12△△セレモニーホールにて(猿楽学)
幼馴染が亡くなる当日
「君は小説を書いているのかい?」
まだ吸えそうだが携帯灰皿へ押し付け、やや間を作って尋ねた。
「ーーえ?」
「そのボールペン。ノベナのコンテストで入賞すると貰えるやつでしょ? 星のチャームを外して使っているんだね」
葬儀について話をつめてくると身構えていた担当者は拍子抜けの様子、その隙を的確に刺激する。
「こういう職業なので星の飾りは外しました。ノベナ、ご存知なんですね?」
「たまに読むよ」
「ご覧になるんですか! 猿楽学先生が?」
「読むってば。もしかしたら君の作品を読んでいるかもね」
「え、うわ、マジか、嬉しい」
本音が漏れてくる。金に糸目をつけない葬儀をしたいと持ち掛けた以上の反応だ。
ソファーへ座り直し、情報を整理してみよう。
“とある病院で◯日に亡くなった人の葬儀は引き受けない、業界では対象の方を◯◯さんって呼ぶんだけど。
なんで引き受けないか知ってる?”
(病院はC病院で確定、あと◯日は今日もしくは明日まで絞れた)
「あ! 前屈みで指を編みながら考え事するの、小説のままだ!」
「……おや、君もミステリーを゙書いているのかな?」
「はい、猿楽学先生に憧れて作家を目指してます! ちょうど先生が筆を置かれた直後から書き始めました」
「ならば僕は君へ筆というバトンを渡したのかもしれないね」
誰にもバトンや襷を繋いだ覚えはないが笑みを深めておく。くっきり刻まれたであろうほうれい線で担当者をこちらへ側に引き寄せ、唇の前に人差し指を立てる。
「ここに暴きたい秘密があるとしよう」
「は、はい!」
担当者はまるで催眠術にかかりたがる風に頷き、身を乗り出す。
「ミステリー小説の主人公は謎の解き明かし方に美学を持っているといい」
人差し指で小説と現実を曖昧に掻き混ぜるのを彼はうっとり見詰めた。
「真相は他人に教えて貰うのでは勿体無い、自分で突き止めるから面白いじゃないか。ねぇ、君はどう思う?」
いったん言葉を切り、コーヒーを含む。本日3杯目ともなれば苦味やぬるさも慣れる。
「わ、私なら推理を楽しむ主人公を邪魔してやりたいと考えます」
退屈な回答までーー7口、か。僕はカップを雑に置く。
「……あっそ。ところで叔父は今夜が峠かもしれない。葬儀をお願いできるかい?」
「へっーーう、上の者に判断を仰いでも? 大きなお式になるので会場や車の手配が出来るか確認してまいります」
「良い返事を期待しているよ。さて、僕はこれから病院へいかなきゃいけないので、名刺を頂ける?」
「あ、お渡しせず失礼しました」
「ついでに君のペンネームも書いておいてよ」
そのまま席を立ち、名刺を受け取ってヒラヒラさせながら退出した。
幼馴染が亡くなる当日
「君は小説を書いているのかい?」
まだ吸えそうだが携帯灰皿へ押し付け、やや間を作って尋ねた。
「ーーえ?」
「そのボールペン。ノベナのコンテストで入賞すると貰えるやつでしょ? 星のチャームを外して使っているんだね」
葬儀について話をつめてくると身構えていた担当者は拍子抜けの様子、その隙を的確に刺激する。
「こういう職業なので星の飾りは外しました。ノベナ、ご存知なんですね?」
「たまに読むよ」
「ご覧になるんですか! 猿楽学先生が?」
「読むってば。もしかしたら君の作品を読んでいるかもね」
「え、うわ、マジか、嬉しい」
本音が漏れてくる。金に糸目をつけない葬儀をしたいと持ち掛けた以上の反応だ。
ソファーへ座り直し、情報を整理してみよう。
“とある病院で◯日に亡くなった人の葬儀は引き受けない、業界では対象の方を◯◯さんって呼ぶんだけど。
なんで引き受けないか知ってる?”
(病院はC病院で確定、あと◯日は今日もしくは明日まで絞れた)
「あ! 前屈みで指を編みながら考え事するの、小説のままだ!」
「……おや、君もミステリーを゙書いているのかな?」
「はい、猿楽学先生に憧れて作家を目指してます! ちょうど先生が筆を置かれた直後から書き始めました」
「ならば僕は君へ筆というバトンを渡したのかもしれないね」
誰にもバトンや襷を繋いだ覚えはないが笑みを深めておく。くっきり刻まれたであろうほうれい線で担当者をこちらへ側に引き寄せ、唇の前に人差し指を立てる。
「ここに暴きたい秘密があるとしよう」
「は、はい!」
担当者はまるで催眠術にかかりたがる風に頷き、身を乗り出す。
「ミステリー小説の主人公は謎の解き明かし方に美学を持っているといい」
人差し指で小説と現実を曖昧に掻き混ぜるのを彼はうっとり見詰めた。
「真相は他人に教えて貰うのでは勿体無い、自分で突き止めるから面白いじゃないか。ねぇ、君はどう思う?」
いったん言葉を切り、コーヒーを含む。本日3杯目ともなれば苦味やぬるさも慣れる。
「わ、私なら推理を楽しむ主人公を邪魔してやりたいと考えます」
退屈な回答までーー7口、か。僕はカップを雑に置く。
「……あっそ。ところで叔父は今夜が峠かもしれない。葬儀をお願いできるかい?」
「へっーーう、上の者に判断を仰いでも? 大きなお式になるので会場や車の手配が出来るか確認してまいります」
「良い返事を期待しているよ。さて、僕はこれから病院へいかなきゃいけないので、名刺を頂ける?」
「あ、お渡しせず失礼しました」
「ついでに君のペンネームも書いておいてよ」
そのまま席を立ち、名刺を受け取ってヒラヒラさせながら退出した。


