十月中旬。
新幹線に乗り込み、他電車を乗り継いで、一時間と三十分。到着したのは修学旅行の定番──京都市中心部。
修学を一通り終え、俺たちは自由時間へと移っていた。
「何でお前と一緒やねん!」
「グループでの移動なんだから仕方ないじゃん」
グループは俺、狐崎、東雲の三人で移動する事になった。
狐崎は東雲と折り合いが良くないのか、こうやって衝突する事が多い。決して嫌い同士というわけじゃないとは思っているが……。
「じゃあ早速ここ行こうよ。次は清水寺行って……」
「そないペースで進んどったら回りきれんやろ。ここはまずこのエリアから進んで……」
二人揃ってスマホを見せつけ合う。
……これは先が思いやられる。
ホテルとの距離感的にあまり遠出はしない方がいい。というか、禁止だ。
ある程度行動を自由にしてる分、移動範囲は絞らないと生徒がバラバラになりすぎてしまうからの措置だ。
最初こそブーイングはあったが、有名ドコロはひと通り回れると、担任からの説明を聞いて、クラスメイトたちもその矛を収めた。
周囲を見渡す。京都の街並みは何処を見ても風流だ。
美麗な木造建築と瓦屋根。白い肌と紅色の唇をした舞妓さん。舞妓さんは視線が合えば、そっと微笑みながらペコリと頭を下げてくれた。観光客が舞妓さんに是非会ってみたいと答える理由が何となく分かった気がした。
俺たちは団子が評判の茶屋にて一服する。
案内されたテラス席に座れば、正面を通行する観光客の姿が確認できた。
学校やラックィーランドとは違い、狐崎をチラリと見る観光客はいれど、写真を強請ってくる人はいなかった。
まあ、所謂ジャンル違いと言う奴なのだろう。こういう風情のある場所だと、狐崎みたいなアニメチックな着ぐるみよりも、鎧武者や舞妓さんと一緒に写真を撮った方が映えるから。
東雲はトイレのため席を外していた。久しぶりの二人きりに何を話そうか頭をひねって、一つ浮かぶ。
「そういえば、ここってお前の地元なの?」
「いんや。俺の住んでたとこはもっと大阪寄りの方やな。やから正直ここいらの地理はそこまでやな」
「そうなんだ。じゃあここらへんでお前の知り合いには会えないか」
「まあ、そうやな」
暫くの沈黙。
何だか前より会話がぎこちなく思う。
俺自身、あの日の答えが出ていないことも要因の一つだが、狐崎も狐崎で、俺との間に何か線を引いてるような気がした。
自由行動はあっという間に終わり、学生は皆、指定されたエリアへと集合をする事となった。
教師一同は生徒が全員が揃ったのを確認すると、ホテルへと誘導を始めた。
ホテルというより旅館に近い内装は、木の香りを微かに漂わせ、それが俺の鼻をくすぶった。
案内された部屋は畳に掛け軸、障子などと、典型的な和モダンな造形だった。
部屋の割り振りは一部屋につき六人で構成され、狐崎、東雲とは別部屋になってしまった。
(アイツ、俺がいないで大丈夫かな?)
別れ際の狐崎の姿が頭に浮ぶ。
狐崎の事情を知らない人からしたら、修学旅行のノリで着ぐるみ脱げみたいな流れにもなりかねない。
かといって部屋を変えてくれというのは、無茶振りなきもするし。
狐崎とのメッセージ履歴を開き直して数度目。いい加減何かメッセージでも送ろうとした時だ。
「新島くんも一緒にトランプで遊ばない?」
同部屋のクラスメイトがそう言って、部屋の中央部を指差す。そこには既に人の円が形成され、トランプの山札をシャッフルしていた。
夕食まではまだ数十分ある。ここで燻っているくらいなら、溜まったフラストレーションを発散した方が後々のためになるだろう。
俺はその誘いを二つ返事で受け入れた。
◇
夕食は地元で採れた野菜の天ぷらや魚の刺身、卓上鍋が生徒一人づつに振る舞われた。
生徒全員が一部屋にまとめられていて、東雲ともそこで再会できたが、狐崎の姿は最後まで見つける事ができなかった。
夕食が終わり、皆が温泉に行くのを見計らって、俺は部屋に備え付けられたユニットバスへと向かう。
和に彩られた部屋とは違い、なじみ深い現実感が俺を出迎えた。
湯船に浸かれば、今日の疲労と汗が溶け出てゆく。
目を瞑ると、睡魔に誘われるように、身体と意識が沈んだ。
(静かだ……)
先程まで賑やかな空間に囲まれていただけあって、この閉鎖感は一抹の寂しさを覚える。
こんな"呪い"がなければ今頃は俺も、クラスメイトたちと一緒に裸の付き合いとやらが出来ていたはずだ。
俺だけが世界から孤立して、ずっとこのまま縛られ続ける。そう思うと、無性にやるせない気持ちになった。
(あ……)
ふと狐崎のことが頭に浮かぶ。
アイツも俺と同じで、今頃一人で風呂に入っているのだろうか。
人前で肌を見せれない。そういう意味では俺も狐崎も同じ境遇なんだなと気づく。
俺と狐崎に共通点があるなんて、今まで考えたことも無かった。自分とは真逆で、関わることが出来たのも、たまたま巡り合わせがあっただけなのだと、そう思ってた。
それこそ、この呪いがなければ出会うすら叶わなかったと思う。
不安を洗い流すように両手でお湯をすくい、顔にかける。
固まった表情が解れたのを確認した後、俺は風呂を後にした。
新幹線に乗り込み、他電車を乗り継いで、一時間と三十分。到着したのは修学旅行の定番──京都市中心部。
修学を一通り終え、俺たちは自由時間へと移っていた。
「何でお前と一緒やねん!」
「グループでの移動なんだから仕方ないじゃん」
グループは俺、狐崎、東雲の三人で移動する事になった。
狐崎は東雲と折り合いが良くないのか、こうやって衝突する事が多い。決して嫌い同士というわけじゃないとは思っているが……。
「じゃあ早速ここ行こうよ。次は清水寺行って……」
「そないペースで進んどったら回りきれんやろ。ここはまずこのエリアから進んで……」
二人揃ってスマホを見せつけ合う。
……これは先が思いやられる。
ホテルとの距離感的にあまり遠出はしない方がいい。というか、禁止だ。
ある程度行動を自由にしてる分、移動範囲は絞らないと生徒がバラバラになりすぎてしまうからの措置だ。
最初こそブーイングはあったが、有名ドコロはひと通り回れると、担任からの説明を聞いて、クラスメイトたちもその矛を収めた。
周囲を見渡す。京都の街並みは何処を見ても風流だ。
美麗な木造建築と瓦屋根。白い肌と紅色の唇をした舞妓さん。舞妓さんは視線が合えば、そっと微笑みながらペコリと頭を下げてくれた。観光客が舞妓さんに是非会ってみたいと答える理由が何となく分かった気がした。
俺たちは団子が評判の茶屋にて一服する。
案内されたテラス席に座れば、正面を通行する観光客の姿が確認できた。
学校やラックィーランドとは違い、狐崎をチラリと見る観光客はいれど、写真を強請ってくる人はいなかった。
まあ、所謂ジャンル違いと言う奴なのだろう。こういう風情のある場所だと、狐崎みたいなアニメチックな着ぐるみよりも、鎧武者や舞妓さんと一緒に写真を撮った方が映えるから。
東雲はトイレのため席を外していた。久しぶりの二人きりに何を話そうか頭をひねって、一つ浮かぶ。
「そういえば、ここってお前の地元なの?」
「いんや。俺の住んでたとこはもっと大阪寄りの方やな。やから正直ここいらの地理はそこまでやな」
「そうなんだ。じゃあここらへんでお前の知り合いには会えないか」
「まあ、そうやな」
暫くの沈黙。
何だか前より会話がぎこちなく思う。
俺自身、あの日の答えが出ていないことも要因の一つだが、狐崎も狐崎で、俺との間に何か線を引いてるような気がした。
自由行動はあっという間に終わり、学生は皆、指定されたエリアへと集合をする事となった。
教師一同は生徒が全員が揃ったのを確認すると、ホテルへと誘導を始めた。
ホテルというより旅館に近い内装は、木の香りを微かに漂わせ、それが俺の鼻をくすぶった。
案内された部屋は畳に掛け軸、障子などと、典型的な和モダンな造形だった。
部屋の割り振りは一部屋につき六人で構成され、狐崎、東雲とは別部屋になってしまった。
(アイツ、俺がいないで大丈夫かな?)
別れ際の狐崎の姿が頭に浮ぶ。
狐崎の事情を知らない人からしたら、修学旅行のノリで着ぐるみ脱げみたいな流れにもなりかねない。
かといって部屋を変えてくれというのは、無茶振りなきもするし。
狐崎とのメッセージ履歴を開き直して数度目。いい加減何かメッセージでも送ろうとした時だ。
「新島くんも一緒にトランプで遊ばない?」
同部屋のクラスメイトがそう言って、部屋の中央部を指差す。そこには既に人の円が形成され、トランプの山札をシャッフルしていた。
夕食まではまだ数十分ある。ここで燻っているくらいなら、溜まったフラストレーションを発散した方が後々のためになるだろう。
俺はその誘いを二つ返事で受け入れた。
◇
夕食は地元で採れた野菜の天ぷらや魚の刺身、卓上鍋が生徒一人づつに振る舞われた。
生徒全員が一部屋にまとめられていて、東雲ともそこで再会できたが、狐崎の姿は最後まで見つける事ができなかった。
夕食が終わり、皆が温泉に行くのを見計らって、俺は部屋に備え付けられたユニットバスへと向かう。
和に彩られた部屋とは違い、なじみ深い現実感が俺を出迎えた。
湯船に浸かれば、今日の疲労と汗が溶け出てゆく。
目を瞑ると、睡魔に誘われるように、身体と意識が沈んだ。
(静かだ……)
先程まで賑やかな空間に囲まれていただけあって、この閉鎖感は一抹の寂しさを覚える。
こんな"呪い"がなければ今頃は俺も、クラスメイトたちと一緒に裸の付き合いとやらが出来ていたはずだ。
俺だけが世界から孤立して、ずっとこのまま縛られ続ける。そう思うと、無性にやるせない気持ちになった。
(あ……)
ふと狐崎のことが頭に浮かぶ。
アイツも俺と同じで、今頃一人で風呂に入っているのだろうか。
人前で肌を見せれない。そういう意味では俺も狐崎も同じ境遇なんだなと気づく。
俺と狐崎に共通点があるなんて、今まで考えたことも無かった。自分とは真逆で、関わることが出来たのも、たまたま巡り合わせがあっただけなのだと、そう思ってた。
それこそ、この呪いがなければ出会うすら叶わなかったと思う。
不安を洗い流すように両手でお湯をすくい、顔にかける。
固まった表情が解れたのを確認した後、俺は風呂を後にした。
