休み時間になると、予想通り、狐崎の周りには人だかりが出来ていた。
「苗字に狐って入ってんのになんで犬なの?」
「俺も思ったんやけど、どうしてもコイツしか用意できない言われてなぁ」
「ねえ、本当に中に人が入ってんだよね?」
「そらそーや。今どき夢と希望だけじゃ着ぐるみかて動いてくれへんで」
「じゃあ、ご飯食べる時ってー」
……とまあ、こんな感じに次から次へと質問が来ては返事をするの繰り返し。
一番気になる「何で着ぐるみを着ているの?」という質問も開始早々に答えており、一言で言うと『一身上の都合でどうしても着ぐるみを着る必要がある』……だとか。
何だ、一身上の都合で着ぐるみを着るって。そんなものがあってたまるか。
確かにうちの学校では、服装に対して決まりはないし、何を着る分にも本人の自由と言える。だが、それはあくまで規則の部分だけを見た場合だ。空気感で言えば基本、生徒が着て良いのはブレザーという風潮は確立されつつあるし、現にブレザーを着ていないのは全体の1割にも満たない。
節度をみなさなければの言葉も、着ぐるみ相手は流石に看過できないだろ!
あまりの不届きさに呆れと怒りが交互にやってくる。
こんなの入れるなんて、先生たちも一体何を考えているんだ。
(……それにしても)
未だ質問の中心にいる狐崎を見る。
「変に律儀な奴だなぁ……」
思わず口に出てた。
返答の内容は置いといて、聞かれたことには素直に答えるし、質問相手にもちゃんと顔を向ける。全体に向けて話す時は、話の区切りごとに向いている視線を切り替えていたりと、会話の要所要所に相手への思いやりが組まれていると感じた。
(あんな格好じゃなければ、こっちも素直に称賛できたのに……)
そんな事を考えていた時だ。
「新島くん」
「はぃい?!」
急に声をかけられ、思わず声がうわずる。さっきまで教卓にいた朝倉が、いつの間にか俺の隣にいた。何だかバツが悪そうな表情に見えるが……。
「な、なんですか」
「あーその"東雲くん"のことで話があるんだが」
体温が一気に下がっていくのがわかる。そうだ、一番大事なことを忘れていた。
「やはり、こっちにはしばらく帰ってこれないみたいでね。君が東雲くんの代役として"級長"をやってくれないかな? 副級長はこっちでまた決めておくから」
断る選択肢はなかった。
「……はい」
決して表情には出さずに、短く返事だけする。それを了承と捉えた朝倉はとくに追求することもなく、人で詰まった入口を押し退けて出ていくのだった。
