ルーズさが売りの俺が、生真面目クラスメイトに懐かれています


 五十嵐は本当に、視力がとても低いのだろうか。
 慌てた俺は、まじまじと五十嵐の顔を見つめてしまっていた。

 米野とはまた違う、大型犬みたいなくりっくりな目で見られると、俺だってなんとかしてやりたくなる気がしてくるから恐ろしい。
 俺にも庇護欲とやらが浮かんできてしまう。別に俺がどうにかできるものはないだろうが、自分のできることはしてやりたい。

「五十嵐みたいなデカいやつが転ぶとやばいだろ。俺、探してくるから。着替えて待ってろ」
「……ああ」

 すこししょげたような声を聞いて、俺はどうにも言いづらい気持ちが芽生えた。
 その気持ちを言語化するのは、なんとなくためらわれた。

 そろりと扉を開け、大浴場に入ると、目の前には置き台のような棚があった。
 その一番上に、黒縁の眼鏡。それ以外に眼鏡はない。

 さすがに気付くだろ、と思いつつ、俺はそっと眼鏡を手にとった。

「ふつうに、あるじゃん」

 さくっと見つけた眼鏡。どうやら米野にはバレていなかったらしい。来たところとは同じように、もう一度脱衣所に戻る。

「五十嵐、これで合ってるか?」

 あんまりちゃんと形は覚えていなかったが、持ち込んだそれを、編み上げの椅子に座り、うつむく五十嵐に手渡した。す、と眼鏡をかけると、五十嵐は俺を見上げた。

 光の加減だろう。思った以上にきらきらとした瞳が、こちらを覗き込んでいる。
 今度はきちんと俺を見て、俺に目を合わせている。ちゃんと、認識されている。

「これだ。助かった」
「マジでさっき、ビビったからな……次、気をつけろよ」
「ああ、気をつける」

 さすがに体が冷えてきたな、と思って踵を返そうとしたのに、五十嵐はまた「宇田将也」と俺を呼び止めた。

「なに」
「……きっと、おまえじゃないと、頼んでない」

 五十嵐がこんなにオトメな発言をするなんて思ってなかった。
 ずっと眺められていると、勝手に俺の顔まで赤くなってくる。

「ふ、風呂いく!」

 俺は大浴場に逃げた。早速シャワーで全身を洗い流し、露天できゃあきゃあ言う奴らを眺めながら、俺は、

 顔が赤くなったのは、ちゃんと、温泉のせいだと思い込みたかった。

 しかし、風呂を上がっても、翌朝になっても、五十嵐を視界の端に入れるたびになぜだか心がざわついて仕方がなかったのだ。