「地球奪還ログ:ERROR」

新たなメッセージが解析画面に浮かび上がった。

それは、すでに見たことがあるものとは全く異なる、もっと抽象的で不可解な形だった。

「これは…なんだ?」

ジェームス博士が言った。

彼の目の前に現れたのは、いくつかの回転するシンボルのようなものと、歪んだ線で構成された幾何学模様だった。

一見するとただの無意味なパターンに思えるが、どこか強烈な引力を感じさせる不思議な魅力があった。

「これは…」

「言葉にならない…」

アリス博士は解析画面をじっと見つめ、呆然とした表情を浮かべた。

「まるで、この物体が私たちに何かを伝えようとしているみたい。」

エドワード博士が言った。

「でも、どうやって伝えているんだ?こんな形じゃ、解読なんてできない。」

「確かに…」

ジェームス博士は少し考え込む。

「でも、少なくともこれは意思の存在だろう。もし私たちが誤解しているのだとしたら、これから何かが起こるはずだ。」

その時、物体が突然、強い振動を始めた。

部屋の空気がぴんと張り詰め、まるで周囲の世界が歪んだかのような感覚が漂う。

「何だ、これ!?」

「振動が強くなってる!」

アリス博士が声を上げ、机の上にある道具がカタカタと揺れ始める。

ジェームス博士は物体を見つめながら、冷や汗をかいていた。

「これ、何かがおかしい…」

ジェームス博士は呟いた。

「今までの解析が違っていたのか、これが本当の目的なのか…」

その瞬間、物体の表面に一筋の光が走り、まるで命を持つかのように、表面の模様が動き出した。

そして、その光が一瞬、部屋全体を包み込んだかと思うと、瞬時に消え去った。

「い…今のは何だったんだ?」

エドワード博士は震える声で言った。

「光が…、まるで私たちの視覚に直接訴えてきたような…。」

「これは、本当にただの物体じゃない。」

アリス博士が言った。

目を見開きながら、まるで自分でも信じられないような表情で続ける。

「これが異星の遺物だとしたら、それだけで済むはずがない。私たちが扱っているのは…もっと別の何かだ。」

ジェームス博士は、冷静さを取り戻しながらも、どこか震える声で言った。

「この物体は、私たちに何かを教えようとしているのか、あるいは私たちを試しているのか…。
 いや、それとも…私たちに警告しているのか?」

その問いに答えるように、再び物体が微弱な振動を始め、解析画面のデータが急速に増加していった。

次々に現れる新たなシンボル、模様、信号。

それらは全て、異星文明のものだとしか考えられなかった。

「もう一度、シグナルを分析してみよう。」

ジェームス博士が言うと、アリス博士がすぐにコンピュータに向かって入力を始めた。

「でも…これ、ただの信号じゃないわ。」

アリス博士が口を開く。

「これ、時間を超越したような感じがする。」

「時間?」

ジェームス博士は不思議そうに聞き返した。

「それはどういう意味だ?」

アリス博士は、少し困惑しながらも答えた。

「時間の流れが、普通じゃない。信号のパターンが、まるで過去と未来が一緒に流れているみたいなの。
 これは…私たちの理解を超えている。」

「過去と未来…?」

ジェームス博士はその言葉に何か引っかかるものを感じ、深く考え込んだ。

その時、再び物体の振動が激しくなり、コンピュータの画面が急にブラックアウトした。

部屋の中に深い静寂が広がる。

「何が起こった?」

エドワード博士が言った。

冷や汗をかきながら、コンピュータの画面を確認する。

その時、画面が再び点灯し、先程のシンボルが繰り返し現れた。

その中に、一つだけ異なるものがあった。

それは、今までに見たことがない文字で書かれた短いメッセージだった。

「“見守れ、我々の覚醒を”」

ジェームス博士はそのメッセージを見て、しばらく言葉を失った。

それは明らかに、何か大きな意味を持つ言葉だった。

「覚⋯醒…?」

アリス博士は恐る恐るその言葉を繰り返す。

ジェームス博士はゆっくりと立ち上がり、言った。

「これが、私たちが最初に触れた本当の答えかもしれない。覚醒、それが物体の目的、そして私たちの使命なのかもしれない。」

物体から発せられる振動が更に強くなり、ジェームス博士たちの目の前で、何かが動き出すような感覚を覚えるのだった…。

突然、研究室の奥から扉が開く音が響いた。

その音に反応して、全員が一斉に振り向くと、そこに立っていたのは、白髪交じりの老科学者、
レイモンド・ウィルキンソン博士だった。

彼の顔には長年の研究による深いシワが刻まれており、歩き方もどこか不安定だった。

その姿を見たアリス博士が少し眉をひそめる。「レイモンド博士、また来たのか?」

「ふむ、「また」起こるときが来たようだ…」

ウィルキンソン博士はゆっくりと歩み寄り、ジェームス博士の前に立つ。彼の目は鋭く、どこか冷徹なものを感じさせた。

「お前たちはまだその物体が侵略の兆しに過ぎないということに気づいていないようだな。」

「侵略?」ジェームス博士が一瞬息を呑む。

「あなたは…何を言っているんですか?」

ウィルキンソン博士は冷たい笑みを浮かべると、口を開いた。

「これはただの物体じゃない。あれは道具だ。地球侵略のために、異星文明が送り込んだ使者だ。」

その言葉に、研究室の空気が一変した。

「侵略?」

アリス博士が鼻で笑いながら言った。

「それはちょっと大げさすぎるんじゃないですか、レイモンド博士。あなたの理論はもう時代遅れです。」

「ええ、確かに…」

エドワード博士も苦笑いを浮かべながら続けた。

「最近、また昔の妄想を思い出してきたんですね、ウィルキンソン博士。」

ウィルキンソン博士は、周囲の科学者たちの冷笑を一切気にせず、まるでそれが承認されたかのようにゆっくりと続ける。

「君たちは、物体の表面をなぞるだけで、本質を見逃しているんだ。
 この物体のエネルギー反応や、送り込まれた信号…それは全て侵略の兆しに過ぎない。」



ジェームス博士は眉をひそめて言った。
「信号の中に侵略の兆し?レイモンド博士、あなたは今でも侵略者の陰謀を信じているのですか?」

「もちろんだ。」

ウィルキンソン博士はじっとジェームス博士の目を見つめて答える。

「私が最初にこの物体を見たときから、すでに確信していた。これはただの異星の遺物ではない。異星人が送ったメッセージだ。」

周囲の科学者たちは、一斉に苦笑を浮かべながら顔を見合わせる。

「レイモンド博士、あんたは本当に昔の妄想から抜け出せないんですね。」

アリス博士は皮肉たっぷりに言った。

「これがただのメッセージだと思っているのか?」

ウィルキンソン博士は声を荒げる。

「君たちは物体の表面ばかり見て、真実を見ようとしない。」

ジェームス博士が手を挙げて、みんなを静める。

「レイモンド博士、あなたの言いたいことはわかります。
しかし、今は冷静になって考えましょう。信号が異星から送られてきたのは確かです。
でも、それが侵略を意味しているかどうかは、まだ証拠がありません。」

「証拠?」

ウィルキンソン博士は笑った。

「君たちは、証拠を待つのか?証拠なんて、すでにこの物体そのもので示されている。
 あれが侵略者からの呼びかけだということを。」

「侵略者?」エドワード博士が眉をひそめる。

「それ、今さらどうやって証明するんですか?」

「証明なんてしなくてもいい。」

ウィルキンソン博士は一歩前に出る。
「物体が反応し、そしてその中から出てくる信号が、私たちの世界に何かを呼び込もうとしているんだ。
それが、侵略の兆しだと感じている。」

その瞬間、再び物体が振動を始めた。

ジェームス博士は冷静に言った。

「信号がまた反応しています。
 レイモンド博士が言うように、もしこれが本当に侵略の前兆だとしたら、私たちはその真実に迫らなければなりません。」

「もちろんだ。」

ウィルキンソン博士は真剣な表情を浮かべて言った。

「でも君たちには、まだその覚悟が足りない。」

周りの研究者たちは再び冷ややかな視線をウィルキンソン博士に向けるが、
ジェームス博士は無言でコンピュータの画面を再度確認し始めた。

そして、物体が発する信号のパターンがまた変わる。

それは、まるで何かを呼び寄せているような、強烈な引力を感じさせるものであった。

ジェームス博士はつぶやいた。

「これが侵略の兆しだとしても、私たちにはまだ答えが見えていない。」

ウィルキンソン博士は満足そうに微笑みながら、部屋を後にした。
「それがわかる時が、じき来るだろう。」