あっという間に夕焼けが迫り、俺たちはバタバタとホテルへとなだれ込んでいった。
自分たちの力を過信していたわけではないが、それでも結構、ギリギリの戦いだったと思う。
あと十分もすれば、真中センセーからの恐ろしい電話がかかってきたに違いない。幸い、俺たちが最後じゃなかったけれど、それでもドキドキしたのは事実だ。
「着い……たー……」
「なんとか間に合ったぁ……足やべえ……」
「いやー、助かった! マジで二人のおかげでフルコンじゃん!」
「あ……ああ」
ぶんぶんと腕を振り回してくるのは、班が一緒の彼らだった。
予定していた行程をなんとかクリアして、俺たちは行くだけならば全箇所に到達できた。正直、ちゃんと巡れたかと言えば、語弊があるようなタイミングだったが、一応、できたことには変わりない。
「明日もよろしくなー!」
「お、おうっ」
「ああ」
隣で沈黙を貫く五十嵐も、ちょっとだけ嬉しそうにしている気がする。
いや、気のせいだと思う。けど、スタンプラリー用に渡された冊子とは別に、自分用のスタンプ帳に押して控えているくらいなのだ。このルートを組んだ学校側も、一人でもこの行程に満足してくれたのなら何よりだろう。
「宇田将也」
「……おう」
「おまえのおかげで、全箇所回れてよかった」
「それはなにより。誰かさんが俺にぶん投げたせいとも言うけど」
俺は楽をしたかっただけなのに。
が、その雑さが余裕さに感じられたのか、ぎゅうぎゅうにタイムアタックじみたスケジュールに変更していたのは、五十嵐のほうだ。
二言目には「俺からの指示だ」なんていいやがって。
「だが、最初のプランが最良だったおかげだ。ありがとう」
「……そうかよ」
自分の功績とは全く思わないが、きちんと褒められたのだ。嬉しくないわけがない。向かい合わせに立つ五十嵐の口の端がわずかに上がったようにも見えたが、自分の気のせいの気もして、俺は無言で顔を逸らした。
班行動のどこかなんて、あんまり覚えていない。わあわあするメンバーじゃなかったのも、そういう空気ができた原因だろうと思う。淡々と、巡るべき場所をスタンプラリーのようにマッピングして終わり。
俺はなんとなく、きれいだなーと思ったところにカメラを向けてはシャッターを切っていた。
ほかのメンバーはそこまで興味はなかったようで「ここに行きました」がわかるようにお互いの写真を撮ったくらいで、それほどこだわりもなさそうだった。
唯一、五十嵐だけは、神社に寄るたびに小銭を放り込んで、真剣に数秒祈っていたのが印象的だった。
急いだ計画だったのにも関わらず、そこだけ厳かな雰囲気を感じて、じっと見入ってしまった。
俺はそういうことに興味はなかったものの、ほかのメンバーがやっているのならば、という程度で頭を下げるに留まった。
ぶっちゃけ、それでお土産の予算が減るのが嫌だった。十円でも一円でもいいとは聞くが、実際五円玉を集めるのは至難の業だ。だから、五十嵐がちゃりんちゃりんと放り投げる金色の多さに驚いたものだ。
ただ、当の五十嵐は涼しい顔で、さも当然というように呟いていた。
「祈るというよりも、俺は普段の自分を報告しているだけだ」
彼の閉じたまぶたの内側に、なにがあるかまではわからなかったが、唯一、学問の御利益があるという超有名神社では、五十嵐に負けじと五百円玉を放り込んだ。
二礼の後、合わせた手のひらから生まれたのは、ぱしゅんと中途半端な音だけで、それもさらに恥ずかしかったけれど、勢いそのまま頭を下げた。
アホな俺でも、だれかのためになれますように。報告なんてできずに、祈ってしまったけれど、仕方がない。ぱっと切り替えのできる頭もない。
ただ、と思って、やや汗ばんでいる五十嵐を再度見た。
もう少しだけ、真剣に勉強ができるようになったら、五十嵐の見ている世界もわかるのだろうか。
そんなふうに、考えながら、俺はもう一度、自分の顔を写した鏡を覗き込んだのだった。

