優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

 率先して、できることを頑張っている。その姿を見て、感心していた。
 初日のチャラい挨拶のせいで、最初は敬遠されていた。しかしそんなことは、意にも介さず直向きに頑張っている。

 直ぐに、色んな人に認めてもらっていた。こいつの頑張りは、素直に認めてあげることにしよう。
 お局さんとも、仲良くやっている。無駄にコミュ力が高いようで、正直ちょっとだけ羨ましい。

 不意に見せる真剣な眼差しに、胸の奥がざわついている。最近変なのは、不整脈の可能性があるな。

「あちっ」
「大丈夫か」
「だいじょ」
「こういう時に、強がるな。ほら、冷やして」

 ポテトを揚げていると、油が手に跳ねてきた。するとそのことに気がついて、桑島が近付いてきた。
 手を掴まれて、ドキッとしてしまった。僕よりも大きくて、ゴツゴツしていた。

 心配そうに顔を覗き込んできて、恥ずかしくなってきた。思わず目を逸らして、適当に誤魔化した。
 水で冷やして、氷を持ってきてくれた。少しだけのため、そんなに大事ではない。

 だけど、火傷したところよりも熱い箇所がある。それは掴まれている手が、尋常じゃないぐらいに熱い。
 これは一体、何なんだよ。助けてくれて、優しく微笑んでくれていた。

 その笑顔に、キュンとしてしまった。こいつって、意外と優しいんだよな。
 仕事中なのに、心拍数が上がってしまう。やっぱり、不整脈なのかもな。

 ある程度冷やすと、桑島は仕事に戻った。僕は社員さんに、冷やしておくように言われた。
 そのため、素直に従うことにした。あいつがいなくなったら、急激に冷えたような気がする。

「のぞむん、帰ろっ!」
「いいぞ」
「そんな直ぐに、否定しな……今、なんて」
「だから……いいぞって」
「そっか……手、大丈夫?」
「直ぐに冷やしたし……薬も、もらったから」
「そっか、よかった」

 バイトが終わり、更衣室で着替えていた。するとそこに、満面の笑みの桑島がやってきた。
 最近、僕の着替えを見ない。見てほしくはないが、初日のあれは一体何だったんだろうか。

 まあ、変態チャラ男の気持ちなんて知る由もないけど。帰ろうと言ってきたが、毎回僕は断っていた。
 しかし断っても、勝手に着いてきた。そんなことが日常になっているため、驚かれてしまった。

 心配してくれているし、さっきは助けてくれた。だから、そのことについてお礼を言うことにした。
 拒否しても、勝手に着いてくる。そのため一々否定するのが、めんどくさくなってきた。

 ただそれだけのことで、別に一緒に帰りたいわけじゃない。助けてもらったし、お礼ぐらいは当然だよな。

「まあ、お礼を言われたくないなら……訂正する」
「そんな悲しいこと言うなよな」
「……その」
「ふっ……ほんと、可愛いな〜」

 手を火傷したため、バッグを持ってくれた。別に頼んでいないが、こいつが自主的にやってくれている。
 油が跳ねたのは少量だし、もう痛くもない。普通に仕事できていたし、重症じゃないぞ。

 だから遠慮したが、ニコニコ笑顔で持ってくれた。そのため、お言葉に甘えることにした。
 それにこいつって、本当に意外と頑固なんだよな。笑顔で返されるため、何も言えなくなってしまう。

 僕たちはバイト後に、コンビニで飲み物を買う。そして近くの公園のベンチで、話すのが日課になっている。
 再度お礼を言うが、恥ずかしくなってしまった。なんか、体が熱いような気がする。

 こいつの顔がまともに見れないため、憎まれ口を叩いてしまう。すると少しだけ悲しそうな声がして、思わず見てしまう。
 笑顔だけど、どことなく寂しそうに見えた。そのため、完全に狼狽えてしまった。

 だって、なんか間違えたかな。僕って昔から、空気が読めないって言われることが多い。
 察してほしいと言われても、無理なのである。そのためか、中学では友達はできた試しがない。

 またもや、可愛いって言ってきた。前なら、相手も軽いし別にと流していた。
 だけど今は、なんとなくしたくない。なんか、心拍数が上昇してしまった。

「お前な……そんな軽いことばかり言っていると、勘違いされるぞ」
「勘違いって?」
「本心だと思われて……その……す……きとか」
「俺は勘違いされてもいいけど」
「えっ……」
「なんてな」
「おまっ! 人のこと揶揄うのもいい加減に!」
「あはは、真っ赤だな」
「くそっ……一体、なんなんだよ。こっちは……と……もだちの距離感が分からないのに」

 こいつにとっては、取るに足らない言葉なんだろうな。僕以外にも不特定多数に、同じようなことを言っている。
 きっと、こいつにとっては深い意味はない。僕だからいいが、勘違いされるぞ。

 そのことを指摘すると、本当に分かっていないようだ。そのため、少し吃りながらも言いたいことを伝えた。
 すると満面の笑みで、意味深なことを告げてきた。驚くと直ぐに訂正してきたため、胸を両手で少し小突いた。

 僕を揶揄って、遊ばないでほしい。こいつにとっては、友達の距離感なんて考えないだろう。
 だけど僕にとっては、久しぶりなんだよ。僕は思わず頬を膨らまして、桑島の顔を見上げた。

 みるみるうちに顔が真っ赤になって、変な奴である。それにしても、本当に筋肉質だよな。
 服の上からでも分かるぐらいに、胸筋がついている。まあ、細マッチョってやつだろうな。

「……俺だって、手探りだよ」
「えっ」
「こっちの話。じゃあさ、遠慮しなくていいのか」
「遠慮なんて、お前の辞書にあるのか」
「俺のこと、なんだと思ってるんだ」