それは、席替えをしてから数日後だった。
会話も度会以外とはほとんどしていない。休み時間、俺を経由せず五十嵐はほかのクラスメイトと話している。それを眺めるくらいには、俺も暇なときだった。
授業前の中途半端な時間に、スマホを開いたときだった。
「あれ?」
自分のところで確認するのが遅かったのか、SNSのDMの通知が複数来ていた。
度会ですら、俺に連絡をしてくることはない。だいたい、五十嵐との予定共有で使っていたくらいで、あの体育祭が終わってからほとんど確認をしていなかったもの。
「へ?」
通知欄からタップしたせいで、何が起こっているか、気づくのが遅れた。
自分の意識より先に、既読の通知は相手に行っただろう。
「……これ」
見覚えのある姿に、見慣れない画角の写真が添付されていた。
無言。制服姿はこの学校のもので、机にだって見覚えはあって。
伏せた男の髪色に見覚えしかない、垢抜けない緩んだウェーブの地毛茶髪。
――いや。俺じゃん、これ
どこからどう見ても、自分の姿だった。
ただ、この角度にも、撮られたことも覚えがない。明らかに学校だし、昼休みに昼寝をすることは結構ある。だから、あまり気にするものでもないと思っていた。
が、これは何だ。
送信先は、見覚えのあるアイコン。俺の数えるくらいしかいない相互フォロワー。
「嘘だろ」
連絡先を交換したことを死ぬほど後悔した。
自分は、そうまで敵対視されるようなものだっただろうか。
なんだかんだと言っても、信頼はしていた、はずだった。
「……あいつ」
五十嵐がこんなしょうもないことをするわけがない。そう思いたい。あんなに厳格で、厳しくて、それでいてまっすぐな奴が、イタズラのような行為をするだろうか。
わけがわからない。それとも、俺がサボって寝ていた、だなんだと陰口でも言おうとしていたのか。
問いただそうと、自分の席に座って、ぐるりと五十嵐の席を向いたタイミングだった。
甲高いチャイムの音が、校内に響き渡った。
「よりによって授業前とか」
暗くなった画面に悪態をついたところで、自分の成績がよくなるわけでもない。すぐに先生は入ってきて、授業は始まってしまった。
黒板に書かれている文字列は、確かに読めているはずなのに、いつかみたいに、ただの記号の羅列のようなそれらを書き写しているだけで、全然頭に入ってこない。
ちらりと振り返ることも考えたが、それも微妙だと諦めた。修学旅行でグループだった三人組からのイタズラか、とも思ったけれど、それも確かめようがない。
嫌がらせにしては幼稚で、意図が読めなくて困る。
なんとか頭を切り替えようとしたけれど、この授業の板書はたた書いているだけで終わってしまった。
わからないところは五十嵐に聞いたらいいか、と考えたところで頭を振る。
五十嵐とまた同じように勉強できるかなんてわからない。なのに、当たり前のように五十嵐のことを考えていた自分が恥ずかしい。
終わりのチャイムが鳴り、切り替える。
後ろを振り返って、俺は息を呑んだ。
自分と目が合ったかと思うと、五十嵐は足早に教室から出ていった。
空っぽの席が、ただそこにぽつんと存在していたのだった。


