「今日は小テスト形式だ」
「うげ、わかった」
「これが解けたら、宿題も減る」
「そうなのか……?」
「そうできるように、アレンジしている」
五十嵐に出されたA4用紙には、十問ほどのかっちりとした文字が印刷されていた。
急に渡されたそれを見て、俺は普通に動揺したんだと思う。
鉛筆にしようが、シャープペンシルにしようが、この枠の中に何を書くべきなのか、という現実逃避めいたことを考えてしまったのだ。
――わからないくらいなら、いっそイラストでも描き足してやろうか。
ちら、と五十嵐を見れば、俺の一挙一動を漏らすわけにいかないという真剣な目で、俺を見ていた。
そんな思いのまま、宿題を開けば当然先に進むわけもなく。
俺は、完全に思考停止してしまっていた。
「……」
「わからないか」
「おう……」
正直、お手上げだった。五十嵐が想定した以上にアホだった俺が悪い。
さて、どうしようか、とお互いに思っていることは、先ほどから一ミリもペン先が動いていない五十嵐が証明してくれている。
俺の、ほぼ自筆の部分がない用紙を見て、彼がまったく、微動だにする気配がないのがその証拠だ。
「……えっと、」
「どこまで戻るか考えている」
戻る、というのはどういうことだろうか。む、といつも以上に眉間の皺が濃い五十嵐は、そのあとも無言のままで。
俺は慌てて、言い訳のような言葉を連ねる。
「だよな。そんなの、おまえの勉強にはならなそうだし、本当に、悪い……頼れるの五十嵐しかいなくて。無理ならもうどうでも、」
「気にするな、考えている」
「う……」
五十嵐がそう言ってくれるけれど、俺は気にするってやつで。
目の前の数学の教科書は角がしっかりと残っていて、五十嵐の持つそれとはだいぶ趣が異なっていると理解する。
「なんかさ、一応、これって解く順番ってあんの? 九九なら前からでも後ろからでも一緒だろ?」
「……そういう話ではない」
「だよなぁ……」
きっちりしている奴らがやっているようなやり方をしないと、俺は、なんというか向いていないんだろう、なんて思ってしまう。
いや、五十嵐が来るまでそうだった。今がおかしいだけで、元々、そうだったじゃないか。
ただ、なんとなく、共通の話題がないってことがちょっと辛くて。俺がため息をつく場面じゃないのに、勝手に悔しくなって落ち込んでしまう。
「いや、その」
「……五十嵐?」
しょげた雰囲気を出してしまったのか、五十嵐は慌てたように言った。
「俺がそういう考えをしていなかったから、考えているだけだ。おまえのせいじゃない」
急にド直球で話す五十嵐を見て、不覚にもキュンとしてしまった。いや、キュンなのかもわからない。なんか、心にぐっときたというか。
「え、っと?」
「悪い……その、どうにかする」
「いや、なんかごめん。わかるのだけ、頑張って解くわ」
「あ……ああ、」
自分のせいで悩ませているのはわかっている。が、一個目から詰んだ俺にかける言葉がないのもわかっている。だったら、できるところからやるしかない。
五十嵐の動揺に、俺はどう反応したらよかったのか。
その先も質問と解答もまぜこぜになって、あれこれを話していた。


