親友と同じ顔の騎士団長に、猛烈に口説かれています

 そんなわけがない。頭ではわかっている。
 それでも今俺の目の前にいる人物が転生前の元いた世界で俺の親友であった人物と同じ顔をしているのだ。

 しかし違う点もある。髪色だ。
 親友である沢田悠一は一度も髪を染めたことのない綺麗な艶のある黒髪だったと記憶しているが、今目の前にいる親友と同じ顔の男は少しだけ暗めのシルバーカラーの髪色で光に当たることで、透明感溢れるそんな髪色だ。

 「ゆう…………いち?」
 「ユーイチ? 誰だそれは? 俺はリオ・クライシスだが?」
 「あ、え、あ、いや。リオ第三騎士団長でしたか。失礼いたしました。俺は第一騎士団サポート部所属のトーラス・オルシルクと申します。」
 「ほう、お前がトーラスか。噂は聞いているぞ。」

 俺は今激しく動揺している。
 声までもが親友の悠一と同じモノなのだ。
 他人の空似にしては似すぎている。ここまでくれば悠一もこの世界に転生したのではないかと疑うほどだ。

 しかしそれはないだろう。
 まず始めに、俺の顔が転生前のモノとは一切異なるということが挙げられる。俺はこの世界ので両親であるグランとレヴィの顔のパーツをそれぞれ受け継いだ顔をしており、転生前の顔とは似ている部分を見つけることが困難であるほどだ。
 二つ目に年齢が挙げられる。俺は元いた世界で交通事故に合い、死んだことでこの世界に転生したと記憶している。この世界で約二十年間過ごしているわけだが、目の前のリオ・クライシスは俺よりも年上に見える。本当に年上なのであれば悠一は俺より先に元の世界での生を終え、この世界に転生したことになる。しかし俺が死んだのは悠一とユイさんの結婚式当日であり、悠一が俺より先に死んだということは考えづらいだろう。
 年上に見えるのはもしかしたら髪色もあるのかもしれないが、悠一と同じ顔であるにも関わらず、悠一よりも大人の余裕というか、大人としての色気を感じる。
 そう言えば昨日話した第三騎士団の騎士がかなりの美形で異性からだけではなく、同性からも絶大的な人気を博していると言っていた気がする。
 同性はわからないが、女性からの人気はこの色気にあるのだと納得した。

 そんなことを考えていると、地響きがするほどのオーガキングの雄叫びが響き渡った。
 つまりオーガの武器の属性が変化したということだ。
 医療班のテントで油をうっている場合ではない。早く前線に戻らなければ。
 しかしその雄叫びにより、この医療班のテントを襲撃しようとしているオーガの足音に気づくことができなかった。
 気づいたときには医療班のテントの布は破られ、巨大な棍棒を振りかざしたオーガに背後を取られていた。

 心拍が一気に跳ね上がるのがわかる。
 俺は咄嗟にこの場にいる全員をかばうように両手を広げる。

 かばうのはいいのだが痛みに慣れているわけではなく、目を瞑っていたが一向に痛みを感じることはなかった。
 恐る恐る目を開けると、そこには左手でオーガの棍棒を受け止め、右手で持ったその日本刀のような細長い長剣でオーガを切り込んでいるリオ第三騎士団長の姿が目に入った。

 「……え?」
 「さすがは第一騎士団所属ということか。自分の身を呈してこの場にいる者を守ろうとするその勇敢さは認めるが、防御魔法も使わずにというのはあまりにも無謀ではないか?」
 「っ何やってんだよ!」

 俺は俺を助けてくれたことへのお礼ではなく、リオが自身の左腕を犠牲にしてまでこの場にいる全員を守ったことへの怒りが先行してしまった。
 俺は棍棒の衝撃で痛めたであろうリオの左腕を引っ張り、簡易回復を施す。
 リオの左腕は折れてはいないが、おそらくヒビが入っているのだろう。俺の簡易回復では完治させることはできない。だが痛みを軽減することは出来るだろう。

 「くっそ……。すみません、一名の患者追加です。左腕は折れてはいませんがヒビが入っていると思います。治療をお願いします!」
 「おい! トーラスと言ったか。この程度の怪我で俺が戦えないと言うのか?」
 「そんなこと言ってないだろ! 怪我人は治療を受けてろ!」

 この世界に転生して、こんなにも口調が荒くなったのは初めてだ。
 きっとこれは親友と同じ顔をした人物が自身の危険を顧みずに俺を庇ったことへの怒りだろう。
 これが悠一《しんゆう》であったとしても俺は声をあげて怒っているはずだ。
 そんな悠一《しんゆう》と同じ顔をしているリオ第三騎士団長はなぜ自分が怒られているか理解していないのか、鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情を浮かべていた。
 俺は不機嫌な状態のままリオ第三騎士団長を投げるように医療班に渡すと「治るまで大人しくしてろよ!」と言い残し、討伐遠征の移動時に使用していた体を軽くする魔法を行使し、水面を跳ねるような軽やかな足取りでオーガキング討伐の前線に復帰する。

 俺の後ろで何やら騒いでいる声は聞こえるが、俺は聞こえないふりをした。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 「今回のオーガキング討伐遠征において、ただの一人として死者を出さなかったのは医療班のサンズ、ルーカス、リア、アナタシア、フォグの献身的なサポート。そして第一騎士団サポート部所属のトーラスの力添えがあってこそ成し遂げることができたと言っても過言ではないだろう。そんな彼らへの感謝とオークキング討伐を祝して……」

 「「「かんぱーーい!!!!」」」

 三週間にも及ぶ討伐遠征が終了し、国に戻ってきた俺たち第一騎士団と第三騎士団は合同でオークキング討伐祝杯を称した飲み会を行っており、俺もその飲み会に参加していた。
 この世界は十歳で騎士団の候補生として騎士団に入団するほどであり、元いた世界よりも飲酒が可能な年齢の基準が非常に低く、この世界では十五歳から飲酒が可能なのだ。また騎士団は上官の命令は絶対であり、例に漏れず俺も十五の年で飲酒をした(させられた)のだが、俺はこの世界でもアルコールが苦手らしい。
 というのも、元いた世界では二十七歳にしてビールをまともに飲めた試しがない。あの苦さのなにが美味しいのか理解することはできなかった。ワインやハイボール、焼酎など様々なアルコールを試しはしたが俺の口には合わず、ちびちびでいいのであればアルコール度数の低いカクテル程度は飲むことはできたが、飲み会を楽しむことができないレベルだ。

 つまりどういうことか。
 今行われているこの祝杯と称した飲み会も楽しむことができないのだ。

 そのため俺は、盛り上がっている飲み会をそこそこに外の空気を吸うため会場を出る。夜になると外の空気は冷たく、盛り上がっている宴会会場とは違い、何かを羽織ってもいいくらいの気温だ。
 俺は別に好きでもない星を眺めながら、一人の時間をそれなりに満喫していた。

 「お前は飲まないのか?」

 不意に背後から声がして振り返ると、そこには第三騎士団団長でもあり、俺の親友と同じ顔を持つリオ・クライシスの姿があった。
 急に声を掛けられ驚いたからか、前世の親友と同じ顔にまだ同様しているのかはわからないが、声が裏返りそうになりながらも挨拶を交わす。

 「こ、こんばんわ。リオ第三騎士団長。そういうリオ第三騎士団長は飲まれないんですか?」
 「酒は嫌いではないが、浴びて飲むほど好んではいない。」
 「そうなんですね。俺はシンプルに酒が苦手なんですよ。だからちょっと涼みに外に出た感じですね。」
 「……そうか。」
 「はい……。」

 な、なんだ?
 会話が続かない。
 リオ第三騎士団長は俺に何か用事があって声を掛けたのではないのだろうか?
 ……もしかして討伐遠征時にリオ第三騎士団長相手に怒鳴ってしまったことへの罰則をしにきたのだろうか。それならいくら団長とは言えど言い出しづらい内容だろうし、会話が続かないのも納得がいく。
 こういった場合はどうするべきか。
 素直に謝罪をするのが一番だ。

 「も、申し訳ございませんでした!」

 三人称視点であればきれいに直角に折れ曲がっていることだろう。俺はリオ第三騎士団長に深々と頭を下げた。

 「ナニがだ? お前は俺に謝らなければならないようなことをしたのか?」
 「えっと、討伐遠征時に怒鳴ってしまったことへの罰則をしにきたんですよ……ね?」
 「お前には俺が自分のことを気遣ってくれた奴に対し罰を与えるような人間に見えるのか?」
 「い、いえ! 滅相もありません!」
 「……助かった。礼を言う。」

 そういうと今度はリオ第三騎士団長が俺に頭を下げた。それは俺が下げたときほど深々としたものではないが、騎士団長という上官が俺のような騎士にもなれない裏方部門に頭を下げるなど思いもしなかった。

 「え、いや、え! 何してるんですか? ちょ、頭上げてくださいよ!」

 俺は突然のことに驚きながらも、上官に頭を下げさせるわけにはいかないため必死に頭を上げるように身振り手振りを繰り返す。
 俺のジェスチャーに気づいたのか、リオ第三騎士団長は大きなため息を吐きながら頭を上げた。

 「俺はお前にお礼を言っちゃいけないわけ?」
 「そ、そういうわけではありません!」
 「じゃあ何?」
 「リオ第三騎士団長は俺からしたら上官なわけです。俺のような裏方部門に頭を下げるなんて……」
 「俺は世話になった人に礼も言えないような人間だと思われてるわけ?」
 「そういうわけでは……」

 上官ではあるものの、悠一《しんゆう》と同じ顔の人間に責められている気がしてどうも落ち着かないし、リオ第三騎士団長は”冷酷騎士”と呼ばれるような人物ではなくどちらかというと誤解されるような言い方をしているだけで、本当は心優しい人物なのではないかという噂と現実の相違に理解が追いつかず、今リオ第三騎士団長にどんな言葉をかければいいかがわからなかった。

 「……リオでいい。」
 「え?」
 「呼び方。団長まで言わなくていい。」
 「そんな上官を呼び捨てになんてできないですよ。」
 「エリース第一騎士団長のことは敬称は付けてるけど、団長呼びしてないよね?」
 「うっ……では……リオさん?」
 「ん。お腹空いてない?」
 「そ、そうですね……。会場ではそんなに食べていないので。あ、もしかしてお腹空きました? 俺取ってきましょうか?」

 俺の投げかけた質問に回答するわけではなく、リオはまるで俺の質問を聞いていなかったかのようにマイペースに話を進める。

 「じゃあ行こっか。」
 「え?」
 「ご飯。」
 「え?」