君のためなら

 学校から電話がかかってきたのは、何もする気が起きず、ぼーっと窓の外を眺めていた時だった。
 担任の木山は、気弱でクラス内で起きている問題に向き合う度胸もない男だ。
 俺が不登校になっても、家庭訪問をしたのは最初の一度きりで、あとは放置をしてきた。
 そんな木山が、なぜ今さらと思いつつも、どうせ他にすることもないからと電話に出た。
「はい」
「初めまして。今日から担任をすることになった齊藤恋(さいとうれん)です。恋って書いてれんって呼ぶせいか、特技が恋愛相談になりました」
「はあ」
 悪戯電話かと思って切ろうとしたが、かかってきた番号は間違いなく学校のものだ。
 誰かと話せば気が紛れるだろうと思い直し、通話を続けることにした。
「あの、担任は木山だったと思うんですけど……」
「はい、昨日まではですね。今日からは僕が佐倉君のクラス担任です。僕はこの学校に今日赴任してきました」
「今日からって……」
 時期が中途半端じゃないか、と言いかけ、日付の感覚が狂っていたことに気がつく。
 そうか、もう4月だ。
 クラス替えもとっくに済んでいるはずだ。
 じゃあ、香月とももう……?
「木山先生から大体の事情は聞いていますが、僕は君自身の言葉しか信じないことに決めています。話せる時がきたら、事情を話してくれませんか」
「……」
「佐倉君?」
 俺は唐突に開き始めた道筋を目の前に、どう言葉を紡げばいいのか分からなかった。
「佐倉君……」
 齊藤の、労るような声が響き、俺はいつの間にか嗚咽を漏らしていたことを自覚した。