外観からホテルっぽい雰囲気を感じていたのに、中は和室スタイルで大部屋の多い宿泊所。結構な人数で雑魚寝になるから、デカいやつと小さいやつで互い違いになるように、寝ることになった。
「とりあえず、クラスごとで前半と後半で別れてってことだから、面倒だし奇数と偶数でいいだろ?」
誰かがそう言い出して、結構そのまま、流れ流れてそれでいい、ってことになった。
そのうち、言い出した奴と、その隣の奴とでジャンケンをして、偶数番号の奴らが先に風呂に行くことになった。
居残り組の俺は、さっさと大部屋の喧騒から離れて、ぼーっとしておきたいところだったが、どうにもそうはいかなかったらしい。
「なあなあ、将也くん」
「うおっ、なに。えっと」
カバンの蓋を盛大に開いたところで、知らない声がかかり、思わず盛大に振り向いた。
見ると、自分と同じくらい華奢だが、慎重もそこそこ低そうな男子が、俺の方を見て上目遣いをしていた。
男も上目遣いをするんだなと、俺は若干逃避した頭で考えていた。
「米野だよ。もう一ヶ月以上経つんだから、名前、覚えてもらわないと困るんだけど」
「……コメダじゃなくて、ヨネノのほう」
「そうそうー。米野慧。ケイくんって呼んでくれてもいいよ」
うちのクラスに米の漢字がつく二人がいて、出席番号がだいぶ離れているので、話題になっっていたことを思い出す。ただ、コメダの方は女性なので、今日この場にはいない、という消去法で思い出した男。
正直ほぼ離したことのない男だが、くりくりの目は女子受けしそうだなと、なんとなく思った。
「いやまあ、米野。で、何?」
「いやー、将也くん。きみ、五十嵐くんと仲良しって僕の中で評判なんだけど」
「はあ」
別に仲良しでもない。たぶん。
普通に前後の席で。ふつうに会話するくらいで、仲いいんだったらみんなと仲良しだろうよ、童謡かよ、って思ったけど、さすがにこの流れでは分が悪いと思って、言わなかった。
「……で? そこ探ってなに楽しいんだよ。席の前後だったら話くらいするだろ」
「んー? 憧れるくらい別によくない? 君ら身長高すぎるし」
「まあ、アレはすごいと思うけど」
他人事のように言うと、うんうんと米野は首を縦に振った。
「だよねー! いやー、将也くん、わかってんじゃん!」
「はあ?」
「あのさ、俺ね、五十嵐くんのファンなの。だからさ、今度また一緒になったら、ちょっと手伝ってよ」
「なにを」
そんな風に返したことを、死ぬほど後悔した。
「ええ? まずは仲良くお友達になるでしょ? 一緒に勉強とかして、部活……はしてないから、放課後デートかなぁ。その次は一緒に買い物とかして、そして」
「待って。ごめん追いつけないマジで何。五十嵐ファンなの?」
「そう。ガチ恋」
「はあ?」
そういう奴がいるのは知っている、アイドルとか俳優とかに本気で好き、というやつ。舞台の上だろうが、本の中にしかいない、とかでもいろいろあるのはわかる。
けど、五十嵐に対して、そう思う奴がいるというのが、俺には信じられなかった。
よくわからないままぽかんとしていた俺に、米野はぼそ、と言い放った。
「あ、そう。あと俺、同担拒否だから」
どうたんきょひ。
なにかを拒否している。たぶん五十嵐以外のあれそれを、ということだろう。詳しく聞く気もない俺は、米野に向かってため息交じりに告げた。
「いやマジ意味わかんねーって」
「俺、本当に、五十嵐くんのこと、一人の人間として応援したいんだよね」
「はあ」
「だからさ、俺もそんな五十嵐くんに並び立っていい感じになるような人間になろうと努力してるわけ。そのうえで、そういう段階を踏みたいって思ってんのにさあ」
ずい、と体を近づけてきて、おろしたてのTシャツを引っ張られる。と、そのまま、彼に顔を近づけたかたちになる。ぶつかるわけにはいかないと、俺は顔を背けた。
「……っ、な、なんだよ」
「将也くんはさ、努力してんの? 五十嵐くんのために、五十嵐くんに好かれるために、五十嵐くんに迷惑かけないようにすべきなんだよ」
初めて話したはずの米野が、まくし立ててきた。正直、何を言いたいのか全然わからない。ぽかんとしたままの俺に、米野はさらに顔を近づけてくる。
「その程度のやつが、べったりしてんじゃねーよ」
米野が言っている意味は、一ミリもわからなかった。しかし彼は言い切るだけで満足したのか、足早に去ってしまった。

