ルーズさが売りの俺が、生真面目クラスメイトに懐かれています

 自分のことを呼びつける男なんて、だいたい一人くらいだろう。

「宇田将也」

 帰宅準備をしていた俺に声をかけてきたのは、やはり五十嵐だった。
 最近やたらと名前を呼ばれてる気がして、なんというか、違和感はあった。

「自主練はするのか」
「は?」
「バレー苦手なんじゃないのか?」
「なんで知ってんだよ」
「去年、顔面レシーブ見たことあったから」
「うえ」

 恥ずかしい。普通に。そんなことを覚えられるほどの失態だったのだろうかと、恥ずかしすぎて泣きそうになった。

「次は打撲じゃすまないと思う。だから練習すべきだ」
「……はあ」

 正直気乗りしない。ていうか、やりたくない。授業で十分体は動かしてるだろ、と思うのだが、どうやら五十嵐も引く気はないらしい。
 圧倒的な圧力を感じつつ、俺は口を開いた。

「一応聞くけど」
「なんだ」

 そもそもこれ、ほかのメンバーにも言ってるんだろうか。
 いや、五十嵐がなんというか「チーム」を集めている姿は想像できない。

 ということは、完全に俺がターゲットにされたということで。ぐるぐると頭を回転させても、ろくなことは思いつかない。
 念のため、と思いながら、俺は五十嵐に向かって口を開いた。

「俺だけ、なんっつーか、補習的な?」
「そうだな」
「おい」

 やけにあっさりと回答されて、俺はちょっと、むかついた。
 下に見られている、という感覚が強かったのかもしれない。たぶん、そういう感じで、俺は反応したのだが、五十嵐はとても真剣な目でこちらを見ていた。

「正直、体育祭くらいで怪我とか、見るのも嫌なんだ」
「くらいでって……」
「単純に、怪我するところを見たくない。特におまえは」

 五十嵐がやけに真剣な目で見てくるから、なんかドキドキした。
 普通に心配されているだけなのはわかっているんだけど、怒られているのとはまた違う感覚で、自分の内側がぽっと暖かくなるような気がしている。

「……お、う……わ、かった」

 俺は、五十嵐の言葉に頷いてしまった。

「連絡するから。どれがいい」
「どれって、SNSこれしかないんだけど」
「大丈夫、ある」

 それからサクサクと五十嵐は俺のアカウントを見つけて、友達同士の設定までしてくれた。五十嵐のアイコンは、どこかに旅行に行ったらしき写真。まじまじとは見ていないが、たぶん、本人の後ろ姿だろう。
 自分が交わることがないと思っていた男とつながっているということに、なんとなく気恥ずかしさがあったものの、五十嵐が本当になにも変わらないので、俺ばかりが振り回されている気もする。

 あとでまた中身を見てひやかしてやるか。
 そう思って強がろうかと思ったが、正直、ここにしょうもないことをアップしている間に、こいつは勉強しているのだろう。勝てる気がしない。

 諦めて、俺は親へ帰りも遅くなることを軽く伝えた。
 特に危険な場所に行くわけでもないとわかっているだろうから、放課後直帰の俺が、学校に居残ることになったけれど、父は心配してないようだった。
 まあ、正直どうでもよかった。家に一人でいることに慣れているのもある。

「まあ、慣れる、と思う」

 そう含んで言った五十嵐の目は、微笑んでいるように見えた。
 そういう五十嵐の微妙な雰囲気の違いを、俺は感じられるようになってしまったのかもしれないと思った。