9△△セレモニーホールにて(猿楽学)
幼馴染が亡くなる当日
「金田とは元夫婦という間柄です。心労が重なっている彼女の負担を少しでも減らしたいと考え、代わりにご相談に伺いました。亡くなる前に葬儀の準備を進めるのは不謹慎じゃないかと悩みましたが」
「いいえ、決して不謹慎なことではございません。事前にご相談いただく事でいざという時に慌てず、故人様との最後のお時間に専念できるようになります。ご本人に代わって動かれることはきっと支えになるはずですよ!」
「ああ! そう言っていただけると気持ちが楽になりますね。ありがとうございます」
胸を撫でおろす仕草をしながら通された部屋を見回す。
ホームページに記載された番号へ依頼をかけ約1時間後に面談が実現。本日は大安、通夜葬儀ともに少ないのかもしれない。担当者の男性が蟹沢の幼馴染でないのは確かだ。
「医師からあと数日と告げられてしまいましてね。金田にとっては親代わりの方なので大変ショックを受けております」
「それはお辛い。金田様がさぞ頼りにされていたのだとお察しいたします」
「えぇ、ですからお世話になった分、真心を尽くして見送りたいと考えています」
この言葉に男の眉が動く。
「叔父は元アスリートで交友関係も広い。式は大きなものになるでしょう。△△葬式社さんのお力を借りられば有難い」
金に糸目をつけない、最上級の供養がしたいと申し出てもまだ説得力が足らないだろう。こんなウマい話、なかなか無いはずだ。なにせ実際、無い。
先に記入したアンケートを読み、僕の素性を探る姿勢へ名刺を差し出す。
「猿楽学さんってーー小説家の? わぁ、私、先生の本を持っていますよ!」
「それは光栄です。こちらへ伺う前に何社かお話を伺ったところ、私を知っていてくれた方はいらっしゃらなかった。まぁ筆を置いて随分経ちますしね、仕方ありません」
認識されなくても構わないポーズをとって、そのじつ構わなくないとアピール。ついでに△△葬儀社の他にも交渉している旨も添えておく。
どの道、僕を知っていようといまいとネットで検索くらいするだろう。その際、著書より未成年アイドルとの密会を報じた記事がヒットし、聞いて驚くな、それを書いたのが元妻である。
世の中にはとんかつ屋に行ってもキャベツしか食べない女性がいるのに、ラブホテルへ入ってセックスしない男がいると信じてくれない。
「誤解を招く行動によって離婚されましたが、今は仲良くしています」
「あれは後(のち)にアイドルの売名行為だったと証明されたじゃないですか! あげく年齢詐称までしていた」
「そちらもご存知なのですね、お恥ずかしい。ですが弁解しないで済むのは助かります」
「弁解もなにもら私は先生の味方です! あのアイドルのせいで新作を読めないとファン達も嘆いてますから!」
ここはあえて力ない笑顔を浮かべておこう。
「話を叔父の葬儀へ戻していいですか?」
そう言うと、もはや彼の瞳の色は変わっていた。
幼馴染が亡くなる当日
「金田とは元夫婦という間柄です。心労が重なっている彼女の負担を少しでも減らしたいと考え、代わりにご相談に伺いました。亡くなる前に葬儀の準備を進めるのは不謹慎じゃないかと悩みましたが」
「いいえ、決して不謹慎なことではございません。事前にご相談いただく事でいざという時に慌てず、故人様との最後のお時間に専念できるようになります。ご本人に代わって動かれることはきっと支えになるはずですよ!」
「ああ! そう言っていただけると気持ちが楽になりますね。ありがとうございます」
胸を撫でおろす仕草をしながら通された部屋を見回す。
ホームページに記載された番号へ依頼をかけ約1時間後に面談が実現。本日は大安、通夜葬儀ともに少ないのかもしれない。担当者の男性が蟹沢の幼馴染でないのは確かだ。
「医師からあと数日と告げられてしまいましてね。金田にとっては親代わりの方なので大変ショックを受けております」
「それはお辛い。金田様がさぞ頼りにされていたのだとお察しいたします」
「えぇ、ですからお世話になった分、真心を尽くして見送りたいと考えています」
この言葉に男の眉が動く。
「叔父は元アスリートで交友関係も広い。式は大きなものになるでしょう。△△葬式社さんのお力を借りられば有難い」
金に糸目をつけない、最上級の供養がしたいと申し出てもまだ説得力が足らないだろう。こんなウマい話、なかなか無いはずだ。なにせ実際、無い。
先に記入したアンケートを読み、僕の素性を探る姿勢へ名刺を差し出す。
「猿楽学さんってーー小説家の? わぁ、私、先生の本を持っていますよ!」
「それは光栄です。こちらへ伺う前に何社かお話を伺ったところ、私を知っていてくれた方はいらっしゃらなかった。まぁ筆を置いて随分経ちますしね、仕方ありません」
認識されなくても構わないポーズをとって、そのじつ構わなくないとアピール。ついでに△△葬儀社の他にも交渉している旨も添えておく。
どの道、僕を知っていようといまいとネットで検索くらいするだろう。その際、著書より未成年アイドルとの密会を報じた記事がヒットし、聞いて驚くな、それを書いたのが元妻である。
世の中にはとんかつ屋に行ってもキャベツしか食べない女性がいるのに、ラブホテルへ入ってセックスしない男がいると信じてくれない。
「誤解を招く行動によって離婚されましたが、今は仲良くしています」
「あれは後(のち)にアイドルの売名行為だったと証明されたじゃないですか! あげく年齢詐称までしていた」
「そちらもご存知なのですね、お恥ずかしい。ですが弁解しないで済むのは助かります」
「弁解もなにもら私は先生の味方です! あのアイドルのせいで新作を読めないとファン達も嘆いてますから!」
ここはあえて力ない笑顔を浮かべておこう。
「話を叔父の葬儀へ戻していいですか?」
そう言うと、もはや彼の瞳の色は変わっていた。


