「ね、ねえ……。あの、アディオ」
「ん? どうしたの?」
目の前にいる魔物を〝魔法の糸〟で吹き飛ばしながら、僕は彼女の呼びかけに応じる。
「あなたが今吹っ飛ばしている魔物って……。その、ブラウンゴーレムよね?」
「そうだね。そんな名前だった気がする」
「ブ、ブラウンゴーレムって重かったはずよね? 民家一軒分にも匹敵するって聞いたことあるんだけど……」
「そうなのかな? 僕でも倒せているくらいだし、弱い魔物だとは思うけど」
街の外に出て、およそ十分経っただろうか。
予想していた通り、ここには魔物がうじゃうじゃと徘徊していて――。最も多く生息しているのが、前述の〝ブラウンゴーレム〟である。
現在僕たちの歩いている場所は、鬱蒼と草木の生い茂る地帯。
たしかゲームの設定上では、大昔に遺跡があったんだったか。途中で倒壊している石柱だとか、ボロボロな石畳が並んでいたりとか……。独特の雰囲気の漂う一角なんだよな。
そしてこのブラウンゴーレムは、たしかこの遺跡の守護者だったはず。
もう遺跡そのものは失われてしまったわけだけど、それでもみずからの使命をまっとうするがごとく、侵入者たちを滅するべく徘徊している……。
そんな設定だったかな、たぶん。
倒しても倒しても沸いてくるから、いまだに古代文明がどこかで稼働していて――このブラウンゴーレムたちを生み出しているんじゃないかって説もある。
まあ、そのへんの話はゲームでもぼやかされているけどね。
いずれにせよ、こんな僕でも簡単に倒せるくらいの魔物たちだ。古代文明とやらにもガタがきはじめているんだと思う。
「ガァァァァァァァァ‼」
「――そいやっと」
奇声とともに迫り寄ってくるブラウンゴーレムに向けて、僕は人差し指を突き出す。
体内に巡る魔力を指先に一転集中させ、それをブラウンゴーレムに放出。
わかりやすく例えるならば、前述の通り、魔力の糸を魔物に巻き付ける形である。
「グァッ……!」
魔力に拘束されたブラウンゴーレムは、拳を振り上げた姿勢のまま硬直した。
「申し訳ないけど、君たちいい加減邪魔。どっか行ってくれない?」
「グァァアアアアアアアアア⁉」
そのまま僕がひょいと指先を動かすと、ブラウンゴーレムは空叩く吹き飛ばされていった。
繰り返すが、僕には魔法の才能がないからね。
馬鹿正直に呪文を唱えたってたいした火力は出せないため、こういう裏技で場を凌ぐことしかできない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
ユリィアはくわっと目を見開き、戦闘に勝利した僕の目の前にまわりこむ。
「ブ、ブラウンゴーレムってかなりの強敵だったはずでしょ⁉ それなりに鍛錬を積んだ兵士でさえ、ひとりで倒すのは至難の業だって……!」
「はは、だとしたらそれはデマだよ。だってほら、僕がこんなに簡単に倒してるんだよ?」
「デ、デマ……?」
「うん。彼らにはよく実験体になってもらっているしね。いきなり襲い掛かってくるから、遠慮なく吹っ飛ばせるんだよ」
「…………」
さっきまで澄まし顔だったのが、ここにきて急に呆けるユリィア。
前世も含めて、こんな表情豊かなラスボスは見たことないが――何をそんなに驚いているんだろうか。
ゲーム設定においても、ブラウンゴーレムはそんなに印象強い敵ではなかったはずだけど。
「も、もしかして私がおかしいの……? いくら公爵家の血筋があろうとも、ブラウンゴーレム相手には油断してはいけないって教わったはずだけど……」
「はは、そんなわけないじゃん。ユリィアは大事な令嬢だったから、万一のことがないように教育されたんじゃない?」
「そ、そっか。そう考えれば納得できる……のかしら?」
と言いながらも、いまだに得心いかない表情をしているユリィア。
「で、でも、いったいどうやってるの? あんなに重そうなブラウンゴーレムを、指先で吹き飛ばすなんて……」
「ふふ、よく聞いてくれたね‼」
ユリィアからの問いかけに、僕は胸をウキウキさせながら回答する。
「いや、やっぱりいいわ。説明しなくて――」
「この世界で〝常識〟とされている呪文は、唱えるだけで術者の魔力を自動的に動かすものなんだよ。だから魔力の強い人であれば、何も考えずに呪文を唱えるだけで強い魔法を放つことができるんだ。――そこで考えたんだよ。呪文という過程を経ずに、魔力を動かすという結果を得ることはできないかと」
「だから、もういいって……」
「そしてついに、僕は編み出したんだ! 呪文を唱えずとも体内の魔力を動かし――なおかつ、強力な魔法を放つ方法を‼」
「グゴァァァァァァァァァァァァ!」
そんな会話を繰り広げている間に、またしてもブラウンゴーレムが目前に立ちはだかる。
よくよく見てみると、色が少しだけ黒みがかっているな。俗に言う亜種――通常のブラウンゴーレムよりも、少し強化された変異種だと考えられるだろう。
「元の魔力量が低いから、たいした魔法は放てないけどね。けれど、指先に最大限の魔力を集中させれば、僕にもそれなりの魔法を扱うことができるんだ」
そんなことを口走りながら、僕は再びブラウンゴーレムに人差し指を向ける。
そのあとに体内の魔力を動かすのは先ほどと同じ。
だが今回については、さっきよりも大量の魔力を指先に集めていくこととする。それだけで指先に淡い光が生じ、周囲を軽く照らし出していく。
この世界において呪文を詠唱すると、その内容に応じて一定の魔力を消費することになる。
わかりやすく数字で例えると、ファイアボールの魔法で十の魔力を消費するのなら、術者の魔力にかかわらず十の魔力を使うことになるんだよね。
だから術者が誰であろうと、ファイアボールの威力は一定。
それ以上の魔力をファイアボールに注ぐことはできないし、逆に力を抑えることもできない。
けれど僕はその魔力を――任意で操作できるようにした。
たとえ弱い魔法であろうとも、僕の力加減次第で、いかようにも強化できるのだ。
「それ! いくよ‼」
そんな啖呵とともに、僕は先ほどよりも強力な〝魔力の糸〟をブラウンゴーレムに巻き付ける。
この行為自体も、普通の魔術師たちには不可能な芸当だ。
火属性、水属性、氷属性、雷属性、風属性、闇属性、光属性――。
呪文の詠唱によって実現できるのは、この七属性の魔法を放つことだけ。いかなる呪文をもってしても〝魔力の糸〟を飛ばすことはできないため、これは魔法実験を突き詰めたからこそ到達した領域とも言える。
もちろん、僕の魔力なんて屁みたいなもんだからね。
こんなテクニックができたところで、正直どうってことはないんだが――無能と呼ばれたアディオにしては、まあ上出来と呼ばれるくらいにはなっただろう。
「ググググ……ガガガガガガガガ……!」
強力な〝魔力の糸〟に拘束されて、やはりその場で硬直するブラウンゴーレム。
いかに攻撃力の高い個体といえども、強化された〝魔力の糸〟にはなすすべがないだろう。
――そして。
「せっかくだ。君には最高の魔法ショーを見せてあげよう」
僕はニヤリと笑うと、右手をぎゅうっと握りしめる。
その瞬間だった。
「ガァァァァァァァァァァァァァアア……!」
高い戦闘力を誇るはずのブラウンゴーレムは、〝魔力の糸〟に全身を圧迫されるや――。
その数秒後には、魔物の全身がバラバラに飛び散る形で絶命していった。
「う、嘘……? ブラウンゴーレムの亜種を、こんな一瞬で……?」
「まあ、元の魔力が低いから、〝普通の魔法〟を使ってもたいした威力は出ないけどね。でもまあ、これが僕の実験成ってやつかな」
体内に巡る魔力を操作し、外部へ放出する。
長い魔法実験の果てに、僕が身に付けた技術がそれだ。
やはり才能のないモブ貴族に転生してしまっただけあって、やれることは本当にショボいね。何も考えずに呪文を唱え、大規模な爆発を起こす――。
そういうふうに戦えたほうが、どう考えたって楽だし強いから。
「でも、僕はこの実験結果を満足に思ってるよ。魔法の才能がなくたって、ある程度は戦えることがわかったからね」
もちろん、これで魔法実験を突き詰めたとは考えていない。
ゆくゆくは詠唱魔法――呪文を唱えて発動する魔法を僕はそう呼んでいる――のように、高威力の魔法を放ちたい。
魔法オタクである身としては、やっぱりそれに憧れを抱くものだから。
「さ、才能がないって、嘘でしょ? ブラウンゴーレムを一瞬で倒す人なんて、王都にもそんなにいないんじゃ……」
「……まだそんなこと言ってるのかい? こんなザコに苦戦する人はそういないと思うけど」
「ザ、ザコって……」
僕の発言に対し、またも目を丸くするユリィア。
「ともあれ、先に進もう。あと五分もすれば目的地に着くはずだよ」
「え、ええ……」
僕の問いかけに対し、ユリィアはなおも得心のいかない顔ではあったが――数秒後にはしっかりとついてきてくれるのだった。
「ん? どうしたの?」
目の前にいる魔物を〝魔法の糸〟で吹き飛ばしながら、僕は彼女の呼びかけに応じる。
「あなたが今吹っ飛ばしている魔物って……。その、ブラウンゴーレムよね?」
「そうだね。そんな名前だった気がする」
「ブ、ブラウンゴーレムって重かったはずよね? 民家一軒分にも匹敵するって聞いたことあるんだけど……」
「そうなのかな? 僕でも倒せているくらいだし、弱い魔物だとは思うけど」
街の外に出て、およそ十分経っただろうか。
予想していた通り、ここには魔物がうじゃうじゃと徘徊していて――。最も多く生息しているのが、前述の〝ブラウンゴーレム〟である。
現在僕たちの歩いている場所は、鬱蒼と草木の生い茂る地帯。
たしかゲームの設定上では、大昔に遺跡があったんだったか。途中で倒壊している石柱だとか、ボロボロな石畳が並んでいたりとか……。独特の雰囲気の漂う一角なんだよな。
そしてこのブラウンゴーレムは、たしかこの遺跡の守護者だったはず。
もう遺跡そのものは失われてしまったわけだけど、それでもみずからの使命をまっとうするがごとく、侵入者たちを滅するべく徘徊している……。
そんな設定だったかな、たぶん。
倒しても倒しても沸いてくるから、いまだに古代文明がどこかで稼働していて――このブラウンゴーレムたちを生み出しているんじゃないかって説もある。
まあ、そのへんの話はゲームでもぼやかされているけどね。
いずれにせよ、こんな僕でも簡単に倒せるくらいの魔物たちだ。古代文明とやらにもガタがきはじめているんだと思う。
「ガァァァァァァァァ‼」
「――そいやっと」
奇声とともに迫り寄ってくるブラウンゴーレムに向けて、僕は人差し指を突き出す。
体内に巡る魔力を指先に一転集中させ、それをブラウンゴーレムに放出。
わかりやすく例えるならば、前述の通り、魔力の糸を魔物に巻き付ける形である。
「グァッ……!」
魔力に拘束されたブラウンゴーレムは、拳を振り上げた姿勢のまま硬直した。
「申し訳ないけど、君たちいい加減邪魔。どっか行ってくれない?」
「グァァアアアアアアアアア⁉」
そのまま僕がひょいと指先を動かすと、ブラウンゴーレムは空叩く吹き飛ばされていった。
繰り返すが、僕には魔法の才能がないからね。
馬鹿正直に呪文を唱えたってたいした火力は出せないため、こういう裏技で場を凌ぐことしかできない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
ユリィアはくわっと目を見開き、戦闘に勝利した僕の目の前にまわりこむ。
「ブ、ブラウンゴーレムってかなりの強敵だったはずでしょ⁉ それなりに鍛錬を積んだ兵士でさえ、ひとりで倒すのは至難の業だって……!」
「はは、だとしたらそれはデマだよ。だってほら、僕がこんなに簡単に倒してるんだよ?」
「デ、デマ……?」
「うん。彼らにはよく実験体になってもらっているしね。いきなり襲い掛かってくるから、遠慮なく吹っ飛ばせるんだよ」
「…………」
さっきまで澄まし顔だったのが、ここにきて急に呆けるユリィア。
前世も含めて、こんな表情豊かなラスボスは見たことないが――何をそんなに驚いているんだろうか。
ゲーム設定においても、ブラウンゴーレムはそんなに印象強い敵ではなかったはずだけど。
「も、もしかして私がおかしいの……? いくら公爵家の血筋があろうとも、ブラウンゴーレム相手には油断してはいけないって教わったはずだけど……」
「はは、そんなわけないじゃん。ユリィアは大事な令嬢だったから、万一のことがないように教育されたんじゃない?」
「そ、そっか。そう考えれば納得できる……のかしら?」
と言いながらも、いまだに得心いかない表情をしているユリィア。
「で、でも、いったいどうやってるの? あんなに重そうなブラウンゴーレムを、指先で吹き飛ばすなんて……」
「ふふ、よく聞いてくれたね‼」
ユリィアからの問いかけに、僕は胸をウキウキさせながら回答する。
「いや、やっぱりいいわ。説明しなくて――」
「この世界で〝常識〟とされている呪文は、唱えるだけで術者の魔力を自動的に動かすものなんだよ。だから魔力の強い人であれば、何も考えずに呪文を唱えるだけで強い魔法を放つことができるんだ。――そこで考えたんだよ。呪文という過程を経ずに、魔力を動かすという結果を得ることはできないかと」
「だから、もういいって……」
「そしてついに、僕は編み出したんだ! 呪文を唱えずとも体内の魔力を動かし――なおかつ、強力な魔法を放つ方法を‼」
「グゴァァァァァァァァァァァァ!」
そんな会話を繰り広げている間に、またしてもブラウンゴーレムが目前に立ちはだかる。
よくよく見てみると、色が少しだけ黒みがかっているな。俗に言う亜種――通常のブラウンゴーレムよりも、少し強化された変異種だと考えられるだろう。
「元の魔力量が低いから、たいした魔法は放てないけどね。けれど、指先に最大限の魔力を集中させれば、僕にもそれなりの魔法を扱うことができるんだ」
そんなことを口走りながら、僕は再びブラウンゴーレムに人差し指を向ける。
そのあとに体内の魔力を動かすのは先ほどと同じ。
だが今回については、さっきよりも大量の魔力を指先に集めていくこととする。それだけで指先に淡い光が生じ、周囲を軽く照らし出していく。
この世界において呪文を詠唱すると、その内容に応じて一定の魔力を消費することになる。
わかりやすく数字で例えると、ファイアボールの魔法で十の魔力を消費するのなら、術者の魔力にかかわらず十の魔力を使うことになるんだよね。
だから術者が誰であろうと、ファイアボールの威力は一定。
それ以上の魔力をファイアボールに注ぐことはできないし、逆に力を抑えることもできない。
けれど僕はその魔力を――任意で操作できるようにした。
たとえ弱い魔法であろうとも、僕の力加減次第で、いかようにも強化できるのだ。
「それ! いくよ‼」
そんな啖呵とともに、僕は先ほどよりも強力な〝魔力の糸〟をブラウンゴーレムに巻き付ける。
この行為自体も、普通の魔術師たちには不可能な芸当だ。
火属性、水属性、氷属性、雷属性、風属性、闇属性、光属性――。
呪文の詠唱によって実現できるのは、この七属性の魔法を放つことだけ。いかなる呪文をもってしても〝魔力の糸〟を飛ばすことはできないため、これは魔法実験を突き詰めたからこそ到達した領域とも言える。
もちろん、僕の魔力なんて屁みたいなもんだからね。
こんなテクニックができたところで、正直どうってことはないんだが――無能と呼ばれたアディオにしては、まあ上出来と呼ばれるくらいにはなっただろう。
「ググググ……ガガガガガガガガ……!」
強力な〝魔力の糸〟に拘束されて、やはりその場で硬直するブラウンゴーレム。
いかに攻撃力の高い個体といえども、強化された〝魔力の糸〟にはなすすべがないだろう。
――そして。
「せっかくだ。君には最高の魔法ショーを見せてあげよう」
僕はニヤリと笑うと、右手をぎゅうっと握りしめる。
その瞬間だった。
「ガァァァァァァァァァァァァァアア……!」
高い戦闘力を誇るはずのブラウンゴーレムは、〝魔力の糸〟に全身を圧迫されるや――。
その数秒後には、魔物の全身がバラバラに飛び散る形で絶命していった。
「う、嘘……? ブラウンゴーレムの亜種を、こんな一瞬で……?」
「まあ、元の魔力が低いから、〝普通の魔法〟を使ってもたいした威力は出ないけどね。でもまあ、これが僕の実験成ってやつかな」
体内に巡る魔力を操作し、外部へ放出する。
長い魔法実験の果てに、僕が身に付けた技術がそれだ。
やはり才能のないモブ貴族に転生してしまっただけあって、やれることは本当にショボいね。何も考えずに呪文を唱え、大規模な爆発を起こす――。
そういうふうに戦えたほうが、どう考えたって楽だし強いから。
「でも、僕はこの実験結果を満足に思ってるよ。魔法の才能がなくたって、ある程度は戦えることがわかったからね」
もちろん、これで魔法実験を突き詰めたとは考えていない。
ゆくゆくは詠唱魔法――呪文を唱えて発動する魔法を僕はそう呼んでいる――のように、高威力の魔法を放ちたい。
魔法オタクである身としては、やっぱりそれに憧れを抱くものだから。
「さ、才能がないって、嘘でしょ? ブラウンゴーレムを一瞬で倒す人なんて、王都にもそんなにいないんじゃ……」
「……まだそんなこと言ってるのかい? こんなザコに苦戦する人はそういないと思うけど」
「ザ、ザコって……」
僕の発言に対し、またも目を丸くするユリィア。
「ともあれ、先に進もう。あと五分もすれば目的地に着くはずだよ」
「え、ええ……」
僕の問いかけに対し、ユリィアはなおも得心のいかない顔ではあったが――数秒後にはしっかりとついてきてくれるのだった。

