7猿楽探偵事務所にて(蟹沢奈美)
幼馴染が亡くなる3日前
「編集長の叔父さん、見た目は怖そうでしたが良い人でした」
「売り物にならないキャベツをこんなに寄越す人間が善人なら僕は悪人でいい。廃棄するにも金が掛かる時代だぞ? 君、本気で言っているの?」
「はい、わたしはありがたいです。野菜、高いし、キャベツ好きなので」
「……はぁ、クズ野菜に限らず不用品を処分するのは億劫なんだろうな。金田編集長の気持ちが分かる気がした」
段ボール一杯のキャベツを事務所へ持ち帰り、これから土を洗い流す。農園からだとわたしのアパートが近いが、猿楽さんがコートと靴の手入れをしたいと言うので。
「ふふ、トレンチコートと革靴で収穫作業が出来るのか! って怒られてましたね?」
「あのねぇ、僕は君のお見舞いへ行くつもりだったの」
「そうだったんですか! すいません、知らなくて。嫌な言い方をしちゃいました、すいません」
「謝らないで。そうして蟹沢君が笑ってくれるなら、泥だらけになる意味もあろうよ」
思いがけない気遣いに自分の発言が恥ずかしい。農作業も最初は気が乗らなかったものの、やり始めたら夢中だった。終わってみれば頭の中がスッキリし、編集長の言った通りだ。
「悪いが先にシャワーを浴びる。その間に蟹沢君はそれの配分先を決め、ブッシュへおやつをあげて。あ、おやつはキッチンの棚に入れてあるから」
それほど汚れているように見えないが、猿楽さんは綺麗好きなのかもしれない。整理整頓というより必要最低限の家具で構築された空間は体感温度を下げる。ブラインドより漏れる夕陽に誘われて窓辺へ。
「これ、同じ薬」
デスクに置かれた銀色のシートを手に取ってみた。
猿楽さんにも眠れない夜があるんだろうか?
目を閉じると事故現場が浮かびそうな不安に苛まれ、考えるな、思い出さなくていい、けたたましく警笛が鳴る。
あの瞬間、◯◯のコスプレをした男性はーー
「にゃあ」
背後でブッシュドノエルも鳴いた。
「あ、あぁ、おやつね、待っていて」
思考のスイッチが切り替わり、わたしはキッチンへ逃げ込む。
「にゃあ」
ブッシュドノエルは再度鳴いた。
幼馴染が亡くなる3日前
「編集長の叔父さん、見た目は怖そうでしたが良い人でした」
「売り物にならないキャベツをこんなに寄越す人間が善人なら僕は悪人でいい。廃棄するにも金が掛かる時代だぞ? 君、本気で言っているの?」
「はい、わたしはありがたいです。野菜、高いし、キャベツ好きなので」
「……はぁ、クズ野菜に限らず不用品を処分するのは億劫なんだろうな。金田編集長の気持ちが分かる気がした」
段ボール一杯のキャベツを事務所へ持ち帰り、これから土を洗い流す。農園からだとわたしのアパートが近いが、猿楽さんがコートと靴の手入れをしたいと言うので。
「ふふ、トレンチコートと革靴で収穫作業が出来るのか! って怒られてましたね?」
「あのねぇ、僕は君のお見舞いへ行くつもりだったの」
「そうだったんですか! すいません、知らなくて。嫌な言い方をしちゃいました、すいません」
「謝らないで。そうして蟹沢君が笑ってくれるなら、泥だらけになる意味もあろうよ」
思いがけない気遣いに自分の発言が恥ずかしい。農作業も最初は気が乗らなかったものの、やり始めたら夢中だった。終わってみれば頭の中がスッキリし、編集長の言った通りだ。
「悪いが先にシャワーを浴びる。その間に蟹沢君はそれの配分先を決め、ブッシュへおやつをあげて。あ、おやつはキッチンの棚に入れてあるから」
それほど汚れているように見えないが、猿楽さんは綺麗好きなのかもしれない。整理整頓というより必要最低限の家具で構築された空間は体感温度を下げる。ブラインドより漏れる夕陽に誘われて窓辺へ。
「これ、同じ薬」
デスクに置かれた銀色のシートを手に取ってみた。
猿楽さんにも眠れない夜があるんだろうか?
目を閉じると事故現場が浮かびそうな不安に苛まれ、考えるな、思い出さなくていい、けたたましく警笛が鳴る。
あの瞬間、◯◯のコスプレをした男性はーー
「にゃあ」
背後でブッシュドノエルも鳴いた。
「あ、あぁ、おやつね、待っていて」
思考のスイッチが切り替わり、わたしはキッチンへ逃げ込む。
「にゃあ」
ブッシュドノエルは再度鳴いた。


