10△△セレモニーホールにて(猿楽学ファンのスタッフ)
幼馴染が亡くなる当日
学生時代、夢中になって読んでた本の作者が目の前に居る。あぁ、この気持ちは時間差の読書体験と表現すれば伝わるか。
私は猿楽学の影響を受け執筆を始めた。投稿サイトじゃそれなりのポジションにいて、サイトが開催するコンテストの入賞常連者。自分の作品が趣味の域を超えるだって遠くないはず。
プロとなりこんな陰湿な会社など辞めてやる、そう考えていた所へ猿楽学がやってきたんだ。運命めいた縁を感じても不自然じゃない。
「……禁煙ですよね?」
「えぇ、全館禁煙となっています。ですが」
私は窓を指差す。ミステリー作家と煙草は切り離せないイメージを彼により植え付けられた。それにこの大きな案件を引き受けたら煙草の1本、2本どうとでも誤魔化せる。
「すまないね」
窓を空ければ口調を崩してきて、それが商談開始の合図と理解。さっさと話をまとめ私の文章を読んで貰うのは可能だろうか、その為に多少の融通は利かせるのは有りなのだが。
猿楽学の吐き出す煙を養分に下心が根を伸ばしていく。
「叔父様は今どちらの病院にいらっしゃるのでしょう?」
「あぁ、A病院」
「承知しました。A病院ですね」
「ーーあ、B病院だったかもしれない」
「はい、B病院ですね」
「いや待ってくれ。彼女に確認してみよう」
この様子じゃ叔父の見舞いへ行っていないのだろう。
(やはりヒモか? 元妻は出版社勤務でやり手だとか)
「もしもし? 今話せるかな? うん、ごめんね、忙しいのは分かっている」
声音をワントーンあげ、通話をしだした。
文字通り頭が上がらない様子に寂しさを覚える。猿楽学はスキャンダルさえ起こさなかったら確固たる地位を得ていたのは疑いようがなく、一定の期間を経たら執筆を認める空気があるのに書こうとしない。
会話内容の一部が漏れ伝わり「あんたが病院行きなさいよ!」「死ね」と怒鳴られていた。
「分かった、分かった。僕も病院へ行こう。それでC病院でいいのかな?」
(C病院……)
病院名を復唱後、手帳を開く。追加で容態がどうであるか聞いて欲しいメモを手渡すと、猿楽学は窓を閉めつつオッケーサイン。
(今日でなければいいが)
「ーーそう、今夜が峠、か」
やばい、思惑が外れそう。今夜亡くなれば葬儀を引き受ける事は出来ない。◯◯さんの葬儀を取り仕切った同僚がどんな目に遭うか、進行形で見ている自分だから尚更のこと。
ふいに視線を感じ、顔を上げた。
窓ガラス越し、猿楽学がにっこり微笑んでいる。
幼馴染が亡くなる当日
学生時代、夢中になって読んでた本の作者が目の前に居る。あぁ、この気持ちは時間差の読書体験と表現すれば伝わるか。
私は猿楽学の影響を受け執筆を始めた。投稿サイトじゃそれなりのポジションにいて、サイトが開催するコンテストの入賞常連者。自分の作品が趣味の域を超えるだって遠くないはず。
プロとなりこんな陰湿な会社など辞めてやる、そう考えていた所へ猿楽学がやってきたんだ。運命めいた縁を感じても不自然じゃない。
「……禁煙ですよね?」
「えぇ、全館禁煙となっています。ですが」
私は窓を指差す。ミステリー作家と煙草は切り離せないイメージを彼により植え付けられた。それにこの大きな案件を引き受けたら煙草の1本、2本どうとでも誤魔化せる。
「すまないね」
窓を空ければ口調を崩してきて、それが商談開始の合図と理解。さっさと話をまとめ私の文章を読んで貰うのは可能だろうか、その為に多少の融通は利かせるのは有りなのだが。
猿楽学の吐き出す煙を養分に下心が根を伸ばしていく。
「叔父様は今どちらの病院にいらっしゃるのでしょう?」
「あぁ、A病院」
「承知しました。A病院ですね」
「ーーあ、B病院だったかもしれない」
「はい、B病院ですね」
「いや待ってくれ。彼女に確認してみよう」
この様子じゃ叔父の見舞いへ行っていないのだろう。
(やはりヒモか? 元妻は出版社勤務でやり手だとか)
「もしもし? 今話せるかな? うん、ごめんね、忙しいのは分かっている」
声音をワントーンあげ、通話をしだした。
文字通り頭が上がらない様子に寂しさを覚える。猿楽学はスキャンダルさえ起こさなかったら確固たる地位を得ていたのは疑いようがなく、一定の期間を経たら執筆を認める空気があるのに書こうとしない。
会話内容の一部が漏れ伝わり「あんたが病院行きなさいよ!」「死ね」と怒鳴られていた。
「分かった、分かった。僕も病院へ行こう。それでC病院でいいのかな?」
(C病院……)
病院名を復唱後、手帳を開く。追加で容態がどうであるか聞いて欲しいメモを手渡すと、猿楽学は窓を閉めつつオッケーサイン。
(今日でなければいいが)
「ーーそう、今夜が峠、か」
やばい、思惑が外れそう。今夜亡くなれば葬儀を引き受ける事は出来ない。◯◯さんの葬儀を取り仕切った同僚がどんな目に遭うか、進行形で見ている自分だから尚更のこと。
ふいに視線を感じ、顔を上げた。
窓ガラス越し、猿楽学がにっこり微笑んでいる。


