一匹狼と妖精さん

 
 図書室へ行く口実がなくなる…

 昼休みに国分さんが図書室の当番をするのも、今月いっぱいまでと知った。
ならば屋上へ行くしか、会う手段が無いのだと悟った。
同時に、いつしか自分が国分さんに会う口実として、図書室へ向かっていたのだと自覚する。
…なんでそこまでして会おうとしてるんだろう。
建前無しで関わってみないとって思ったから?
僕の事を受け入れてくれたから?
そもそもなんで、国分さんのことをもっと知りたいって思ってるんだろう。
答えはわからないまま、今日も屋上へと向かうのだった。
 爽やかな晴天は目に眩しいけれど、清々しい。
足早に給水塔の影に行けば既に国分さんが座っていた。
別に待ち合わせた訳でもないけれど、ここが二人の指定席のように思えた。

「お疲れ」

僕の姿に気付いた国分さんが、僕にパックジュースを差し出した。

「えっと…こ、これは?」
「んー…、昨日の卵焼きと唐揚げのお礼ってとこかな」
「えっ!えっ!
そんな、大したことしてないのにっ」
「いいからとっとけって」
「あ…ありがとう…ございます」

ジュースを受けとると、隣に腰を下ろした。
 揃って昼食を取り始める。
今日も国分さんはコンビニのパンとおにぎりだ。
そして相変わらずなかなか会話も続かない。
弁当箱が空になったところで、僕は別で持ってきたタッパーを取り出した。
保冷剤のおかげで冷たさもキープされている。

「あの、これ…今朝うちの畑で獲れたイチゴなんです。
良かったら、どうぞ」
「え?良いのか?」
「はい。今年は豊作らしいです。
だから遠慮しないでください。」
「じゃ、いただき…」

差し出したタッパーから一粒摘まんで、まじまじと見ている。

「畑でこんなキレイなの出来んの?!
もしかして、水澄ん家、農家とか?」
「い…いえ、同じ敷地内の母屋に住んでるおじいちゃんがずっと畑やってて……」
「へぇー…
家庭菜園でこんな本格的なの、すげーな」

驚きながらイチゴを口にした国分さんは目を見開いた。

「ん!めっちゃ旨い!」
「良かった。
こっちの色が白っぽいのは桃苺で、また違った甘味があるんですよ」

桃苺を口にして「ホントだ、全然味が違う」と感心している様子だった。
二人でイチゴを頬張りタッパーが空になると、弁当箱と一緒にバッグに仕舞うい、国分さんにもらったジュースにストローを挿した。

「僕も、頂きます」
「いや、俺の方こそまた貰っちまって……
ありがとな。」
「いえ……」

『喜んでもらえて嬉しい』って気持ちと言葉はジュースと一緒に飲み込んで、また沈黙が訪れる。
でもすぐにそれを国分さんが破った。

「つーかさ、この辺で畑がある家って珍しいよな?」
「あ、えっと…うち、安川で…向こうの方は畑やってるとこ多いんです」
「は?安川から通ってんの?!
通学に一時間はかかるだろうに?
なんでまた、大路?」
「えぇ…まぁ…色々あって……」
「もしかして…中学の時のこと、とか…?」

黙って頷き俯いた僕の頭を、国分さんはポンポンと撫でて言った。

「無理に話さなくていいって。
思い出すと…キツイだろ?」

それでも僕は国分さんには話そうと思った。
国分さんが僕に自分の事を話してくれたように、僕も自分の事を
話したいと思った。

「…前にも少しだけ、僕の目の事でって話……」
「あー、言ってたよな。
やっぱりそれが原因?」
「…その…気持ち悪いとか言われたのが始まりで、無視されたりワザと聞こえるように悪口言われたり……」
「よくあるやり口だよな。」
「小学生の頃なんかは…人と違うことも当たり前みたいに過ごしてきたのたに、それが一転…みんなそっち側に付いちゃって……
もう、誰も信じられないっていうか…話し声が全部僕への悪口に聞こえちゃう、みたいな……」
「うん。わかる……」
「だからそんな環境から離れたくて…」
「それで、大路に?」
「…あと、大路って安川の方の高校よりもレベル高いし、先のこと考えたら、その方がいいなって思ったんです。」
「なるほどな……」
「…でも、環境が変わったとはいえ……」
「いきなり前みたいに…とはいかねーよな。」
「…正直、人との距離を縮めるのが…怖いです。
新しい場所で…ゼロからスタートしたとはいえ、関わって傷付くくらいなら、関わったり深入りしたりしないで一人の方がずっと……
それこそ、最低限の会話さえできてれば充分かなって。
それじゃダメだってことは解ってはいるんです。
この先の事を考えたら。でも……」
「水澄はさ、俺とも…関わりたくないか?」
「国分さんは違います!
僕の目のことも…キレイって言ってくれて、なんか…僕を受け入れてくれたのも…国分さんの事を話してくれたのも、凄く嬉しくて……」

 国分さんはそれ以上追及しようとはしなかった。
代わりに、また頭をポンポンと撫でてくれた。
癖なのかな、小さい弟さんがいるから同じように扱われてる?
なんか、こそばゆい。

すると、唐突に提案された。

「な、連絡先…交換しねーか?」
「え…?」
「…嫌か?」
「全然!でも…良いんですか?」
「ん。その方が、昼休みに待ち合わせたりしやすいだろ?」
「そう…ですよね」
「それに…俺、水澄ともっと話したいから……」

照れたように視線を逸らした国分さんに、僕は食い気味に答えた。

「僕も!
できるなら、友達みたいに…
なんて言ったら…厚かましいかも、ですが……」
「全然厚かましくなんかない。
良いじゃねーか、友達。」

 お互いにメッセージアプリを起動してフレンドに追加する。
挨拶代わりに可愛いスタンプが送られてきた。
僕もヘンテコなスタンプで返事をする。
たったそれだけの事で、僕が国分さんの特別になれたような気がした。

 予鈴が鳴って屋上を後にする。

「じゃ、またな」
「はい、ではまた……」

それぞれに教室へと向かう。
僕の足取りは、心なしかいつもより軽かった。