優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

「距離感バグりチャラ男」

 なんか、一瞬だけ何かを考えているような顔になった。そして直ぐに、いつもの小馬鹿にするような態度を取ってきた。
 そして両腕を掴まれて、静かに離された。特に考えていなかったが、距離が近かったな。

 僕も人のことを言えないのかもな。だけど、こいつ以外に距離感を間違える人はいない。
 分かったぞ! こいつには、遠慮する必要がないからだな。

 こいつだって、無遠慮なんだからな。そんな奴に、遠慮する必要性はないな。
 そのため、思っていることをそのまま告げた。我ながら、いいセンスしているな。

「ふむ……間違っていないかもな」
「少しは否定しろよ」
「連絡してもいいのか」
「は? ダメなら、交換しないだろ」
「……そうだよな」

 見たこともないような真面目な顔をしているため、気になってしまう。そして直ぐに笑顔になって、肯定していた。
 間違っていないが、少しは否定してほしい。間違っていないから、否定する必要はないのか。

 ヤバい、頭が混乱してきた。すると連絡してもいいのかと聞かれ、何を今さらと思った。
 強引かと思えば、遠慮しがちになる。こいつの行動は、いつも未知数である。

 まあ、面白いからいいんだけど。するとメッセージが来て、大量のスタンプが送られてきた。

「スパムのようだから、ブロックしよう」
「もう送らないから、許してよ〜のぞむんパイセン」
「その呼び方をやめろ!」
「じゃあ、なんて呼べば」
「普通に、(のぞむ)でいいだろ」

 文字通りの迷惑メッセージが来たため、ブロックしよう。本気でするつもりはないが、両手を掴んできた。
 若干涙目になっていて、顔を覗き込んできた。少しだけ、絆されそうになってしまった。

 子犬みたいで、可愛いと思ってしまった。だけど、そんなに簡単には懐柔されないぞ。
 そのため、いつも通りに返してみる。内心声が上擦っていないか、心配になってしまった。

 だけどこいつの様子を見る限り、大丈夫そうだな。のぞむんよりかはいいため、望呼びを許可してあげた。
 すると満面の笑みで、名前を呼んできた。こいつはどうして、こうも無駄にイケメンなのだろうか。

「分かった。望」
「つっ……勝手にしろ……それと、スタンプも節度を守ればいいぞ」
「節度か、どんな感じだ」
「自分で考えろ」
「じゃあさ、ダメな時は言ってよ。言う通りにするからさ」
「どうして、そんなに僕の顔色を窺うんだ」
「仲良くなりたいって言うのは、答えになってないか」
「か……ってにしろ」
「ういっす」

 不意に名前で呼ばれ、身体中が熱くなってきた。呼びたいのなら、勝手にすればいい。
 変なあだ名で呼ばれるよりも、そっちの方がいい。だけど、不整脈は止まらない。

 節度を守れと言うと、質問してきた。確かに考えてみると、連絡の頻度とかって人それぞれだしな。
 それはいいとして、僕の顔色を伺う理由が分からない。ただのクラスメイトで、ただのバイト仲間だろ。

 意味が分からないが、こいつの回答を聞いてドキッとしてしまった。
 今日はサングラスをしているため、より一層パリピ感が出ている。

 こいつと一緒にいると、ペースを乱されてしまう。だけどそんなのも悪くないのかと、自然と口角が上がってしまった。
 少しチャラくて、いけすかない。そんな風に思っていたが、自分が思っているよりも悪い奴じゃない。

 今まで厳しくしすぎたなと反省したが、口に出す勇気はない。それ以上に、つけあがる可能性があるため黙っておくことにした。

 星空を眺める横顔に見惚れてしまったのは、黙っておこう。

「桑島くんは、覚えが早いね」
「そっすか? 皆さんの指導が上手いんすよ」
「お世辞言って〜」
「あっ、バレました〜」

 一緒に仕事するようになって、早いもので二週間が経過した。僕が覚えるのに苦労したことも、桑島は簡単に覚えてる。
 僕は全国テストでも、上位にランクインしている。あいつは、下から数えた方が早い。

 まあ、進学校に入学している時点でレベルは高い方だと思うが。学業と仕事では、やっぱり違うものなんだよな。
 こいつの頑張りもあるから、一概には言えないがな。まあ、評価はしてやろうかな。

 純粋に凄いと思うのに、複雑な気持ちになった。そんなことを考える自分が、物凄く嫌な奴に思えた。

「オーダー、俺への恋をひとつ!」
「お前、何言ってんだ」
「え〜、真剣なのに〜」
「見えない」

 お昼休憩になり、バックヤードで休んでいた。お昼を食べながら、スマホで漫画を読んでいた。
 そこに桑島がやってきて、隣に座ってきた。すると他の人に聞こえるような声で、恥ずかしいことを言っている。

 なんか、こいつの行動はみんな慣れてきた。また、変なことを言っている。
 そんな漢字で流されているため、誰も気にしていない。僕もその一人と言いたいが、ドキッとしてしまった。

 なんか、最近この冗談に笑えなくなってきた。本気じゃないって、ちゃんと分かっているはずなのに。
 平常心を装って、普通に接している。なんか、最近僕はこいつが絡むとおかしくなってしまう。

「え〜、うーんと……キリッ」
「あはは、何言ってんだ」
「やっと、笑ったな」
「えっ」
「今日ずっと、眉間に皺を寄せていたから」

 僕の言葉に、キリッと言って眉をきりりとさせた。効果音を口で言って、真面目ぶっても意味はない。
 まあ、なんか可愛いからいいかもな。面白くなってきて、自然と笑顔になっていた。

 笑ったと言われて、不思議に思った。すると僕は今日、眉間に皺を寄せていたらしい。
 こいつは笑いながら、僕の眉間に手を伸ばしてきた。前なら、触ってほしくなかった。

 だけど今は、触られた箇所が熱くなってしまう。どうして、こんな風になるのか皆目見当がつかない。
 だけど、一つだけ分かっていることがある。僕はこの時間が楽しくて、バイトに来ている。

 もちろん、趣味のためでもあるが。だけどこいつとの、何気ない時間がかけがえないんだ。
 こいつといると、心の底から笑うことができる。図に乗るだろうから、絶対に言わないでおこう。

「重っ」
「望、手伝うよ」