11編集部にて(金田史子)
幼馴染が亡くなる当日
「……は? C病院? 一体何の話をしてるのよ。あいつ、薬でもやってるのかしら」
通話終了画面へこぼしたひと言に周囲が固まった。
「あぁ、猿楽先生ついに」
「でも驚きはないですね」
が、それも一瞬。部下等はすぐ切り替えて資料の読み込みへ戻る。
「ねぇ、上司の元旦那が捕まっても何とも思わないの?」
「思います。是非、天才ミステリー作家の2度目の裏切りについて独占インタビューさせて下さい」
「もっと裏切ってそうなイメージですけど〜特に女性関係。なんなら蟹沢さんとーー」
はいそこまで、話を止めて頂戴と手を叩く。猿楽が誰と付き合おうが寝ようがとやかく言う権利はないものの、やっぱり面白くはない。左の薬指を慰めるみたいに抱かれているからこそ、あいつがここを輝かせる気などないのを承知している。
「蟹沢(生贄)を差し出して新作を書いてくれるなら安いものよ。あの子、ライディングスキルは皆無だけど顔はいい」
「編集長、それ問題発見ですよぉ〜」
「はは、あんた達が顔採用ではないって言ってるんだ、喜べ」
「はは、本当に酷い言い草だ!」
互いを見合って笑う。今、立ち上げようとしてるプロジェクトは低迷した業界、なにより私自身へ一石を投じる意味を持つ。メンバー選考は熟考を重ね、この3名は運命共同体と言ってもいい。
「あ、蟹沢と言えば例の人身事故で気になる事がありまして」
「気になる事?」
「事故ーー飛び込みの騒ぎに紛れ、盗みを働いた女が捕まっています。現場に居合わせ気分が悪くなった人達が被害に遭いました」
「げ、最低〜」
「で、それの何が引っ掛かる訳?」
猿楽に是が非でも小説を書かせるという本題から外れるも、続きを促す。
「女が何を盗んでいたか、分かります?」
「その言い方だと財布や携帯じゃないな」
「えぇ、◯◯のグッズです」
「◯◯? あぁ、蟹沢さんも好きですよね〜デスク周りが◯◯で溢れてますもん。あんな整形キャラクターのどこが良いんだろ、ワタシには理解出来ないや」
「俺も右に倣えです。SNSでは飛び込んだ男性の目撃情報が出回ってまして、◯◯のコスプレをしていたとか喪服を着ていたなどーー画像を見てください」
手元のモニターへクオリティが高いと言い難いコスプレイヤーが映る。
「うわっ! 顔面白塗りで猫耳ヘアバンドとか、きっつ。変態かよ」
「おい、亡くなった人間を悪く言うな」
「編集長こそ勝手に殺さないで下さい、まだ亡くなっていない可能性があるんですから。無論、五体満足とはいかないでしょうが、事故当時での報じられ方は意識不明の重体。駅の立地的に搬送先はC病院と考えられます」
「C病院……猿楽がさっき言ってた。それに◯◯というキャラクターも」
“とある病院で◯日に亡くなった人の葬儀は引き受けない、業界では対象の方を◯◯さんって呼ぶんだけど。
なんで引き受けないか知ってる?”
蟹沢の原稿にあった幼馴染の発言が浮かび、あたしはふむと唸る。
幼馴染が亡くなる当日
「……は? C病院? 一体何の話をしてるのよ。あいつ、薬でもやってるのかしら」
通話終了画面へこぼしたひと言に周囲が固まった。
「あぁ、猿楽先生ついに」
「でも驚きはないですね」
が、それも一瞬。部下等はすぐ切り替えて資料の読み込みへ戻る。
「ねぇ、上司の元旦那が捕まっても何とも思わないの?」
「思います。是非、天才ミステリー作家の2度目の裏切りについて独占インタビューさせて下さい」
「もっと裏切ってそうなイメージですけど〜特に女性関係。なんなら蟹沢さんとーー」
はいそこまで、話を止めて頂戴と手を叩く。猿楽が誰と付き合おうが寝ようがとやかく言う権利はないものの、やっぱり面白くはない。左の薬指を慰めるみたいに抱かれているからこそ、あいつがここを輝かせる気などないのを承知している。
「蟹沢(生贄)を差し出して新作を書いてくれるなら安いものよ。あの子、ライディングスキルは皆無だけど顔はいい」
「編集長、それ問題発見ですよぉ〜」
「はは、あんた達が顔採用ではないって言ってるんだ、喜べ」
「はは、本当に酷い言い草だ!」
互いを見合って笑う。今、立ち上げようとしてるプロジェクトは低迷した業界、なにより私自身へ一石を投じる意味を持つ。メンバー選考は熟考を重ね、この3名は運命共同体と言ってもいい。
「あ、蟹沢と言えば例の人身事故で気になる事がありまして」
「気になる事?」
「事故ーー飛び込みの騒ぎに紛れ、盗みを働いた女が捕まっています。現場に居合わせ気分が悪くなった人達が被害に遭いました」
「げ、最低〜」
「で、それの何が引っ掛かる訳?」
猿楽に是が非でも小説を書かせるという本題から外れるも、続きを促す。
「女が何を盗んでいたか、分かります?」
「その言い方だと財布や携帯じゃないな」
「えぇ、◯◯のグッズです」
「◯◯? あぁ、蟹沢さんも好きですよね〜デスク周りが◯◯で溢れてますもん。あんな整形キャラクターのどこが良いんだろ、ワタシには理解出来ないや」
「俺も右に倣えです。SNSでは飛び込んだ男性の目撃情報が出回ってまして、◯◯のコスプレをしていたとか喪服を着ていたなどーー画像を見てください」
手元のモニターへクオリティが高いと言い難いコスプレイヤーが映る。
「うわっ! 顔面白塗りで猫耳ヘアバンドとか、きっつ。変態かよ」
「おい、亡くなった人間を悪く言うな」
「編集長こそ勝手に殺さないで下さい、まだ亡くなっていない可能性があるんですから。無論、五体満足とはいかないでしょうが、事故当時での報じられ方は意識不明の重体。駅の立地的に搬送先はC病院と考えられます」
「C病院……猿楽がさっき言ってた。それに◯◯というキャラクターも」
“とある病院で◯日に亡くなった人の葬儀は引き受けない、業界では対象の方を◯◯さんって呼ぶんだけど。
なんで引き受けないか知ってる?”
蟹沢の原稿にあった幼馴染の発言が浮かび、あたしはふむと唸る。


