野獣の呪いが解けても、──愛してくれますか?


 昼休みを明け、俺たちは体育館に集結していた。
 体操着の袖を伸ばす。まだ肌寒さは残りつつも、そろそろ衣替え完了の時期だと感じる。

「よーし全員集まったなー。それじゃあ今日の授業は体力測定だ。計測する人と実施する人とでペアを作ってくれ」

 体育の担当がそう言うと、ぞろぞろとペアが出来ていく。

「級長くん! それじゃあよろしくな〜」

 狐崎が早速来た。というか本当にその格好で体育するんだ。
 他のクラスメイトたちも同じ事を思っていたようでチラチラとこちらに視線を向けてくる。鬱だ。

 始めは反復横跳び。
 狐崎の体幹が良いのは自己紹介の時から知っていたが、測定中に一度も頭がグラつかないとは思わなかった。

 本人曰く、足の長さを生かして上半身の動きを最低限に抑えていたのだとか。
 『去年より回数減ってもうた』なんて落ち込んでたけど、俺の回数は平気で超えてる。……なんか悔しいから慰めないでおいた。

 次は50メートル走。
 陸上部の高橋くんはクラスで一番の俊足。去年は一年の身でありながら全国大会に選抜されたのだとか。 
 ……その高橋くんと良い勝負をするコイツはなんなんだ。

 ホイッスルの合図とともに狐崎と高橋くんを含む4名が走り出す。
 高橋くんの圧勝かと思いきや、狐崎が怒涛の勢いで駆け出すと二人の並走がゴール直前まで続いた。

 結果としては高橋くんが1位、狐崎が2位。
 二人の走りを見て、何故か周りがはしゃぎ出す。その騒ぎを察知してか、教室からも拍手と歓声まで飛んでくる始末。
 収拾がつかなくなる前に狐崎を連れ、俺は体育館内へと避難した。

 ──と、そんなこんなで測定を回っていき、気づけば測定の数も残りわずかとなっていた。

(後は長座対前屈と上体起こし……ここから近いのは長座対前屈の方か)

 俺たちは指定の場所へと移動をする。
 目の前には段ボールで作られた測定機とメジャーが等間隔に並ぶだけで人の姿はない。

 壁に背を預け、測定へと移る。
 前半のバタつき具合に比べ、今は少し余裕が出来たおかげか狐崎と会話が生まれる。

「お前よくそんな格好で測定できるね」
「級長くんこそ長袖長ズボンで暑ないの? 寒がりなん?」
「別にそういうわけじゃないよ、ただ肌をあまり出したくないだけ」
「ふ〜ん、乾燥肌とかなん?」
「……そんなとこ」

 会話がパタリと止む。
 ああ、またやってしまった……。

 こういう話になるとすぐ会話をぶつ切り終了してしまう。仕方がないとはいえ、自分で話を振った手前これは流石にまずい。
 何とか別の話題をひねり出す。

「そ、それより! 何でも一つ叶える?って話なんだけど」
「おっ! なんか決まったんか!」
「いや、やっぱすぐには浮かばなくて……。何か案があれば教えてほしいんだけど」
「案か〜。一個引っかかっとる事はあるんやけど、確証がまだないんよな〜」

(引っかかること?)

 何のことだと聞くが狐崎は生返事をするだけで、もう一度聞けば、今度はあからさまに話題を逸らされた。
 どうやら確証とやらが得られるまで答える気はないらしい。

 最後は上体起こし。
 計測する人が実施する人の足を支える事で、安定した回数を出すのが基本ではあるが……。

「俺、支え要らないから」

 狐崎の返事を待たずにマットに仰向けになる。
 『支えがないと回数稼げないで!』とか言われるんだろうなぁ……。 

 あらかじめ用意してた言い訳をいくつか頭に並べておく。
 ──が、意外なことに狐崎は何も言わず、そのまま計測を始めてくれた。

 そして、何故か分からないが、交代した狐崎も支えは要らないと言ってきた。
 まあ、その方がありがたいけど……。