さすがに数日たつと真野の前の席にも慣れる。真野が他の誰かとしゃべっているときのほうが気になりだした。最近は女子も混じるから、オレの後ろは別世界も別世界。一軍男子と陽キャ女子の会話が太陽みたいにオレの背中をじりじりと焼く。眩しすぎる。
掃除当番も出席番号を一周して、二回目の当番が回ってきた。ごみを捨てて校舎に戻ろうとする。ふと、校舎を何気なく見上げると、そこから見える廊下の窓際に真野を見つけた。三階の廊下でクラスメイトとしゃべってる。
真野の笑顔は楽しそうだった。真野にとって、学校は家と違って賑やかな場所。人がいて、話ができて、笑うことができる。それはきっと真野にとってはすごく大事なことで。……ああいう顔、オレの前だけじゃないんだ。胸がちりちりする。なんでそんなことが気になるんだろう。
ぼーっと校舎を見上げていたら、真野がこちらに気づいた。すぐに誰かに一声かけて、クラスメイトが離れていく。真野がこちらを見下ろした。口をとがらせて拗ねた顔。それからひらひらと窓から手を出して小さく振ってくる。
急に顔が熱くなった。
見てたの、バレた。小さく手を振ってくるとか、ちょっとかわいい。真野ってたまに子供みたいなことをする。ごまかすように自分も小さく手をあげて、そそくさと校舎内に入る。
ていうか、これ、交換日記に真野が書いてくるパターン。なんてごまかそう。じっと見てたなんてストーカーみたいじゃん。……なんで言い訳しようとしてるんだ。
でも、交換日記に書いてあったのは五月の試験のことだった。もうすぐ試験の二週間前になる。試験範囲が発表され、何日目になんの教科が試験なのか時間割が発表される。まずい。オレ、試験勉強の仕方を知らない。
試験範囲と時間割が発表されて、ノートとスケジュールアプリに書き込む。五月だから教科は少ないらしい。でも、一体どこから出るのかさっぱり分からない。
『試験勉強ってどうやってる? オレ、中学のときも成績よくなくて』
そんな言い訳をしてやり方を尋ねる。すると、「初めての試験だから先生の傾向は分からないけど」と前置きつきで、教科書のどこの漢字が出やすいとか英単語帳は単語ではなく例文を覚えろだとか詳しく答えが返ってきた。
真野、さすが勉強もできる。伊達に黒板に答えを書いて丸をもらっていない。黒板のてっぺんからチョークを走らせるだけで絵になる男はやはり違う。
すると「テスト勉強一緒にやろうぜ」と日記で誘われた。
『最寄り駅のファミレス。あそこで勉強してる高校生をよく見かける』
早速次の日、指定のファミレスで待ち合わせた。ドリンクバーを頼み、夕飯前までの二時間と時間を区切って教科書とノートを広げる。
向かいの真野をちらっと見る。考えているときはくるくると右手のシャーペンが回っていて、なにかを思いつくとぴたっと止まる。そしてすぐにノートになにやら書き込み始める。
きれいな字がノートを埋め尽くしていく。交換日記もこんなふうに書いてるんだろうな。そう思いながら問題集を解いていたら、真野がとんとんと指でノートを叩いてきた。
「ひーなーたー、かーまーえーよー」
「コラ、今は勉強の時間。余裕がある人とは違ってこっちは大変なの」
「一緒に勉強してるときは無駄な時間も無駄じゃない」
「それは分かるけど」
一回目のテスト勉強は落ち着かなかった。でも、二回目、三回目と続くうちに、向かい合って勉強するのも少しずつ当たり前になってくる。たまにふたりで伸びをして、ジュースを飲んで、ポテトをつまむ。沈黙が続いても気まずくない。そういうのが、なんだか心地いい。
そっと顔をあげる。
肘をついて教科書を見下ろす睫毛が長い。さらっと髪が流れて、少しだけ口が開いている。くるくるとシャーペンを回す指が細い。くちびるの右下に、すごく小さなほくろがある。
……あれ。
急に、真野がイケメンであることに我に返った。
いや、知ってた。知ってたけど、こうして真正面から静かに見てると、なんかレベルが強い。目がキャパオーバー。
「……真野ってイケメンだよなあ」
気づいたら、口にしていた。すると真野が一気に顔を赤くさせて口をとがらせた。
「日向はかわいい路線だよな。目がでかいし。ハムスターって感じ」
そう言う真野の耳が少し赤い。思わず頭の上にチョップを振り下ろす。振り下ろした手が真野の髪の毛に触れてはっとした。あったかい。やべ、触っちゃった。
振り下ろした手を引っ込めて「あのさ」と切り出す。
「今日から交換日記は一時停止にしない? でないとオレは日記に逃げる。今日真野に渡したけど、一旦中止。試験まであと一週間だし」
ちょっとだけ嫌だけど、オレ、初めての試験に焦ってる。すると真野がこっくりと頷いた。
「……そうだな。勉強の時間はほしいよな」
帰り道、鞄の中にある隙間が少しだけ落ち着かなかった。自分で止めておいてなんだけど、日記がないだけでこんなにもそわそわする。いつの間にか日記は交換して当たり前になっている。試験が終わったら最初になにを書こう。
掃除当番も出席番号を一周して、二回目の当番が回ってきた。ごみを捨てて校舎に戻ろうとする。ふと、校舎を何気なく見上げると、そこから見える廊下の窓際に真野を見つけた。三階の廊下でクラスメイトとしゃべってる。
真野の笑顔は楽しそうだった。真野にとって、学校は家と違って賑やかな場所。人がいて、話ができて、笑うことができる。それはきっと真野にとってはすごく大事なことで。……ああいう顔、オレの前だけじゃないんだ。胸がちりちりする。なんでそんなことが気になるんだろう。
ぼーっと校舎を見上げていたら、真野がこちらに気づいた。すぐに誰かに一声かけて、クラスメイトが離れていく。真野がこちらを見下ろした。口をとがらせて拗ねた顔。それからひらひらと窓から手を出して小さく振ってくる。
急に顔が熱くなった。
見てたの、バレた。小さく手を振ってくるとか、ちょっとかわいい。真野ってたまに子供みたいなことをする。ごまかすように自分も小さく手をあげて、そそくさと校舎内に入る。
ていうか、これ、交換日記に真野が書いてくるパターン。なんてごまかそう。じっと見てたなんてストーカーみたいじゃん。……なんで言い訳しようとしてるんだ。
でも、交換日記に書いてあったのは五月の試験のことだった。もうすぐ試験の二週間前になる。試験範囲が発表され、何日目になんの教科が試験なのか時間割が発表される。まずい。オレ、試験勉強の仕方を知らない。
試験範囲と時間割が発表されて、ノートとスケジュールアプリに書き込む。五月だから教科は少ないらしい。でも、一体どこから出るのかさっぱり分からない。
『試験勉強ってどうやってる? オレ、中学のときも成績よくなくて』
そんな言い訳をしてやり方を尋ねる。すると、「初めての試験だから先生の傾向は分からないけど」と前置きつきで、教科書のどこの漢字が出やすいとか英単語帳は単語ではなく例文を覚えろだとか詳しく答えが返ってきた。
真野、さすが勉強もできる。伊達に黒板に答えを書いて丸をもらっていない。黒板のてっぺんからチョークを走らせるだけで絵になる男はやはり違う。
すると「テスト勉強一緒にやろうぜ」と日記で誘われた。
『最寄り駅のファミレス。あそこで勉強してる高校生をよく見かける』
早速次の日、指定のファミレスで待ち合わせた。ドリンクバーを頼み、夕飯前までの二時間と時間を区切って教科書とノートを広げる。
向かいの真野をちらっと見る。考えているときはくるくると右手のシャーペンが回っていて、なにかを思いつくとぴたっと止まる。そしてすぐにノートになにやら書き込み始める。
きれいな字がノートを埋め尽くしていく。交換日記もこんなふうに書いてるんだろうな。そう思いながら問題集を解いていたら、真野がとんとんと指でノートを叩いてきた。
「ひーなーたー、かーまーえーよー」
「コラ、今は勉強の時間。余裕がある人とは違ってこっちは大変なの」
「一緒に勉強してるときは無駄な時間も無駄じゃない」
「それは分かるけど」
一回目のテスト勉強は落ち着かなかった。でも、二回目、三回目と続くうちに、向かい合って勉強するのも少しずつ当たり前になってくる。たまにふたりで伸びをして、ジュースを飲んで、ポテトをつまむ。沈黙が続いても気まずくない。そういうのが、なんだか心地いい。
そっと顔をあげる。
肘をついて教科書を見下ろす睫毛が長い。さらっと髪が流れて、少しだけ口が開いている。くるくるとシャーペンを回す指が細い。くちびるの右下に、すごく小さなほくろがある。
……あれ。
急に、真野がイケメンであることに我に返った。
いや、知ってた。知ってたけど、こうして真正面から静かに見てると、なんかレベルが強い。目がキャパオーバー。
「……真野ってイケメンだよなあ」
気づいたら、口にしていた。すると真野が一気に顔を赤くさせて口をとがらせた。
「日向はかわいい路線だよな。目がでかいし。ハムスターって感じ」
そう言う真野の耳が少し赤い。思わず頭の上にチョップを振り下ろす。振り下ろした手が真野の髪の毛に触れてはっとした。あったかい。やべ、触っちゃった。
振り下ろした手を引っ込めて「あのさ」と切り出す。
「今日から交換日記は一時停止にしない? でないとオレは日記に逃げる。今日真野に渡したけど、一旦中止。試験まであと一週間だし」
ちょっとだけ嫌だけど、オレ、初めての試験に焦ってる。すると真野がこっくりと頷いた。
「……そうだな。勉強の時間はほしいよな」
帰り道、鞄の中にある隙間が少しだけ落ち着かなかった。自分で止めておいてなんだけど、日記がないだけでこんなにもそわそわする。いつの間にか日記は交換して当たり前になっている。試験が終わったら最初になにを書こう。


