その吐息に、猫も僕もとろけてる。〜高嶺の花の先輩には「人吸い」癖がありました〜

一日の授業が終わり、部活に向かって着替えをしていると右手首が痛いことに気がついた。
まさか、あの時だよね。
昼休みの裏庭で三年の先輩に驚いて、地面に手をついちゃった時のこと。


「祐平どうした?」
「え、いや手首痛いなぁって思ったんだけど多分大丈夫」


「悪化したら悪いし先生に保健室行くって伝えてみたら」
「うん、そうだね」


もう少ししたら、大会があるのにそんなことを言ったらきっとレギュラーを下ろされるだろう、やっと勝ち取ったレギュラーを手首の痛みで先生に知られたくない。

「はぁ……」


でもみんなで勝ち取るのが理想で、僕の行いで試合に負けるなんて嫌だしな……。
体育着に着替えた後、後輩が準備している中、僕は真っ先に先生の元に駆け寄った。


「先生」
「なんだ?」

「あの、手首に痛みがあってその保健室に……」
行ってもいいですか? と聞こうとしたところ、第三者の声でかき消される。
「え、もしかしてあの時?」
僕よりも低い声が聞こえ思わずその方向を見てしまう。
僕は驚いた。
声をかけてきたのはアップ中の本郷先輩だったからだ。


もちろんのこと先輩は自分のこと以外興味がないと部活いや全校生徒に知れ渡っているなのに先輩は僕に声をかけさらには心配をしてきたのだ。

「えっと……」
嬉しいはずなのに、急に声をかけられ思わずあたふたをしてしまう。
それにそっと手を支えられ、さらに緊張が走る。
「ごめんね、先生俺がこの子を保健室連れて行ってきます」


「お、おう頼む」
先生でさえ、しどろもどろになっている、多分体育館にいる全員と、応援に来た女子生徒たちも同じ気持ちだろう。

そして、唯一話しかけられたのは後藤先輩だった。
「ちょっ!! お前この後試合」


「ごめん、誰か代わりに出てくれる?」
「あ、分かった」

静まった体育館……。先輩が僕の手を引き連れ出した。
手を掴んでくれているだけでもドキドキなのに、足早に歩くのはどうしてなのか考えてしまう。

「あ、えっと先輩試合は良いんですか?」
それが僕の答え。


「正直俺いなくてもできないと来年が不安になるよ、それに合同試合でもないし、別に大丈夫っしょ」
さらっと自分を棚に上げた言い方に先輩もそういうことを言うんだと思ってしまった。それにいつもと違う、先輩の顔。
不思議と引き込まれてしまう。


「あ、ごめんただ来年が心配になっただけ」
「あ、そうですよね」


沈黙のまま保健室についた。
先輩と普通に喋れていることに驚くがきっと後で質問攻めにあいそうだなと呑気に思った。