終礼も終わり、俺は気づきたくないことに、気づいてしまった。
引き出しにしまいそこねた教科書に見覚えがあった。二つ重なった同じもの。忘れたから狩りたものではなく、教えてもらうときに広げて、そのまま俺のカバンに放り込んでしまったものだろう。
「……っ」
恐る恐るその角をずらし、内側を覗き込む。俺のものよりずいぶんとくたびれたそれに書き込まれている赤青の文字。間違いなく五十嵐のものだった。
後ろを振り返る。確かにそこに五十嵐はいるが、先ほど終わったばかりの授業のもので、非常に気まずい。
「あ……」
返しに行くべきだとわかっているが、どうにも足が向かない。
パンの交換をしたあの日から、五十嵐とは距離が出来てしまった。心の距離だけではなく、物理的な意味でも。
「今日から席替えをする、全員机の中のものを出して」
朝のホームルーム、真中センセーの一言目はそれだった。修学旅行を過ぎたらそうする、とは言われていた。でも席替えがなかったから、油断していたのだ。テストまで、ということだったのだろう。他のクラスはもっと早かったらしいから、単純に先生の都合だ。
ここまでで関係ができたグループを、新たに散らして振り分けるという意味もあったのだろう。
だけれど、それのおかげで俺は、五十嵐の後ろではなくなった。彼のすぐあとに引いたというのに、己のくじ運の悪さを呪うくらいには、引きは最悪だった。
むしろ、俺は前列になり、五十嵐は後列になっていた。だから、無理をしないと五十嵐が見えないエリアに入ってしまったのだ。
プリントを配ったり、休憩時間に後ろを振り返ったりしたときくらいしか、五十嵐の姿を確認することができない。今までは、それでよかった。米野が五十嵐の右後ろに座ることまでは確認した。
あえて、会話をしに行くべきなのだろうか。それとも、避けられたときちんと理解して、今後一切関わらないようにすべきか。
決めかねた自分は、後ろを振り向くチャンスがあれば、五十嵐のほうを見ていた。
結局、俺がどれだけ五十嵐を観察しようとしても、五十嵐のほうは、なんにも興味がないらしく、黒目がこちらを向くことはなかったように思う。
当たり前だ、あれだけきちんと勉強しているやつなんだから。
「くそ……」
誰にも聞こえないような、小さな音をぽつりと零していた自覚はある。
あれだけ面倒だろうなと思っていた五十嵐の存在が、目の届くところにないだけで、心が乱れていた。
ただ目に入らないだけ。教室の中には居る。朝礼や日直で、視界に入ることはあるが、ただそれだけのクラスメイト。
当たり前の関係に戻っただけなのに、俺の心はなんだかざわついていた。
引き出しにしまいそこねた教科書に見覚えがあった。二つ重なった同じもの。忘れたから狩りたものではなく、教えてもらうときに広げて、そのまま俺のカバンに放り込んでしまったものだろう。
「……っ」
恐る恐るその角をずらし、内側を覗き込む。俺のものよりずいぶんとくたびれたそれに書き込まれている赤青の文字。間違いなく五十嵐のものだった。
後ろを振り返る。確かにそこに五十嵐はいるが、先ほど終わったばかりの授業のもので、非常に気まずい。
「あ……」
返しに行くべきだとわかっているが、どうにも足が向かない。
パンの交換をしたあの日から、五十嵐とは距離が出来てしまった。心の距離だけではなく、物理的な意味でも。
「今日から席替えをする、全員机の中のものを出して」
朝のホームルーム、真中センセーの一言目はそれだった。修学旅行を過ぎたらそうする、とは言われていた。でも席替えがなかったから、油断していたのだ。テストまで、ということだったのだろう。他のクラスはもっと早かったらしいから、単純に先生の都合だ。
ここまでで関係ができたグループを、新たに散らして振り分けるという意味もあったのだろう。
だけれど、それのおかげで俺は、五十嵐の後ろではなくなった。彼のすぐあとに引いたというのに、己のくじ運の悪さを呪うくらいには、引きは最悪だった。
むしろ、俺は前列になり、五十嵐は後列になっていた。だから、無理をしないと五十嵐が見えないエリアに入ってしまったのだ。
プリントを配ったり、休憩時間に後ろを振り返ったりしたときくらいしか、五十嵐の姿を確認することができない。今までは、それでよかった。米野が五十嵐の右後ろに座ることまでは確認した。
あえて、会話をしに行くべきなのだろうか。それとも、避けられたときちんと理解して、今後一切関わらないようにすべきか。
決めかねた自分は、後ろを振り向くチャンスがあれば、五十嵐のほうを見ていた。
結局、俺がどれだけ五十嵐を観察しようとしても、五十嵐のほうは、なんにも興味がないらしく、黒目がこちらを向くことはなかったように思う。
当たり前だ、あれだけきちんと勉強しているやつなんだから。
「くそ……」
誰にも聞こえないような、小さな音をぽつりと零していた自覚はある。
あれだけ面倒だろうなと思っていた五十嵐の存在が、目の届くところにないだけで、心が乱れていた。
ただ目に入らないだけ。教室の中には居る。朝礼や日直で、視界に入ることはあるが、ただそれだけのクラスメイト。
当たり前の関係に戻っただけなのに、俺の心はなんだかざわついていた。


