲しいと頼んだ。恋愛観なぞ語り合う間柄になりたい訳じゃない」
 それは同感。
「幼馴染から返事は来たかい? ちゃんと猿楽学が会いたいと伝えたよね?」
 もう一度頷く。
「着信を何件か残し、SNS経由でメールも送信しましたが。あの」
「何かな?」
「編集長にはセンスのない都市伝説って言われた記事を猿楽さんは評価してくれーー」

 語尾と猫の鳴き声が重なった。

「あぁ、彼はブッシュドノエル、童貞さ」
 童貞は名探偵っぽい紹介にあずかると優雅に舞い降り、そのままわたしの足元へ擦り寄る。
「かわいい、撫でてみても?」
「どうぞ。ブッシュは人殺しの手しか噛まない、お利口さんなんだ」
 額に伸びかけていた動作が固まる。
「おや、撫でないのかい?」
「万が一にも噛まれたら気まずいし」
「へー、警戒心は備わっているのか。意外だな」
 代わりに猿楽さんが触れようとするとブッシュドノエルは身を翻し、奥へ引っ込んでしまう。

「ところで蟹沢君」
 ふいに呼び名がかわり、声音も芝居がかる。
「せっかくなので探偵ごっこしてみないかね?」