「——やめといたら?」
穏やかな響きで割って入った救いの声。
救世主伶市に襟首を掴まれて引っ張られた高森が「ぐえっ」と情けない声をあげながら離れていく。
「高森、さっき自販でニンニクマシマシラーメンスープ缶買ってたよ」
「げ」
「ちな、完飲済み」
高森が両手でピースを作って、満面の笑みを浮かべた。
「この変な匂いそれが原因かよ!それ以上こっちくんなよ!」
「照れんなって、ほれほれ〜〜、フーッ!」
高森はまたもや顔を近づけてきて、さらに悪意を持って異臭を吹きかけてくる。
「うっわ、かけんな!くっさ!」
俺は食べかけのクリームパンを机の上に放って左手で鼻を摘み、右手で臭いを払おうとした。だが、高森の執拗な攻撃のせいであまり効果がない。
俺は咄嗟に側にいた伶市の腕を引っ張った。
「伶市助けろ!」
言いながら、伶市の腰に巻き付いて顔を埋めた。伶市のベージュのセーターからは嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りがして、俺の鼻腔をいい香りで満たしてくれた。
……助かった。
香りをめいいっぱい吸い込んでいると、「由都……」と焦るような戸惑うような声が降ってきて、俺は顔を上げた。
気のせいか、こちらを見下ろす伶市の顔がほんのり赤い気がする。
「……あ、ごめん」
俺はハッとして、伶市の腰からぱっと身体を離した。
つい、いつものノリでやってしまったが、伶市は俺のこと……その……好き、なんだもんな。未だ「なんで俺?ほんとに俺?」と信じられない気持ちもあったけど、今の反応を見る限り、伶市は冗談抜きで俺のことを好きなんだろう。そして、俺は何度もこういうことを無神経に繰り返しては、伶市の気持ちに何ひとつ気づかないでいたんだ。
酷いやつだな、俺は……。
俺はもう一度「ごめん」と伶市に謝った。
「……ううん、大丈夫」
俺の思いを察したのか、伶市は眉を下げて少しだけ笑った。
俺と伶市の間に気まずさが漂う中、それを打ち破ってくれたのは、角度的に伶市の顔が見えていないニンニク臭い高森だった。
「そういや、明後日のクラス会、鳥島参加で変更ないよな?」
突拍子もない質問を問われた伶市は、不思議そうな表情を浮かべながら、ひとつ頷いた。
「え?うん、変更ないよ」
「ならいいけど。不参加決まったら連絡くれよ?」
「え……っと?うん、わかった」
伶市は戸惑いながらも首肯する。
意味わかる?とでも言いたげな視線を伶市から向けられたが、否定するように首を振った。俺にも高森の話の意図がわからないのだ。
たしかに高森は24日に行われるクラス会の幹事を任されている——というか、発案も高森自身で、自主的に幹事をしているだけなのだが。
高森は俺と同じ平凡一般生徒に属するが、所謂お祭り男というやつで、クラス会が大好きすぎるあまり何かにつけて開催している。秋には「読書の秋、芸術の秋、食欲の秋ときたら、遊びの秋だろ!」という訳のわからない理論でクラス会を主催し、今回はクリスマス会兼忘年会という名目で1ヶ月前から参加者を募っていた。
だが、なぜ伶市が不参加になるかも?なんて考えているのだろうか。俺と伶市は一応今まで全クラス会に参加し、無遅刻・無欠席・無ドタキャンという実績がある。
伶市とふたりで小首を傾げていると、げんなりとした表情を浮かべた高森が質問した背景を教えてくれた。
「さっき、久保田から『参加できなくなったわー』って連絡きたんだよ。どうも彼女できたらしいわ」
「マジ?」
「大マジのマジのガチ」
ほら、とスマホのメッセージアプリのトーク画面を見せてくれる。
伶市と覗き込むと、そこにはテンション高めの絵文字が並んだ報告メッセージとハートマークをふんだんに使った喜びのスタンプが映っていた。最後に『残念だけど、今回は不参加で……!ごめん!』と泣き顔の絵文字を添えてメッセージを送ってきているが、そこに残念さも申し訳なさも滲んでいない。
「鳥島もさっき呼び出されてたんだろ?4組の女子に」
「え、マジ?」
「……情報早いね」
「まぁな。クリスマス前だし、多分明日も告白祭りだろ?彼女できて不参加になったら早めに連絡よろしくー」
「……彼女は、できないと思うけど。まあ、わかったよ」
伶市は困ったように笑った。
高森も「鳥島に彼女できたら女子たちには伏せとかないとな〜。全員仮病使ってキャンセルしそうだし」と苦笑している。
だが、俺はそこである疑問にぶち当たった。
「おい。高森。なぜ俺には訊かない?」
俺が頬を膨らませ、睨むように高森を見て不平を漏らした。だが逆に、高森から「意味がわからん」と不満を返されてしまった。
「あ?だって砂川に彼女出来るわけねーだろ?」
「おい、失礼すぎるぞ!」
「そうだよ、高森。由都を好きな子だっているよ?」
「伶市いいぞ、もっと言ってくれ」
「じゃぁ、例えば誰よ?」
「例えば……」
「伶市ぃ、そこで詰まるなよ……!」
嘆く俺を見つめ困ったように笑う伶市を見て、「そうだ……自分のことを言えるわけないよな……」と思い至る。しまったと思うも、焦った頭ではいいフォローが思い浮かばない。
言葉を詰まらす俺を救ってくれたのは、またしても何も知らない高森だった。
「まぁまぁ、万年ぼっち同士で楽しくクラス会——いや、ぼっち会を盛り上げようぜ。今回はあの笹田ちゃんも参加予定だしさ」
「え?さゆりが参加するの?」
「たしか笹田さんって今まで習い事が忙しいとかで参加したことなかったよな?」
「そうそう、初なんだよ。遂にだよ、つ・い・に!」
俺の方をバシバシと叩いて嬉しそうに声を弾ませる高森とは対照的に、伶市は眉を顰めていた。嬉しくなさそうとかではなく、妙に焦っているような戸惑っているような表情だった。
笹田さんと伶市は委員会が一緒だ。基本的にクラスメイトのことは苗字で呼ぶふたりだが、お互い下の名前で呼び合っているから、てっきり仲がいいのだと思っていたのだが……。伶市はなんでこんな浮かない表情をしてるんだ?
不思議に思いながら伶市を見上げていると、また高森に肩を強く叩かれた。
「お、噂をすれば笹田ちゃんじゃん!」
教室前方の出入り口から入ってきた笹田さんは、腰まである長い黒髪を揺らしながら、まっすぐ俺らの席にやってきた。
笹田さんが近づくと微かに花のような甘い香りがした。シャンプーか柔軟剤か、はたまた香水の類なのか……何によるものかはわからないが、可愛い子は香りまで可愛いらしい。着ているピンク色のカーディガンも合わさって、まさに可憐なお花って感じだ。目の前のニンニクとヨーグルトが混ざった不愉快な甘い臭いを放つ男とは大違いだ。少しは笹田さんを見習え、高森。
「伶市、ちょっと今いいかな?この間の件で鈴木先生が呼んでるの。ふたりで来てくれって」
くりくりとした丸くて大きい目に、小ぶりな鼻と口、まるで子リスのような可愛らしい顔立ちの笹田さんが、伶市を見つめながら小さく首を傾げた。
自分が見つめられているわけでもないのに、高森は「笹田ちゃん、かわいすぎ……」と心臓を押さえて悶絶している。
対して伶市は、笹田さんに見つめられ慣れているのか、特に表情は変わらない。
「ああ、わかった。ごめん、ちょっと俺行ってくるね」
伶市は律儀に俺たちに詫びると、笹田さんと連れ立って教室を出て行った。
ふたりの後ろ姿をぼんやりと眺める。
小柄で、華奢で、手足の長い笹田さんがモデル体型の伶市と並ぶとすごく絵になった。
やっぱり……伶市が付き合うなら、笹田さんみたいな子の方が——
「……やっぱあのふたり付き合ってんな」
「——え⁉︎」
高森の呟きに驚いた俺は、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「なに」
高森から訝しげな視線を投げて寄越され、俺はつい視線を彷徨わせた。
「あ、いや……それどこ情報?」
「俺の勘」
そう言われて、胸を撫で下ろした。
……そうだよな、もし仮にふたりが付き合っているとして。その状況で俺に告白するって、伶市に限ってそんなこと、ありえないよな……。
俺は動揺がこれ以上表に出ないように、敢えて咎めるような口調で言った。
「勘で決めつけるようなこと言うなよな」
「えーだってよぉ、あのふたりって結構控えめっていうか、ちょっとクラスのやつらと一定の距離保ってるみたいなとこあんじゃん」
「そうか?俺は伶市にそう思ったことないけど」
「そりゃぁ、お前らは幼馴染だし。でも鳥島は砂川と笹田ちゃん以外下の名前で呼んでるの聞いたことないし、笹田ちゃんにいたっては呼び捨てなんて鳥島くらいじゃねーか?いつも一緒にいる相田たちにも“ちゃん”付けじゃん」
「……言われてみれば、たしかに?」
「あーあ、いっそあのふたりがガチで付き合ってくれれば、ある意味平和だなー。ほかの女子も男子も勝ち目ないわけだし」
「そう、かもな……」
俺は歯切れ悪く言うと、食べかけのまま放置してしまっていたクリームパンを手に取り齧り付いた。
高森の言う通りだって頭では納得している。
俺だって、さっき伶市の隣に並ぶなら笹田さんみたいな子の方がいいと思った。……思ったはずなのに、どうも胸の奥がムカムカと焼けるような感じがする。
少し放置したクリームが劣化してしまって、そのせいで胸焼けでも起こしてしまっているのだろうか。
乾燥してボソボソになったパンは、時折喉に詰まりそうになりながら、ゆっくりと胃に落ちていった。
クリスマスまで——あと3日。
穏やかな響きで割って入った救いの声。
救世主伶市に襟首を掴まれて引っ張られた高森が「ぐえっ」と情けない声をあげながら離れていく。
「高森、さっき自販でニンニクマシマシラーメンスープ缶買ってたよ」
「げ」
「ちな、完飲済み」
高森が両手でピースを作って、満面の笑みを浮かべた。
「この変な匂いそれが原因かよ!それ以上こっちくんなよ!」
「照れんなって、ほれほれ〜〜、フーッ!」
高森はまたもや顔を近づけてきて、さらに悪意を持って異臭を吹きかけてくる。
「うっわ、かけんな!くっさ!」
俺は食べかけのクリームパンを机の上に放って左手で鼻を摘み、右手で臭いを払おうとした。だが、高森の執拗な攻撃のせいであまり効果がない。
俺は咄嗟に側にいた伶市の腕を引っ張った。
「伶市助けろ!」
言いながら、伶市の腰に巻き付いて顔を埋めた。伶市のベージュのセーターからは嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りがして、俺の鼻腔をいい香りで満たしてくれた。
……助かった。
香りをめいいっぱい吸い込んでいると、「由都……」と焦るような戸惑うような声が降ってきて、俺は顔を上げた。
気のせいか、こちらを見下ろす伶市の顔がほんのり赤い気がする。
「……あ、ごめん」
俺はハッとして、伶市の腰からぱっと身体を離した。
つい、いつものノリでやってしまったが、伶市は俺のこと……その……好き、なんだもんな。未だ「なんで俺?ほんとに俺?」と信じられない気持ちもあったけど、今の反応を見る限り、伶市は冗談抜きで俺のことを好きなんだろう。そして、俺は何度もこういうことを無神経に繰り返しては、伶市の気持ちに何ひとつ気づかないでいたんだ。
酷いやつだな、俺は……。
俺はもう一度「ごめん」と伶市に謝った。
「……ううん、大丈夫」
俺の思いを察したのか、伶市は眉を下げて少しだけ笑った。
俺と伶市の間に気まずさが漂う中、それを打ち破ってくれたのは、角度的に伶市の顔が見えていないニンニク臭い高森だった。
「そういや、明後日のクラス会、鳥島参加で変更ないよな?」
突拍子もない質問を問われた伶市は、不思議そうな表情を浮かべながら、ひとつ頷いた。
「え?うん、変更ないよ」
「ならいいけど。不参加決まったら連絡くれよ?」
「え……っと?うん、わかった」
伶市は戸惑いながらも首肯する。
意味わかる?とでも言いたげな視線を伶市から向けられたが、否定するように首を振った。俺にも高森の話の意図がわからないのだ。
たしかに高森は24日に行われるクラス会の幹事を任されている——というか、発案も高森自身で、自主的に幹事をしているだけなのだが。
高森は俺と同じ平凡一般生徒に属するが、所謂お祭り男というやつで、クラス会が大好きすぎるあまり何かにつけて開催している。秋には「読書の秋、芸術の秋、食欲の秋ときたら、遊びの秋だろ!」という訳のわからない理論でクラス会を主催し、今回はクリスマス会兼忘年会という名目で1ヶ月前から参加者を募っていた。
だが、なぜ伶市が不参加になるかも?なんて考えているのだろうか。俺と伶市は一応今まで全クラス会に参加し、無遅刻・無欠席・無ドタキャンという実績がある。
伶市とふたりで小首を傾げていると、げんなりとした表情を浮かべた高森が質問した背景を教えてくれた。
「さっき、久保田から『参加できなくなったわー』って連絡きたんだよ。どうも彼女できたらしいわ」
「マジ?」
「大マジのマジのガチ」
ほら、とスマホのメッセージアプリのトーク画面を見せてくれる。
伶市と覗き込むと、そこにはテンション高めの絵文字が並んだ報告メッセージとハートマークをふんだんに使った喜びのスタンプが映っていた。最後に『残念だけど、今回は不参加で……!ごめん!』と泣き顔の絵文字を添えてメッセージを送ってきているが、そこに残念さも申し訳なさも滲んでいない。
「鳥島もさっき呼び出されてたんだろ?4組の女子に」
「え、マジ?」
「……情報早いね」
「まぁな。クリスマス前だし、多分明日も告白祭りだろ?彼女できて不参加になったら早めに連絡よろしくー」
「……彼女は、できないと思うけど。まあ、わかったよ」
伶市は困ったように笑った。
高森も「鳥島に彼女できたら女子たちには伏せとかないとな〜。全員仮病使ってキャンセルしそうだし」と苦笑している。
だが、俺はそこである疑問にぶち当たった。
「おい。高森。なぜ俺には訊かない?」
俺が頬を膨らませ、睨むように高森を見て不平を漏らした。だが逆に、高森から「意味がわからん」と不満を返されてしまった。
「あ?だって砂川に彼女出来るわけねーだろ?」
「おい、失礼すぎるぞ!」
「そうだよ、高森。由都を好きな子だっているよ?」
「伶市いいぞ、もっと言ってくれ」
「じゃぁ、例えば誰よ?」
「例えば……」
「伶市ぃ、そこで詰まるなよ……!」
嘆く俺を見つめ困ったように笑う伶市を見て、「そうだ……自分のことを言えるわけないよな……」と思い至る。しまったと思うも、焦った頭ではいいフォローが思い浮かばない。
言葉を詰まらす俺を救ってくれたのは、またしても何も知らない高森だった。
「まぁまぁ、万年ぼっち同士で楽しくクラス会——いや、ぼっち会を盛り上げようぜ。今回はあの笹田ちゃんも参加予定だしさ」
「え?さゆりが参加するの?」
「たしか笹田さんって今まで習い事が忙しいとかで参加したことなかったよな?」
「そうそう、初なんだよ。遂にだよ、つ・い・に!」
俺の方をバシバシと叩いて嬉しそうに声を弾ませる高森とは対照的に、伶市は眉を顰めていた。嬉しくなさそうとかではなく、妙に焦っているような戸惑っているような表情だった。
笹田さんと伶市は委員会が一緒だ。基本的にクラスメイトのことは苗字で呼ぶふたりだが、お互い下の名前で呼び合っているから、てっきり仲がいいのだと思っていたのだが……。伶市はなんでこんな浮かない表情をしてるんだ?
不思議に思いながら伶市を見上げていると、また高森に肩を強く叩かれた。
「お、噂をすれば笹田ちゃんじゃん!」
教室前方の出入り口から入ってきた笹田さんは、腰まである長い黒髪を揺らしながら、まっすぐ俺らの席にやってきた。
笹田さんが近づくと微かに花のような甘い香りがした。シャンプーか柔軟剤か、はたまた香水の類なのか……何によるものかはわからないが、可愛い子は香りまで可愛いらしい。着ているピンク色のカーディガンも合わさって、まさに可憐なお花って感じだ。目の前のニンニクとヨーグルトが混ざった不愉快な甘い臭いを放つ男とは大違いだ。少しは笹田さんを見習え、高森。
「伶市、ちょっと今いいかな?この間の件で鈴木先生が呼んでるの。ふたりで来てくれって」
くりくりとした丸くて大きい目に、小ぶりな鼻と口、まるで子リスのような可愛らしい顔立ちの笹田さんが、伶市を見つめながら小さく首を傾げた。
自分が見つめられているわけでもないのに、高森は「笹田ちゃん、かわいすぎ……」と心臓を押さえて悶絶している。
対して伶市は、笹田さんに見つめられ慣れているのか、特に表情は変わらない。
「ああ、わかった。ごめん、ちょっと俺行ってくるね」
伶市は律儀に俺たちに詫びると、笹田さんと連れ立って教室を出て行った。
ふたりの後ろ姿をぼんやりと眺める。
小柄で、華奢で、手足の長い笹田さんがモデル体型の伶市と並ぶとすごく絵になった。
やっぱり……伶市が付き合うなら、笹田さんみたいな子の方が——
「……やっぱあのふたり付き合ってんな」
「——え⁉︎」
高森の呟きに驚いた俺は、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「なに」
高森から訝しげな視線を投げて寄越され、俺はつい視線を彷徨わせた。
「あ、いや……それどこ情報?」
「俺の勘」
そう言われて、胸を撫で下ろした。
……そうだよな、もし仮にふたりが付き合っているとして。その状況で俺に告白するって、伶市に限ってそんなこと、ありえないよな……。
俺は動揺がこれ以上表に出ないように、敢えて咎めるような口調で言った。
「勘で決めつけるようなこと言うなよな」
「えーだってよぉ、あのふたりって結構控えめっていうか、ちょっとクラスのやつらと一定の距離保ってるみたいなとこあんじゃん」
「そうか?俺は伶市にそう思ったことないけど」
「そりゃぁ、お前らは幼馴染だし。でも鳥島は砂川と笹田ちゃん以外下の名前で呼んでるの聞いたことないし、笹田ちゃんにいたっては呼び捨てなんて鳥島くらいじゃねーか?いつも一緒にいる相田たちにも“ちゃん”付けじゃん」
「……言われてみれば、たしかに?」
「あーあ、いっそあのふたりがガチで付き合ってくれれば、ある意味平和だなー。ほかの女子も男子も勝ち目ないわけだし」
「そう、かもな……」
俺は歯切れ悪く言うと、食べかけのまま放置してしまっていたクリームパンを手に取り齧り付いた。
高森の言う通りだって頭では納得している。
俺だって、さっき伶市の隣に並ぶなら笹田さんみたいな子の方がいいと思った。……思ったはずなのに、どうも胸の奥がムカムカと焼けるような感じがする。
少し放置したクリームが劣化してしまって、そのせいで胸焼けでも起こしてしまっているのだろうか。
乾燥してボソボソになったパンは、時折喉に詰まりそうになりながら、ゆっくりと胃に落ちていった。
クリスマスまで——あと3日。

