狐崎の測定も終了し、俺たちは授業前から整列してた位置に戻る。数分も経たないうちに他のクラスメイトもぞくぞくと戻ってきて、体育の担当による指さし確認が始まった。
「よぉし、全員戻ってきたな。じゃあ今日の授業はここまでだ、測定に使った紙は級長が集めて、俺のところに出してくれ」
『級長いるかー』と呼ばれ手を挙げると、途端に用紙が俺に向かって回ってくる。
全員分の用紙が手元に来たのと同時に『じゃあ解散!』と号令がかかり、瞬く間に生徒が散っていった。
次のホームルームは、生徒が全員揃わないと始めることが出来ない。
俺は急く気持ちを抑えつつ、用紙を名簿順に揃えて提出する。体育の担当は用紙をサッと確認すると感謝を述べ教官室の方へ戻っていった。
振り向くとクラスメイトは既にいなかった──ただ狐崎を除いて。
「先に帰ってても良かったのに」
「そう釣れないこというなや。お仕事お疲れ様やで」
「仕事って言うほどのことしてないけど……。それより早く行こう、ホームルームが始まっちゃう」
狐崎の隣を横切ろうと一歩踏み出した時──。
「級長くん、人に触られんのが苦手なんやろ?」
思考が固まる。分かりやすく目を見開けば狐崎は続けて話す。
「測定ん時……いや昼休みからやな。やたらと人との距離感に敏感やったし、上体起こしの所とか露骨すぎん? あー、あと単純に肌見せんのもアカンっぽそう」
狐崎は袖部分を指さす。
咄嗟に手を後ろに隠すがもう遅い。
悔しいけど当たってる、やっぱコイツは人をよく見てる。というか俺が露骨すぎただけか……いや、そんな事よりまずは。
「ふ、不快な思いさせたなら謝る。ごめん……」
「いやーちゃうちゃう、謝ってほしいとかそういうのやあらへん。さっきの話の続きをしたくてな」
「さっきの話……?」
「何でも一つ叶えたるってやつ。単刀直入に聞くけど、級長くん的にその苦手意識って"なおし"たい?」
『なおす』という言葉に目元がピクリと反応する。
今日初めて会っただけのやつが何様のつもりで。
(……できるものなら)
俺は無意識に頷いていた。
狐崎は「そうか、そうか」と腕を組みながら何かを思案し出す。そして──。
「ふふん、そんな級長くんに良い案があるで。これや!!」
そう言うと狐崎は両腕を広げると大の字のようなポーズになる。
ちょっと、何を伝えたいのか分からない……。というか分かりたくない。
「今の俺は着ぐるみさんや。どこ触っても人感は感じさせへんし、おもちゃと違うて生きとる。こない練習台にピッタリな事あるかい!」
こちらの返答も待たず、狐崎が一歩踏み出す。
もしかして、コイツ……!
「さあ遊園地にいる奴やと思って、たんと甘えてええんやで!」
「ちょ、ちょっと待てって! マジで無理だから!」
狐崎が大の字のままジリジリと寄ってくる。その度、俺も後退りするを繰り返す。
端から見れば愉快な光景なのだろう。だが、俺の胸中はそれどころではなかった。
もう一歩と下がった時、背中が壇上にぶつかった。横に逃げようと考えた頃にはもう遅く、狐崎はもう目の前まで迫っていた。
もう逃げられない。
意味のないことだとわかりながら咄嗟に袖を伸ばす。
『綺麗な肌だねぇ』
思わず目を瞑る。
怖い。怖い。
…………。
──十数秒ほどが経過しただろうか。想像してたような感覚がやって来ることはなく、代わりに頭に軽く触れるだけの温もりを感じた。
徐にまぶたを開く。
「アハハ冗談やって。そんな身体固くせんといて」
男は悪びれもなく、飄々と言ってのける。
自分の体温が急激に上がっていくのが分かった。
俺は力任せに狐崎の手を払いのけると、そのまま逃げるように体育館から出ていった。
「よぉし、全員戻ってきたな。じゃあ今日の授業はここまでだ、測定に使った紙は級長が集めて、俺のところに出してくれ」
『級長いるかー』と呼ばれ手を挙げると、途端に用紙が俺に向かって回ってくる。
全員分の用紙が手元に来たのと同時に『じゃあ解散!』と号令がかかり、瞬く間に生徒が散っていった。
次のホームルームは、生徒が全員揃わないと始めることが出来ない。
俺は急く気持ちを抑えつつ、用紙を名簿順に揃えて提出する。体育の担当は用紙をサッと確認すると感謝を述べ教官室の方へ戻っていった。
振り向くとクラスメイトは既にいなかった──ただ狐崎を除いて。
「先に帰ってても良かったのに」
「そう釣れないこというなや。お仕事お疲れ様やで」
「仕事って言うほどのことしてないけど……。それより早く行こう、ホームルームが始まっちゃう」
狐崎の隣を横切ろうと一歩踏み出した時──。
「級長くん、人に触られんのが苦手なんやろ?」
思考が固まる。分かりやすく目を見開けば狐崎は続けて話す。
「測定ん時……いや昼休みからやな。やたらと人との距離感に敏感やったし、上体起こしの所とか露骨すぎん? あー、あと単純に肌見せんのもアカンっぽそう」
狐崎は袖部分を指さす。
咄嗟に手を後ろに隠すがもう遅い。
悔しいけど当たってる、やっぱコイツは人をよく見てる。というか俺が露骨すぎただけか……いや、そんな事よりまずは。
「ふ、不快な思いさせたなら謝る。ごめん……」
「いやーちゃうちゃう、謝ってほしいとかそういうのやあらへん。さっきの話の続きをしたくてな」
「さっきの話……?」
「何でも一つ叶えたるってやつ。単刀直入に聞くけど、級長くん的にその苦手意識って"なおし"たい?」
『なおす』という言葉に目元がピクリと反応する。
今日初めて会っただけのやつが何様のつもりで。
(……できるものなら)
俺は無意識に頷いていた。
狐崎は「そうか、そうか」と腕を組みながら何かを思案し出す。そして──。
「ふふん、そんな級長くんに良い案があるで。これや!!」
そう言うと狐崎は両腕を広げると大の字のようなポーズになる。
ちょっと、何を伝えたいのか分からない……。というか分かりたくない。
「今の俺は着ぐるみさんや。どこ触っても人感は感じさせへんし、おもちゃと違うて生きとる。こない練習台にピッタリな事あるかい!」
こちらの返答も待たず、狐崎が一歩踏み出す。
もしかして、コイツ……!
「さあ遊園地にいる奴やと思って、たんと甘えてええんやで!」
「ちょ、ちょっと待てって! マジで無理だから!」
狐崎が大の字のままジリジリと寄ってくる。その度、俺も後退りするを繰り返す。
端から見れば愉快な光景なのだろう。だが、俺の胸中はそれどころではなかった。
もう一歩と下がった時、背中が壇上にぶつかった。横に逃げようと考えた頃にはもう遅く、狐崎はもう目の前まで迫っていた。
もう逃げられない。
意味のないことだとわかりながら咄嗟に袖を伸ばす。
『綺麗な肌だねぇ』
思わず目を瞑る。
怖い。怖い。
…………。
──十数秒ほどが経過しただろうか。想像してたような感覚がやって来ることはなく、代わりに頭に軽く触れるだけの温もりを感じた。
徐にまぶたを開く。
「アハハ冗談やって。そんな身体固くせんといて」
男は悪びれもなく、飄々と言ってのける。
自分の体温が急激に上がっていくのが分かった。
俺は力任せに狐崎の手を払いのけると、そのまま逃げるように体育館から出ていった。
