◯◯家の葬儀

2C病院総合案内にて(蟹沢奈美)
 幼馴染が亡くなる当日

「さてと。ここへ来たはいいが、今日明日亡くなる人を紹介してはくれないだろうし」
 軽食を済ませてC病院、総合案内へやってきた。
「合コンしたという看護師を当たるのは?」
「地域医療を担うC病院、白衣の天使だけで一体何人いると思っている?」
 わたし達が紛れても違和感ないーーと言うより、警戒心を向ける暇がない程、患者と関係者で混み合う。
「……我々は何故こちらへ?」
「君、霊感とかない? 死神を探知する能力とか」
「ありません」
「入院病棟へは行けない? 知り合い、入院してない?」
「してないです」

 患者がどの部屋で治療しているのか情報はなく、個人情報の取り扱いが厳重となる昨今、見舞うにはこちらの身分を明かさないといけないシステム。探られて痛くない腹にしろ、探偵とライターの組み合わせが歓迎されるはずもなく。
「その時が今日か明日ならば、本人や家族も静かに迎えたいのではないでしょうか?」
 わたし達の好奇心で別れの場を乱すのは良くない。どうやらこの調査活動に編集長チームによる密着取材が入るらしい、きっと編集者お気に入りの2人がメンバーだ。気が重い。

「どうして電車へ飛び込むかね? もう少し迷惑を掛けない方法があるだろうに」
「あの、そういう言い方はちょっと……」
「賠償金を支払わなきゃならないぞ」
「それはそうかもしれませんが」
 猿楽さんはソファーへ浅く座り直し、膝の上で指を編む。
「蟹沢君が家族ならお葬式を出したい?」
「はい?」
「僕なら嫌だね。息を引き取るまで甲斐甲斐しく見届けもしないな」
 冷たく、きっぱり言い切る。
「追い詰められてあんな真似をしてしまったかもしれないじゃないですか? ご家族でなくとも恋人、友人や同僚が見守っている可能性もありますよ?」
 そう思いたがる自分がいて、ズキズキこめかみ付近が痛む。

「ムキにならなくてもいいじゃないか? 一般論で言えばコスプレして電車に飛び込んだ人間の最期に立ち合いたい? 関わりたくないと考えないかい?」
 猿楽さんは傾げる。
「ち、違います。彼はーー」
「彼は?」
 痛みで思考が淀み、吐き気を催す。口元を両手で覆い、かぶりを振った。けれど振り落とせやしない映像が鮮明に蘇る。

 頭の中でけたたましい警笛が響く。

 だってあの時ーー彼は

 ドンッと鈍い衝撃音が聞こえ、真っ暗になる。

「すいません、助けてください! 連れの女性の気分がすぐれなくて!」
 猿楽さんの声が遠い。