ルーズさが売りの俺が、生真面目クラスメイトに懐かれています

 春のメインイベント、修学旅行。行き先は飛行機ではなく、高速バス。それなりの人数だから、バスをチャーターするまではいい。年々予算がとか、原油高だか親は言っていたけれど、普通に昼メシが減らなければそれでいいと思っているくらいしか興味のない俺だ。

 無事に開催されるのであれば一泊でも二泊でも構わない。
 少しくらい、真面目に授業を受ける時間が減るのだったら、俺は一向に構わない。

 そう思っていたが、どうやらその目論見はもろくも崩れ去っていた。

「なんで……?」

 クラスごとにバスが分かれてしまうのも、仕方ない。度会に一組の情報を聞いたら、「三組とルートが違う」と聞いて落胆したことは些末なこと。

 目の前にそびえ立つ壁。もとい、五十嵐の背中が、相変わらずでかすぎるのだ。

「……宇田将也か」
「隣、よろしく……」
「ああ」

 出席番号2と3。ここでまさかの、五十嵐の隣。さようなら俺の気楽な修学旅行、と開始十分で諦める結果になったのは仕方のないことだろう。
 席順くらい、好き勝手させてもらいたいのは俺だけじゃないはずだったが、車内で騒がしくならないようにするため、らしい。

 で、出席番号だけで済むならいいが、なぜか男女分け。どうやら異性間のあれこれに発展して、先生たちが大変だった先輩たちがいるらしく、このルールは絶対なんだとか。

 そして、我が三組の出席番号1は、女性。
 ゆえに、俺の隣に座るのは男。そして、五十嵐。横に並べば、肩の厚みからなにからだいぶ違っている。なまじっか縦幅のでかい俺と、縦に加えて横幅もがっちりとある五十嵐。

 当然、小柄な誰かと席替えになるかと思いきや「点呼に支障が出る」とかで真中センセーは許してくれなかった。鉄壁すぎて悲しくなったが、俺以外の文句も封じ込めていたので、ここはどうにもならないようだ。

 一応、酔いやすい奴らは前に行った。出席番号順に前から詰める配置なので、もっと前に行きたい奴らに場所を譲ってもまだまだ前方なので、当然席の変更はない。
 ちらちら観察してみるが、うまく奇数になってくれそうになく、俺はため息をつきそうになって、慌てて息を吸い込んだ。いくらなんでも、さすがに態度が悪すぎる。
 隣に座る五十嵐をちらりと見たけれど、別に誰が隣でも関係なさそうな顔で、しっかりと前を見据えていた。

 ――まあ、いいけど。

 一応、窓側か通路側は選べたので、五十嵐の申し訳なさそうな「通路側がいいんだが」に二つ返事で了承し、互いの座りたい座席に座ることができた。
 ゆえに、環境が担保されている以上、文句は言えない。
 お互いの行き場のない膝と腰が、触れたり、離れたりしている以外は。

 俺の視線に気づいたのか、五十嵐が申し訳なさそうに、やや眉尻を下げた。
 それを見て俺は、慌てて口を開いた。

「悪い、邪魔だよな」
「そうでもない。むしろ俺が」
「いやー……なんっつうか、五十嵐みたいの、憧れはする」
「ん?」

 俺は、ただ思ったことを言っただけだったが、五十嵐は明らかにびっくりしたような声で反応したので、なんだか俺のほうが驚いてしまった。

 なんとなく、説明はちゃんとしておかなければならないのかと、俺は続けて言った。

「俺のひょろさに比べたら、倍以上じゃん。普通に五十嵐は、スゴいよなって」

 単純に感想を述べただけだったのだが、五十嵐はぽつ、と「そうなのか」とつぶやいていた気がする。俺の気のせいかもしれないけれど。

「とりあえず、ここ、狭くて面倒だと思うけど。よろしく」
「ああ」

 それ以上、五十嵐と何を話したらいいのかわからず、俺は窓側にもたれてみた。

 駐車場の脇で、青々とし始めた木々の揺れ。視界の端で、せわしなく立ったり座ったりを繰り返す男を意識しないようになんて、できそうにない。

 委員長でもないのに、そんなに真面目でどうするんだよ、と思いつつ、彼がようやくきっちりとシートベルトを締めたのは、点呼が始まってからだ。

「旅行中は、この席で固定なので、勝手に移動しないように」

 真中センセーは、改めて俺たちにそう言うと、運転手の真後ろの席に座ってしまった。

 わいわい騒がしくなりつつあるみんなとともに、バスは進んで行く。

 電柱の間に見える家々の数が減り、コンクリートの隙間から山間を覗く。等間隔の揺れに、うつらうつらしては、五十嵐に膝や腕を当ててしまい、はっと目を覚ます。

「……っ、」

 五十嵐はこちらの仕草も気にしていない様子で、何やら文庫本を読んでいた。酔わずにそのまま読めるのもすごいが、こんな押し込められた姿勢でそのまま微動だにしていないのもすごい。

 一方の俺は、動揺していた。

 どれだけ苦手な奴が隣でも、自分はゆっくり眠れてしまうのか。それとも隣が五十嵐だからだろうか。混乱しているのは、寝起きだからだということにしたい。

 しばらく経って、トイレ休憩があって、そのあとにまた眠ってしまっていたのだが、やはり五十嵐の反応はなかった。

 この時間をやり過ごせたとは思わないが、喋っていない、隣に黙っているだけならば、五十嵐の隣にいるのも悪くないなと、なんとなく思っていた。