◯◯家の葬儀

6金田史子の叔父が所有する農園にて(猿楽学)
 幼馴染が亡くなる3日前

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 周辺に建物などない場所で告げられ、もしかしたら蟹沢奈美は人間を化かす妖の類やもしれない。いの一番にこんな発想に至る自分が好きじゃない。
 煙草をくわえ着信履歴をタップ。ミステリー作家の成れの果ては空想とニコチンで肺を膨らめる。
 
「あーもしもし? 送って貰った住所、間違ってないかい? 目の前に畑しかないのだけれど? 僕はお見舞いへ行きたいのだが……」
「あぁ、着いたか? そこは私の叔父が管理する畑だ。今の時期だとキャベツが収穫出来るぞ、せいぜい気張れ」
「と言われましてもキャベツ畑に僕等の子供はいないみたい」
「……」
「そうか、分かった」
 金田の意図が正面から歩いてきた。通話を切る直前「死ね」と短く呪われる。

「やぁ、体調はどうだい?」
「なんとか。ご迷惑をお掛けしてすいません」
「いやいや、誰だってあんな事があれば寝込むさ」
 都市伝説の調査に着手しようとした矢先、蟹沢奈美は駅で人身事故に遭遇。精神的ショックが大きく休職を申し出た旨、編集長の金田から聞いている。
 理由はなんにせよ、金田は蟹沢の休職を好機と捉えるだろう。数多なる作家をねじ伏せた手腕で彼女を退職まで持ち込むストーリーを作り上げるに違いない。

「部屋に閉じこもってばかりじゃ気が滅入るばかりだろ、日に当たって新鮮な空気を吸えって」
「それで農業体験?」
「詳しい内容は聞かされていませんが、猿楽さんもいらっしゃると……」
「なるほど。幼馴染から返事が来てないのを教えてくれようと思ったのかな?」
「あっ、返事がないって分かったんですか? はい、そうなんです。あの、それでーー」
「バディ解消したら会社でますます居場所がなくなるけど? いい?」
 グッ、音を立てて厳しい現実を飲み込む蟹沢。ライターとして首の皮一枚繋がっているのはベストセラー作家の気まぐれの他ならない。

「あ、蟹沢君! あちらが金田編集長の叔父さんかな? 手招きしてる」 
「面識はないんですか?」
「親戚付き合いしでこなかったから。結婚式も挙げてないしね」
 畑へ向かおうとすると彼女も続く。
「……僕も鬼じゃない、君の体調には配慮しよう。その上で聞くよ、やれそう?」
「はい」
 青白い顔で頷いたので補足する。
「叔父さん、僕等をバイトスタッフだと思っているみたい。あれ手招きじゃなくファイティングポーズ。蟹沢君、今すぐ謝ってきて」
 金田史子の叔父は元プロボクサーだ。