◯◯家の葬儀

8猿楽探偵事務所にて(蟹沢奈美)
 幼馴染が亡くなる当日 

「僕、とんかつ屋でキャベツしか食べない女性と付き合っていた時期があるんだけどさ。あの子、元気かな? 連絡してみようかな? 君の幼馴染より連絡返してくれるよ絶対」
「……これだけ返事がないのはブロックされてるのかも?」
 わたしと猿楽さんの間にキャベツの山盛り。結局、お裾分けする当てがなく2人で食べる事となった。幼馴染とは連絡がつかないままで。

「田舎から一緒に出てきたんだろう? いわば戦友じゃないか」
「頼られてばかりで嫌気が差したのかも?」
「はぁ、女性の友情とは千切りキャベツのようだ」
「すいません、意味がちょっと分からないです」
「つまり、友情なんて可愛い我が身の添え物なんでしょうよ」
 幾ら嫌味を言われても、さすがのわたしもこれ以上の催促出来ない。
 事務所へやってくれば出勤扱いとみなされる為、ここ数日はマヨネーズとソースを持ち込み、キャベツをひたすら咀嚼する。

「それにロールキャベツにするとか、やりようはあるだろう?」
「……その、挽き肉が」
「あ、あぁ、そうか。すまない」
「いえ、そんな」
 猿楽さんは察してメロンソーダを注ぎ足してくれた。食材はおろか調味料も揃っていない冷蔵庫はメロンソーダとトマトジュースを冷やすのに特化し、キンキンに冷えている。

「といえ、このまま君と向かい合ってキャベツを食べていても仕方がない。別の葬儀社へ話を聞いてみようよ」
「取材の申し込みですか?」
 作家の名を出せば受けてくれる可能性が非常に高いだろう。
「いいや、叔父の葬儀について相談するんだ」
「え? そんな風には見えませんでしたが、お身体を悪くされていたんですね」
「悪くない、今は健康。だが、いつかは死ぬだろう。前もって準備しておくのさ」
 そうと決まればとばかり、猿楽さんはソファーからデスクへ。
 ところでこちらの応接セット、依頼人が座った事はあるのだろうか? スプリングが効きすぎる。

「編集長に怒られません?」
「周辺の葬儀社と病院をピックアップ、あとは該当日時の割り出し、か。ここは交渉しながら探ろう」
 パソコンを起動、中腰でモニターを眺めてわたしの指摘を避ける。
「まず直近で式を執り行える日を聞き出す。それから叔父さんがしぶとく持ち堪えるケースも加味したプランを提示させる。うん、これを何社も試せばいいな」
「幼馴染が務める会社も?」
 出来れば会いたくない、いや会わせる顔がない。わたしはまた甘えてしまい、人身事故に巻き込まれた件を引き合いに出しかねないから。

「△△セレモニーホールだっけ? オッケー、僕が行くよ。君は他の葬儀社を当たっておくれ」