いつの間にか、足元に落ちたパンくずをアリが持っていく。
そうだ、級長なんて全然大した事ない事じゃないか。東雲はもっと大変な思いをしてるんだ。
軽く深呼吸をする。少しだけ気が解れ、ようやく食欲が復活する。
不安を飲み込むかのように、二口目のパンに口をつけたその時だった──。
「やあ、こんにちわ〜」
「っ?!」
文字通り身体が飛び跳ねた。
ずっと渦中にいたはずの狐崎が目の前にいたのだ。
「探したで? いや〜やっと一人きりの時間ができてな。ここまで来るのも一苦労やったわ〜」
「え、あの、俺に何か……?」
「ちょお君に話があんねん。ここ座るで」
そう言うと、狐崎が隣に座る。
どこに目を合わせればいいんだろうか。やはり目の部分? 着ぐるみと会話だなんて、小学生の頃にした限りだ。
しかも、その時はこちらが一方的に話しかけるだけで、向こうは声すら出してない。
「それで……話ってなんですか?」
「敬語やめようや、俺たち同級生やで?」
同級生に見えねえよ。
徐に距離を取り、"肌"を見せないように袖を伸ばす。
「先生から聞いたで。なんや色々とあって今君が級長らしいやん」
「まあ、そうだけど」
「なるほどな、じゃあこれから色々よろしくな〜」
「は?」
話が見えない。結局何を言いに来たんだ。
「ほら、俺こんななりしてるやろ? やからそれをサポートしてくれる人が必要でな。それを級長くんにお願いしたいな〜、なんて……」
「な、何で俺がそんな事を!」
「やろ? やからその代わりに、級長くんのお願い何でも一つだけ叶えたるってのはどうや!」
「いやいや、そんなの別に要らないから!」
「御生やって! 面倒な事はさせへんから! 形だけの関係でもええから、な? な?」
狐崎は掌を合わせ、拝むかのように懇願してくる。
(何なんだコイツは……)
決して根負けした訳じゃない。
ただ、これ以上騒いで人の目を集めるのだけは避けたかった。
「わ、わかった! わかったからこれ以上騒ぐなって!」
「ホンマか?! いや〜ありがと〜! 級長くんは命の恩人やで!」
グイッと身体を寄せてくる狐崎に、反射的に身体が仰け反る。あーもう、一体なんだって言うんだ……!
昼休みの終わりを告げるはずのチャイム音が、何かの幕開けかのように聞こえたのは後にも先にもこれだけだった。
