ルーズさが売りの俺が、生真面目クラスメイトに懐かれています

 余裕があるわけじゃない。だからできるだけ早く、とは俺だって思っていた。
 けれど、普段慣れていない奴が運動するのと一緒で、俺は五十嵐並にしっかりと勉強したことが、多分ない。

 その、勉強で使う筋力的なモノを作る段階で、すでに心が折れそうになっていた。

「ええ……わからないんだけど。五十嵐、俺、むり」
「無理じゃない、やれ」
「いやあのそうだけどさぁ……」

 先生が教えるときのような、赤と黒と青で囲われたノートを見ながら、俺は、悲鳴を上げていた。
 この前借りた教科書よりはマシだけど、これはこれで、破壊力抜群だ。

「……で、ここが、これになる」
「……はあ」

 五十嵐の声には、抑揚がない。
 いや、あるとは思うけれど、正直、教科書の文字が上滑りしてなんの文字を追っているかわからなくなる。
 何を言われているやら。一応、文字を読んでいるというのはわかる。けど、その記号や文字やなんやかんやが、結局何を指しているのかが、わからないのだ。

 一切合切、いちから、とは思っていたけれど。
 こればかりは、自分の頭のなさを呪うほかあるまい。

「正直、わからん」
「……そうか」

 思っていることを、そっくりそのまま伝えたところ、五十嵐の眉間のしわは一段と深くなった。それもそうだろう。俺だって、懇切丁寧に教えた内容が一ミリも伝わっていなかったら、むっとするのも当たり前だ。

 だから、五十嵐には申し訳ないとわかっていても、一応、思ったとおりのことを話すようにしていた。

「これならわかるか」
「……うん、たぶん」
「じゃあ説明する。ここは――」

 何度目かの難易度調整。五十嵐は淡々と言葉を紡いでいるが、それ以上、こちらを叱ることも呆れることもない。俺がわからない前提で話してくれているからなのかもしれない。そういう気遣いのような宙ぶらりんな距離感が、なんとなく心地ようなってきている。


 懇切丁寧に教わっていると自覚している。が、しかし。

 言っていることがわからないというのは、相当ストレスなのではないだろうか。
 じ、と五十嵐を見たけれど、なんかどうにもぶれないらしく「解けたなら次に行くぞ」と俺を急き立ててくる。

 まあ、いいけど。俺がお願いしたから、こうして低レベルなことにも付き合ってくれているだけで、五十嵐のほうにはメリットはない。多分。

「こういうことで、合ってんのか?」

 やっと、解答を埋めることができた問題があり、五十嵐に見てもらうことにした。
 五十嵐は顔をしかめたまま、俺に言った。

「……一応」
「いちお、ってなに」
「答えはあっている」
「答え、は、か……」

 やはり正しくあるべし、というのは難しい。

 時々、五十嵐の教科書をなぞる指先と、文字を追う俺の指がとん、と触れたけれど、五十嵐のほうは全然気にしていないように思っていた。
 俺は、なんだか淋しく思ったけれど、その理由はわかっていなかった。