◯◯家の葬儀

1病院近くのファミリーレストランにて(蟹沢奈美)
 幼馴染が亡くなる当日

「すごいです! お1人でここまで調べられるなんて!とある病院はC病院、◯日は今日かもしれないと」
 並べたノートにペンの切っ先が迷う。ここにメモはしにくい。手帳を出し直す際、クーポン券が滑り落ちた。
「君こそ凄いじゃないか。エンディングノートをサービスで渡されるくらい集中して聞き込みするなんて! よく頑張った、これを使ってパンケーキを食べなよ」
 褒めてない、呆れられているのだ。二手に別れ効率を重視した調査において、最初の会社で営業トークに捕まった自分は戦果をを得られずじまい。取材相手を一方的に喋らせるという失態。たとえセールストークであろうと、一生懸命に話し掛けられると耳を傾けてしまう。
「すいません」
 優雅にポテトをつまみ、メロンソーダで流し込む猿楽さんへひたすら頭を下げるしかない。

「△△セレモニーで君の幼馴染、見掛けなかった。館内で女性と行き合わなかったからね」
 ポテトの皿が半分ほど減ったあたりで話題が変わる。
「メールも未読のままです」
「……調査はさておき、共通の友人に安否を確認して貰うといいかも。少し嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
 パンケーキが運ばれてきて、甘い香りが漂う。朝からキャベツしか食べていなかった胃は唸り、猿楽さんはブッシュドノエルへご飯をあげるよう「どうぞ」の仕草をする。

「探偵の勘ですか?」
「どうかな? 僕は探偵を名乗っているものの、正式な調査を請け負った事が無い」
「えっ、ないんですか! あんな立派な事務所を構えて?」
「事務所兼自宅だし。猫も飼っているじゃないか」
 納得しかけ、はたと気付く。
「そういえば看板出してませんね」
「あぁ、知る人ぞ知る探偵事務所にしたくてね。営業日や時間が主人次第の蕎麦屋みたいで格好いいだろう?」
「いや、ま、まぁ」
(きっと働きたくないだけ)
 どう言葉を繋げていいのやら、とりあえずケーキへナイフをを入れた。ふわふわで切りにくい。なんだか猿楽さんに似ている。押し潰された断面と彼の糸目が重なった。

「えっと、幼馴染と共通の友達はいなくて、あっ、いないと言うのは学校を卒業してから会っていないという意味で」
「友人が少ないからって言い訳しなくていい」
「……では母に聞いてみます」
「うん、そうしたら。それと入れないの?」
 ガムシロップの容器を指差す。
「あ、はい。甘い物を食べる時はさっぱりしたいので入れません」
「そう」
「でも今日は入れちゃおうっと!」
 何故だか不満気な声に圧され、投入する。と、猿楽さんは頬杖をつきグラス内を眺めた。

「シュリーレン現象」
「はい?」
「モヤモヤが出来るだろう? ほら」
「あ、本当ですね」
「アイスティーとシロップの密度の違いが光の屈折率の差となり、揺らぎとして見えるんだ」
「へぇー」
 これまで気にした事が無かったけれど説明されると面白い。もっとよく覗いてみたくなりグラスを持ち上げる。
(陽炎が発生する原理と同じなのか)

「蟹沢君は可愛いね」
「な、なんですか! いきなり」
「そのエンディングノート、くれない? 若い君には必要ないだろう」
「若いって、猿楽さんと変わりませんよ」
「ひと回りは違うと思うが?」
「なら今年で20歳ですね!」
「はは、キャバクラ的なノリの年齢当てクイズはよそう」
 どうやらノートを欲しがる為のリップサービスらしい。
「編集長の叔父さんに渡せませんので差し上げます」
 わたしはストローを含みつつ、頷いた。