その翌日は、激しい雨が降った。まさに春の嵐で、流石にこんな天気では齊藤は現れないだろうと諦めていたが、夕飯の残りを口にしていたところでインターホンが鳴った。
「こんにちはー、レンレンです」
インターホン越しにふざけられ、出ないことにしようかと一瞬思った。
「佐倉君、君は本当は、飯田さんのことは好きじゃなかったんじゃないですか?」
「いいえ、好きでしたよ」
「でも、他にもっと好きな人がいた。その人を諦めるために告白した」
「違いますよ」
「その相手は、香月君だった」
「違いますよ。あんな奴、一生誰とも付き合わなきゃいいんだ」
「そう、佐倉君、君は香月君が憎かった。君の一番好きな人を自殺に追いやったから」
「……入って下さい」
俺は全てを打ち明けることに決めた。
「先生、刑事みたいですね」
ずぶ濡れの齊藤にタオルを差し出せば、齊藤はあっさり認めた。
「ええ、元刑事です」
「でも、ボンクラ刑事だ」
「外れてましたか」
「当たらずとも遠からず、ですね」
齊藤にリビングの椅子を勧め、その向かい側に腰かけると、何だか事情聴取を受ける被疑者のような心地がした。
「俺は飯田さんのことは好きでしたよ。それは本当です。告白するくらいには。それで、本当にたまたま、香月も飯田さんが好きで、俺が告白をしたことを知った途端に、俺に怒りの矛先を向けた。自分の物を取られた気がしたんでしょうね」
それで終わりではないと気付かれているのだろう。齊藤は目線で続きを促した。
「苛められることは、確かに地獄でした。でも、それくらいでは俺はこんなに長い期間不登校になるつもりはありませんでした。本当の地獄を見る、その時までは」
強く目を瞑ると、今でも思い浮かぶ。
中学の時からの親友で、密かに片想いをし、失恋した相手である水無月陽介が、音信不通になった間に精神科病院に入院していたと知った時のことを。
表情の抜け落ちた顔で、自分の恋人が浮気をした相手が香月だということや、でも香月は本気ではなく、散々弄んだ末に捨て、恋人は命を絶ったと打ち明けられた。
「浮気をしたことぐらいなら、全く気にせずに許してしまうような、そんな奴でした。最後に自分のところに戻ってくれればいいと考えるような。俺は、自分が彼女の代わりに、陽介を救い出してあげたかった。でも、無理だった。今は必死に、命を絶とうとする陽介を止まらせるしかできなくて」
許せなかった。底のない怒りが沸いた。
俺は明確に、香月のせいで不登校になったという事実がある。だから、俺もそうすれば、香月も少しは。
「無理でしょうね」
「え?」
「一度、人を死なせた人間はあちら側へ行ってしまって、もうこちらへは戻ってこられない。特に、彼のような人間は」
俺は何も返すことができなかった。本当は分かっていたのかもしれない。こんなことをしても無駄だと。
「いっそ、新しいスタートを切ってはいかがですか?新しい同級生と。新しい恋をしてもいいですし」
その時、ふっと悪戯心が湧いて齊藤を見た。
「先生が、その相手になってくれますか」
齊藤は微笑み、君にその覚悟があるならねと返した。
「こんにちはー、レンレンです」
インターホン越しにふざけられ、出ないことにしようかと一瞬思った。
「佐倉君、君は本当は、飯田さんのことは好きじゃなかったんじゃないですか?」
「いいえ、好きでしたよ」
「でも、他にもっと好きな人がいた。その人を諦めるために告白した」
「違いますよ」
「その相手は、香月君だった」
「違いますよ。あんな奴、一生誰とも付き合わなきゃいいんだ」
「そう、佐倉君、君は香月君が憎かった。君の一番好きな人を自殺に追いやったから」
「……入って下さい」
俺は全てを打ち明けることに決めた。
「先生、刑事みたいですね」
ずぶ濡れの齊藤にタオルを差し出せば、齊藤はあっさり認めた。
「ええ、元刑事です」
「でも、ボンクラ刑事だ」
「外れてましたか」
「当たらずとも遠からず、ですね」
齊藤にリビングの椅子を勧め、その向かい側に腰かけると、何だか事情聴取を受ける被疑者のような心地がした。
「俺は飯田さんのことは好きでしたよ。それは本当です。告白するくらいには。それで、本当にたまたま、香月も飯田さんが好きで、俺が告白をしたことを知った途端に、俺に怒りの矛先を向けた。自分の物を取られた気がしたんでしょうね」
それで終わりではないと気付かれているのだろう。齊藤は目線で続きを促した。
「苛められることは、確かに地獄でした。でも、それくらいでは俺はこんなに長い期間不登校になるつもりはありませんでした。本当の地獄を見る、その時までは」
強く目を瞑ると、今でも思い浮かぶ。
中学の時からの親友で、密かに片想いをし、失恋した相手である水無月陽介が、音信不通になった間に精神科病院に入院していたと知った時のことを。
表情の抜け落ちた顔で、自分の恋人が浮気をした相手が香月だということや、でも香月は本気ではなく、散々弄んだ末に捨て、恋人は命を絶ったと打ち明けられた。
「浮気をしたことぐらいなら、全く気にせずに許してしまうような、そんな奴でした。最後に自分のところに戻ってくれればいいと考えるような。俺は、自分が彼女の代わりに、陽介を救い出してあげたかった。でも、無理だった。今は必死に、命を絶とうとする陽介を止まらせるしかできなくて」
許せなかった。底のない怒りが沸いた。
俺は明確に、香月のせいで不登校になったという事実がある。だから、俺もそうすれば、香月も少しは。
「無理でしょうね」
「え?」
「一度、人を死なせた人間はあちら側へ行ってしまって、もうこちらへは戻ってこられない。特に、彼のような人間は」
俺は何も返すことができなかった。本当は分かっていたのかもしれない。こんなことをしても無駄だと。
「いっそ、新しいスタートを切ってはいかがですか?新しい同級生と。新しい恋をしてもいいですし」
その時、ふっと悪戯心が湧いて齊藤を見た。
「先生が、その相手になってくれますか」
齊藤は微笑み、君にその覚悟があるならねと返した。
