親友と同じ顔の騎士団長に、猛烈に口説かれています

 「えっと、俺がここにいて大丈夫なんですか?」

 リオの父親にランチに誘われ訪れた先は王宮内にある食堂であった。
 王宮内にある食堂は騎士団寮の食堂とは大きく異なっており、騎士団寮の食堂はどちらかと言えば元いた世界の学食に近いもので、自身がその日食べたいメニューを伝える形式なのだが、王宮内の食堂はビュッフェ形式の食堂であり、自分で好きなメニューを選んで取るスタイルのようで、王宮に仕えているわけではない俺が取っていいものかわからず、怯えるようにリオの父親に問いかけた。
 それを聞いたリオの父親は俺の質問の意図が伝わっていないのかきれいに首を傾げ「なんの問題がある?」と逆に問いかけてきた。

 「俺別に王宮に仕えているわけじゃないんですけど……」
 「ん?」
 「ここって王宮内にある食堂じゃないですか? ただ依頼品を納品しにきただけの俺が使ってもいいんですか?」
 「え、いいでしょ。ダメだったとしても私といるから大丈夫だよ。あ、取り分けてあげようか。これがおすすめだよ!」

 そう言うと俺の持つトレーに次から次へとおすすめを乗せていく。
 その姿は雛鳥に食事を分け与える親鳥のような姿で、トレーがいっぱいになるとそのまま騎士団寮の長机とは段違いに長い王宮内食堂にある長机に腰を掛ける。

 「さあさあいっぱい食べてね。おかわりも自由だよ!」
 「あ、ありがとうございます……」
 「私のおすすめはこのステーキ肉だよ。たまねぎソースとの相性が良くてね」
 「ありがとうございます。ん! おいしいです!」
 「ほんと? よかったよ」

 俺は王宮の食堂の美味しさに虜になり、会話そっちのけで食事に夢中になる。
 こんなコトを言ってしまうと、俺のこの世界での父親であるグランが発狂するかもしれない。グランは第二騎士団寮の食事を作っているシェフであり、実家にいたことはそれなりに美味しい食事を食べさせてもらっていたし、現在の第一騎士団寮の食事も希望の味付けでかなり美味しいと思えるのだが、今食べているものは食材の質が違うと言えるだろう。
 例えるなら、高級ホテルで食べる食事もチェーン店のファミレスで食べる食事もどちらも美味しいと思うことに変わりはないが、美味しさの感じ方が違うということだろう。
 きっとグランも同じ食材を使ってよいのであれば、同じような食事を作ることが出来るかもしれない。
 そんなコトを考えながらその美味しい食事に夢中になっていた俺だが、目の前から感じる熱い視線に気づき、俺の置かれている状況を思い出した。

 「えっと、失礼いたしました。あまりの美味しさに……」
 「いや全然大丈夫だよ。それにいっぱい食べることはいいことだ」
 「……あの! 俺に何か用があったんですよね?」

 俺にはわかる。
 リオの父親がわざわざ俺と食事をしたいなどと普通声を掛けるわけがない。
 それは相手は爵位持ちで俺は一般階級だからだ。
 それでも目の前の男は俺に声をかけた。
 と、いうことは十中八九リオとの関係のことだろう。
 リオの父親は俺からの声かけを待っていたかのように話し始めた。

 「まずは自己紹介からだよね。改めましてリオの父親のライフォン・クライシスです。どうぞよろしく」
 「は、はい。よろしくお願いします」
 「じゃあ単刀直入に聞くけど……息子とは……リオとはどういう関係なの?」

 きた!俺は長机の下で拳を握りしめ、額には汗を滲ませていた。
 絶対にこの手の質問がくると睨んでいたのだ。
 いくら同性婚が認められているとはいえ、お貴族様がする意味のない同性婚をする必要はない。親としては阻止したいに決まっている。

 「そのリオさん……じゃなくて、リオ第三騎士団団長とは噂されているような関係はなく、食事に誘っていただいたり、なぜか第一騎士団寮にきて俺の部屋で勝手に寝たりしているだけで、本当に何もないんです!」

 どちらに転ぶかはわからないが、今は真実を話すしかないだろう。
 ここで変に嘘をついたところで状況は悪化するかもしれない。そうとなれば俺は今この場で首が飛ぶかもしれない。
 今この状況で取るべき最善の策は誠心誠意、ライフォンの質問に答えるのが正しい行動だ。

 「……は、ハハハハハッ!」

 ライフォンの反応は俺の想像していたモノではなかった。

 「え?」
 「トーラス。君だからリオは心を許したんだろうな」
 「ど、どういうことですか……?」
 「まずはトーラス。君をお礼を言おう」

 そう言うとライフォンは座ったままではあるが、長机に顔を伏せるほど低く頭を下げていた。
 これは非常に良くない。
 お貴族様に頭を下げさせる一般階級がいるだろうか。いや、いるわけがない。謝罪時ならまだしもお貴族様にお礼を言わせ、更に頭を下げさせるなんてことがあったいいわけはない。
 元居た世界では、例え目上の人間であってもお礼を述べるときはお礼をいう者が頭を下げることがあったが、貴族制度があるこの世界では貴族がお礼を言うときには礼を言われた側が礼を言われたことへの感謝を表すために頭をあげることがある。
 そのため現在の状況は、ただただ貴族に頭を下げさせている一般階級の出来上がりだ。
 見方によっては本当に良くない。

 「あ、頭をあげてください! それに俺になら先ほど受けておりますから!」
 「先ほどのお礼は備品を修理してくれたことへのお礼だよ。今のこのお礼はリオと仲良くしてくれたことへのお礼だよ」
 「仲良くしてくれたことへの……お礼?」
 「リオは貴族の出だが騎士団の候補生になったんだよ。候補生は皆が同じ階級とはいえ貴族というだけで仲良くなった子はいなかったそうだよ。リオ本人もどう接すればいいか分からなかったみたいだね」
 「そう……なんですか? 今は第三騎士団団長として部下の方からも慕われているようにも見えますし、人気も高いって聞きましたけど」
 「それは今のリオの姿でしょ。団長になったことで貴族とか階級に捕らわれずリオ自身の実力を見てくれる人が増えたってことだろうね」

 ライフォンはまるで親の表情だ。
 いや、実際にリオの父親ではあるんだが、息子の話をしている父親はこんなにも誇らしげな表情をするもんなのかと、こちらも不思議と嬉しくなる。

 「リオは十歳で候補生になったけど、近所に年の近い子もいなかったし、友達って呼べる子がいなかったんだよね。だから候補生になってからも周りと馴染めなかったみたいだよ。もっとはやくトーラスに出会っていたら違っていたんだろうね」
 「え、どうしてそこで俺が出てくるんですか?」
 「だってトーラスはリオに怒鳴ったんでしょ?」

 俺の首は本当に今日飛んでしまうのかもしれない。
 まさか先日の討伐遠征の時に俺を庇って怪我をしたリオが、怪我を顧みずそのまま戦いに行こうとしている姿を見て、怒鳴ってしまったことを知られているとは思っていなかった。
 いや貴族を怒鳴ってしまったのだ。すでに知れ渡っていてもおかしくない。これは菓子折りなどを持参の上、正式な謝罪をしに伺った方がいいのではないだろうか。
 しかし俺の考えは杞憂に終わる。

 「ありがとうね。リオを怒鳴ってくれて」
 「……え?」
 「もしかして息子を怒鳴ったことで、私が怒ると思ったかい?」
 「いや、まあ……はい。すみません」
 「ははっ。私はそんなことでは怒らないよ。むしろ今回のお礼はリオを怒鳴ってくれたことへのお礼だよ」
 「怒鳴ったことへのお礼?」
 「リオはね、あの日初めて他人から怒られたんだ。ひどく動揺していてね。討伐遠征から戻って来たリオが私のところに来て自分のどこが悪かったのかを聞いてきたよ。」

 ライフォンは王宮内の食堂のご飯を食べながら、先ほどの誇らしげな表情とは変わり、本当に嬉しいことがあったときのような表情で声色を高くして話し始めた。

 「リオは昔からなんでも自分の力だけでモノゴトを解決しようとする長所とも短所ともいえる面があるんだけど、そんなリオがどうして自分が怒鳴られたのかがずっと理解出来ず、私を頼ってくれたんだよ。こんな時に話を聞いてくれるような友達や同僚がリオにもいれば、その子に話したんだろうけど第三騎士団の団長でもあり爵位を持っているリオにはそういった子は身近にはいなかったんだろうね。だから私を頼ってくれたんだと思うよ。」
 「頼ってくれたことが嬉しかったってことですか……」
 「それもあるけど、私はリオを怒鳴ってくれたこと自体が嬉しいんだ。きっとトーラスはリオが貴族だってことを知らずに怒鳴ったんだろうけど、トーラスはリオが貴族だってことを知っていたとしても同じことをしていたんだろうね」

 ライフォンが言っていることはあっていると思う。
 俺はリオが貴族だろうと、そうでなかろうと怪我をした人間が最前に戦いに出るのは怒鳴ってでも止めていただろう。しかしそれはリオが悠一≪しんゆう≫と同じ顔をしていたからかもしれない。
 でもそれは俺だけではないはずだ。親友が自分が怪我をしてまで危険な場所に行こうとしていたら、止めるのが普通ではないだろうか。

 「……だから私はね、アドバイスをしたんだよ」
 「アドバイス……ですか?」
 「そう、でもそのアドバイスがトーラスにとっては裏目に出たのかもしれないね」
 「裏目ですか……?」
 「私がリオにしたアドバイスは自分を爵位持ちとか騎士団団長とかで判断せずに自分を叱ってくれる子は大事にしなさい。そしてその子とお近づきになりたいならご飯に誘いなさいというこの二つのアドバイスだよ。でもまさかリオがトーラスに告白までするとは思わなかったよ」
 「いや! それは本当に誤解なんです!」

 俺は必死になって弁明をする。
 しかしそれを聞いたライフォンは俺の弁明を聞いてもなお、リオの告白の話を続けた。

 「私はリオの告白は本物だと思っているけどね」
 「……え?」
 「私はあの子の父親だからね。リオが本心で言っているのかそうじゃないのかくらいは聞き分けが付くと自負しているよ。そんな私が言うから間違いないと思うけど、どうかな」
 「ど、どうかなとは……」
 「トーラス、君の気持ちを聞きたいかな」
 「俺の気持ち……」
 「リオがトーラスのことを抱けると発言したことは知っているし、君と結婚したいと発言したことも知っているよ。きっとリオには今まで友達と呼べる人がいなかったから、どういった距離の詰め方をしたらいいかがわからないからそういうことを言ってしまったとは理解しているけど、でもそれは嘘じゃない。トーラスと今後一生を共にしたいと思う気持ちがあったからこそ出てきた言葉だと私は思うよ」

 俺はどう答えればいいかが分からないでいた。
 俺には偏見はないし、むしろ転生前の元居た世界でイケメンだと思っていた悠一≪しんゆう≫と同じ顔を持つ人から好意を向けられることに悪い気はしない。
 でもこの感情はどういう感情なのかはまだ俺自身にもわからないでいた。
 それを察したのかいつの間にか食べ終えたライフォンが席を立ちながら、俺に語りかける。

 「今日はありがとう。まだリオとは出会って間もないから結論を急かすつもりはないけど、トーラスの気持ちはどうあれ今後もリオとは仲良くしてあげてほしい」

 ライフォンは俺の肩を叩いた後、にこやかに食堂を後にした。
 一人王宮内の食堂に取り残された俺はあんなにも美味しいと感じていたご飯の味が分からなくなっていた。