文化祭が終わり、僕らはこれからの進路の最終調整に入っていった。
就職組は面接の練習が始まったり、推薦に向けた資料を作っている人や勉強の追い込み、それぞれの未来に向けての緊張感が、少しだけ空気をピンと張らせる。
そんな中、僕は第一志望をデザインや素材が学べる大学を選んだ。
被服の専門学校とも悩んだけど、ニットや毛糸、編み組織について勉強しようと思って探してみると、幅広く勉強できそうな学校を見つけられたんだ。
「尚ー! 帰ろー!」
「あ、うん。今行く」
奏斗が教室まで迎えに来てくれて、僕らは並んで下校する。
「尚の方、大学受験の準備はどう?」
「あぁ、うん。推薦枠取れそうだから、今提出する作品作ってる」
「そっか。尚、頭いいもんな」
「そんなことないよ。普通科からだから、課題の作品がちゃんと通るかの方が心配だよ。あ、そういえば……」
僕は、編み物の道に進むと決めて、けじめをつけようと思った。
だから、少し怖かったけど、ちゃんと過去に区切りをつけれるよう、行動したんだ。
「麻耶さんが井上さんに聞いてくれたんだ。井上さんが使っていたサイトの運営に連絡してみた。ちゃんと編み図を使わせてもらった作者さんに謝罪したいって」
「あぁ……、どうだった?」
「うん。僕の当時の年齢や、再犯がないってことを運営も理解してくれて、僕の代わりに相手の作者さんに連絡してくれた。同じことを繰り返さなければ、もういいよって」
「よかったな」
「うん……」
本当は、こんなに簡単に許されてはいけないのかもしれない。
でも、僕は編み物が好きだ。
一本の糸から、無限に形作れる、自由な編み物が好きだ。
だから、同じ過ちは二度と繰り返さないし、編み物の楽しさを誰かに伝えられたらいいなと思う。
そんな大層な野望は、まだ恥ずかしくて奏斗には伝えられないけれど──。
「どう? お父さん、説得できそう?」
「あぁ、観客賞と越智さんの口添えで、専門の特待生枠に申請できたからな。今、結果待ち。もしダメでも、何とか奨学金とバイトで何とかできそう」
「結局、学費出してもらえない感じなの?」
「いや、親父ももう反対はしてないんだけどさ。俺自身が甘えたくないって言うか……、追い込みたい感じ?」
照れくさそうに答える奏斗は、きまり悪そうに後頭部をかきむしり、わざと視線を遠くへ投げた。『甘えたくない』なんて格好をつけているけれど、本当は父親の前で素直に喜ぶのが恥ずかしいだけだろう。
そんな彼の子供っぽい意地が、今はたまらなく愛おしく感じる。
「甘えられるところは甘えていいと思うよ。バイトで、課題とかやらなきゃいけなくなった時の作業時間、削られたら大変だし」
「尚との時間も作らなきゃだしな」
さらっと言った奏斗の横顔が、夕日に染まっている。
足が止まった。
奏斗も数歩先で立ち止まり、振り返る。
「……それ、どういう意味?」
僕らは決定的な言葉を伝え合っていなかった。
気恥ずかしいというのが一番の理由だけど、少しだけ、確実な確証が欲しくて突っ込んでしまった。
「僕との時間って……。それ、友達として?」
「……違うだろ。気づいてないの、お前だけだぞ」
奏斗が投げやりな口調で言って、僕を真っ直ぐに見つめた。
逆光で、その瞳の宿る感情までは読み取れない。
けれど、僕の右手を掴んだ彼の掌が、微かに熱を帯びて震えているのが伝わってきた。
「……またタコが成長してる。大学へ提出する作品、根詰めてるな」
「あ、はぐらかした」
見上げた奏斗の髪の毛が、夕日に照らされてキラキラと光っている。
影になっている奏斗の顔をじっと見つめて、僕は奏斗からの言葉を待っていた。
「……尚のその指が作るもの、全部俺だけのものにしたかったんだけどな。尚が羽ばたくのを、応援できない奴にはなりたくない。でも、忘れないで。……俺は尚が好きだ」
奏斗の声が、夕暮れの空気に溶けていく。
その言葉は、僕が編んできたどんな糸よりも強く、僕の心臓を締め付けた。
溢れそうになる涙をこらえて、僕は彼の温かな掌を握り返す。
「僕も、奏斗の事が大好き」
羽化した僕の背中に、奏斗がくれた消えない光を編み込んで、まだ見ぬ明日へと羽ばたいていく。
新しい僕らは、これから始まるんだ。
就職組は面接の練習が始まったり、推薦に向けた資料を作っている人や勉強の追い込み、それぞれの未来に向けての緊張感が、少しだけ空気をピンと張らせる。
そんな中、僕は第一志望をデザインや素材が学べる大学を選んだ。
被服の専門学校とも悩んだけど、ニットや毛糸、編み組織について勉強しようと思って探してみると、幅広く勉強できそうな学校を見つけられたんだ。
「尚ー! 帰ろー!」
「あ、うん。今行く」
奏斗が教室まで迎えに来てくれて、僕らは並んで下校する。
「尚の方、大学受験の準備はどう?」
「あぁ、うん。推薦枠取れそうだから、今提出する作品作ってる」
「そっか。尚、頭いいもんな」
「そんなことないよ。普通科からだから、課題の作品がちゃんと通るかの方が心配だよ。あ、そういえば……」
僕は、編み物の道に進むと決めて、けじめをつけようと思った。
だから、少し怖かったけど、ちゃんと過去に区切りをつけれるよう、行動したんだ。
「麻耶さんが井上さんに聞いてくれたんだ。井上さんが使っていたサイトの運営に連絡してみた。ちゃんと編み図を使わせてもらった作者さんに謝罪したいって」
「あぁ……、どうだった?」
「うん。僕の当時の年齢や、再犯がないってことを運営も理解してくれて、僕の代わりに相手の作者さんに連絡してくれた。同じことを繰り返さなければ、もういいよって」
「よかったな」
「うん……」
本当は、こんなに簡単に許されてはいけないのかもしれない。
でも、僕は編み物が好きだ。
一本の糸から、無限に形作れる、自由な編み物が好きだ。
だから、同じ過ちは二度と繰り返さないし、編み物の楽しさを誰かに伝えられたらいいなと思う。
そんな大層な野望は、まだ恥ずかしくて奏斗には伝えられないけれど──。
「どう? お父さん、説得できそう?」
「あぁ、観客賞と越智さんの口添えで、専門の特待生枠に申請できたからな。今、結果待ち。もしダメでも、何とか奨学金とバイトで何とかできそう」
「結局、学費出してもらえない感じなの?」
「いや、親父ももう反対はしてないんだけどさ。俺自身が甘えたくないって言うか……、追い込みたい感じ?」
照れくさそうに答える奏斗は、きまり悪そうに後頭部をかきむしり、わざと視線を遠くへ投げた。『甘えたくない』なんて格好をつけているけれど、本当は父親の前で素直に喜ぶのが恥ずかしいだけだろう。
そんな彼の子供っぽい意地が、今はたまらなく愛おしく感じる。
「甘えられるところは甘えていいと思うよ。バイトで、課題とかやらなきゃいけなくなった時の作業時間、削られたら大変だし」
「尚との時間も作らなきゃだしな」
さらっと言った奏斗の横顔が、夕日に染まっている。
足が止まった。
奏斗も数歩先で立ち止まり、振り返る。
「……それ、どういう意味?」
僕らは決定的な言葉を伝え合っていなかった。
気恥ずかしいというのが一番の理由だけど、少しだけ、確実な確証が欲しくて突っ込んでしまった。
「僕との時間って……。それ、友達として?」
「……違うだろ。気づいてないの、お前だけだぞ」
奏斗が投げやりな口調で言って、僕を真っ直ぐに見つめた。
逆光で、その瞳の宿る感情までは読み取れない。
けれど、僕の右手を掴んだ彼の掌が、微かに熱を帯びて震えているのが伝わってきた。
「……またタコが成長してる。大学へ提出する作品、根詰めてるな」
「あ、はぐらかした」
見上げた奏斗の髪の毛が、夕日に照らされてキラキラと光っている。
影になっている奏斗の顔をじっと見つめて、僕は奏斗からの言葉を待っていた。
「……尚のその指が作るもの、全部俺だけのものにしたかったんだけどな。尚が羽ばたくのを、応援できない奴にはなりたくない。でも、忘れないで。……俺は尚が好きだ」
奏斗の声が、夕暮れの空気に溶けていく。
その言葉は、僕が編んできたどんな糸よりも強く、僕の心臓を締め付けた。
溢れそうになる涙をこらえて、僕は彼の温かな掌を握り返す。
「僕も、奏斗の事が大好き」
羽化した僕の背中に、奏斗がくれた消えない光を編み込んで、まだ見ぬ明日へと羽ばたいていく。
新しい僕らは、これから始まるんだ。
