その吐息に、猫も僕もとろけてる。〜高嶺の花の先輩には「人吸い」癖がありました〜

保健室につくと先輩が声を発した。

「あれ、鍵開いてない……」
「この時間はもしかしたら職員会議かもしれないですね」
「たしかに」
ちょうど四時を迎えようとしていた。夕暮れに染まる校舎も遠くで声が響く廊下も、今この世界にいるのは僕と先輩だけ。もし、僕が女子だったら簡単に告白をしていたかもしれない。

その告白に先輩は頷いていただろうか。

「ちょっとここで待っていて」
「はい」


先輩は早歩きで職員室に向かっていた。
掴まれた腕が熱をおびていた。

部活中も見る、先輩への告白シーンに振られた女子の数は二十を遥かに超えている。
先輩に告白するということが何かの試練のようで、当たって砕けろとまでは言わないけどきっとそう思っているのかもしれない。
それでも羨ましいと思ってしまう。僕はこんなに考えたところで、それが叶う保証もない、なんなら女子みたいに振られるかもしれない。その二十何人かの一人として数えられるかもしれない。

あーあ。なんだか今この時間を大事にしたいな。しゃがみこみ顔を伏せる。


耳を澄ませば声や隙間風の音が聞こえてきた。
そして誰かがこちらに走ってくる足音も


「どうした具合も悪い?」
「いえ、大丈夫です」

熱をおびてる頬はきっと読み取る人によっては熱があるのではないかと疑ってしまうだろう、他は……。男の先輩に顔を赤らめてしまった後輩っていうのもあるかもしれない。

「先生が鍵貸してくれた、一応手当は俺もできるから」
「あ、あ、ありがとうございます」

せ、先輩がしてくれるの???


器用に僕の手首にテーピングを巻いてくれた。優しい手つきと細長い指に見とれてしまう。
横を向けば影で僕と先輩を照らしていた。もし、ここで顔を近づけたら先輩はどう思ってくれるのか。

いや、そんなことをしてもいいとは思わない。

「どう? きつい?」
「いえ、大丈夫です!」

保健室の先生が入ってきた。
「まさか、本郷が慌てて職員室に来たときは驚いちゃったよ、女子怪我させたのかと思って」
「先生、それ冗談キツイです」

「え、そう? まぁいいや。テーピング上手くできているね」
先生と先輩って仲がいいんだ。冗談言える仲……いいな。

そうだ、これ確認しておかないと!
「あの、何日くらい安静にしておいたほうがいいですか?」
「そうだね、軽いから一週間は様子見ておこうか」
「わ、分かりました、失礼しました」


先に戻ったと思った先輩が廊下で待っていてくれた。


「あ、先輩、待っていてくれたんですね、ありがとうございます」
お礼を言うと先輩の指が頬に触れた。



「顔赤いね、ごめんね」
体育館に歩き出した。


どうしてそんなことを言うのだろうか、不思議に思っていたが僕はまた顔を赤くしていた。