行ってみようかな、屋上。
中間テストが終わり、テスト返却も済んだ。
結果は、数学以外はまずまずな感じ。
図書室の参考書でも勉強した成果は…少しはあっただろうか。
いや、あったと信じたい。…少しくらいは。
今日は、清々しい晴天だ。
テスト勉強から解放されたのも相まって、外の空気を吸いたくなる。
まぶしいのは苦手だけど、給水塔の影とかなら少しはマシかもしれない。
屋上にはあの人がいるだろうことは察しが付いたが、案外優しいところもある人だったし、別に一緒に過ごそうって訳じゃない、顔を合わせたら軽く挨拶して日陰に移動すれば…なんて軽く考えられるくらいに、解放感と爽快感は僕の気持ちを軽快にしてくれていた。
そうと決まれば弁当バッグを抱えて屋上へ向かう。
それなのに、いざ屋上への階段を昇り終わる頃には足取りが重くなる。
僕のばか。
なんで深く考えずに来ちゃったんだよ。
せめて本の一冊でも借りて持ってきておけば、心強かったのに。
ポケットにスマホがあるのを確認して、困ったらとりあえずこれで間を持たせるか…と扉に手をかける。
ゆっくりと扉を開ければ、やっぱりちょっと眩しい。
少し陽光に慣れた頃に見渡した先には…誰もいなかった。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、背後からの声に飛び上がりそうになった。
「来たんだな、屋上」
「ひぇっっ!」
慌てて扉から手を離したものだから、開きかけた扉がまた閉まってきた。
「危ねっ!」
閉まりそうになった扉を背後の人物が慌てて手を伸ばして止める。
「わわっっ!すみません!
あ、あの、やっぱ僕、戻ります!」
慌てて後ずさろうとしようも、扉と背後の人物との間で身動きが取れない。
「おいおい、せっかく来たのに帰んなって」
「え、あ、でも……」
「別に取って食おうってんじゃねーし」
背後の人物に押し出される形で僕は屋上に出た。
さすがに陽光の真下に晒されれば、眩しくて目が眩みそうになる。
思わず目元を手で覆って日陰を探す。
「大丈夫か?」
「あ、はい。強い光がちょっと苦手で…」
「なら、そっち側が日陰だから」
促されるままに給水塔の日陰に腰を下ろすと、その人も僕の隣に腰を下ろした。
まさかの展開。
この状況に対応できず固まったままの僕の隣でその人は、コンビニの袋の中から菓子パンを取り出し封を開けた。
「食わねぇの?」
「えっ?あ、た、食べます…」
誰かと一緒にお昼を食べるなんて久しぶりすぎるけれど、この緊張感の中での食事はなかなかに経験が無い。
第一、何を話せば良いのかもわからないし、目線の遣り場にすらも困る。
沈黙のまま、ちまちまと箸を進めていると、袋から二つ目の菓子パンを取り出したその人が唐突に沈黙を破った。
「なぁ…お前はさぁ、俺が怖いか?」
「えっと……
怖くない…って言ったら嘘なんですけど……」
「…けど?」
「意外と…っていうか、優しかったり…面倒見良いとことか、あって……」
「……」
「…でも、僕…先輩のこと何も知らないし……」
視線を落として箸も止まった僕に、思わぬ言葉が返ってきた。
「…嵐」
「え?」
「俺の名前。国分嵐」
「…あ…えっと、国分さん?」
「うん」
「え…えっと、僕は…」
「水澄、だろ?
船木水澄」
「え?あ、はい。…でも、なんで……」
驚いて思わず国分さんの顔をじっと見てしまった。
「俺、図書委員だろ?
貸し出しの処理する時に…ほら……」
「あ…そう…なんですね」
確かに。
毎回貸し出しの時に名前見るんだから当然か。
それにしても、こんなに近くで顔を見るのは初めてで、緊張なのかよくわからないけど心臓が忙しないくらいに鼓動する。
切れ長な目元に鼻筋が通ったクールな顔立ち。
右の目尻にホクロがあるのも、なんだか魅惑的というか何というか…
そしてこの髪の色。
あの時、陽光に透かされて綺麗だったな……
思わず、見惚れてしまった。
「水澄さ、その目の色…生まれつきか?」
国分さんの言葉に我に返った。
しまった…気付かれてしまった。
『うわ、気持ち悪い…』
『その目でこっち見んな!』
脳裏に過去の嫌な記憶が蘇る。
誰にも気付かれないように、距離をとってきたのに……
「あ、えっと…そう、生まれつきで色素が薄くて…
強い光とか…苦手なのも、その影響みたいなんです。
あ…あの、えっと…
き、気持ち悪いですよね……」
「え?なんで?」
「僕…中学の頃、この目の色が変だって、気持ち悪いって……
だから…その、できるだけ目立たないようにしてたんですけど……」
「そっか。キツイよな…そういうの。
でも俺はキレイだと思うけど、水澄の目。」
まさかそんな風に言ってもらえる人に、また出会えるなんて…
「ほ、ホントに…ですか?」
「うん…。初めて見た時から。
なぁ、もっと見せて」

国分さんは、僕の眼鏡を抜き取ると、長く伸ばした前髪を指で払って、じっと目を覗き込んだ。
さすがに近すぎる。
人に見られる事に耐性の無い僕は、ただどうすることもできず視線を右往左往させるしかなかった。
見られるのは怖い、けれど…
「やっぱり……妖精だ。」
「よ、妖精…?」
「あの時も思った。妖精みたいだなって」
「え…っと、僕が…?」
この至近距離もさながら、国分さんの口から妖精なんて言葉が出るなんて。
みるみる顔が真っ赤になっていってるだろうことが、熱くなっていく顔の感覚的にわかる。
国分さんの方を見遣れば、僕の反応に自分の言った言葉を反芻したのか、同じく照れたように顔を赤らめて目線を逸らせていた。
「悪ぃ…
俺の方が気持ち悪ぃよな…」
「そ、そんなことないです…
…嬉しいけど、ちょっとだけ…恥ずかしくて……」
お互い顔を見合わせて笑ったものの、その場に漂う空気が居たたまれなくて誤魔化すように慌てて残りの弁当を掻き込んだ。
弁当箱の蓋を閉じる頃には予鈴が鳴る。
「ヤベッ!急ぐぞ」
「は、はいっ」
二人連れだって屋上を後にする。
「じゃ、またな」
「はい、では…また……」
それぞれに教室へと戻っていく。
教室の扉に手を掛けた僕の口許は、弧を描くように弛んでいた。
中間テストが終わり、テスト返却も済んだ。
結果は、数学以外はまずまずな感じ。
図書室の参考書でも勉強した成果は…少しはあっただろうか。
いや、あったと信じたい。…少しくらいは。
今日は、清々しい晴天だ。
テスト勉強から解放されたのも相まって、外の空気を吸いたくなる。
まぶしいのは苦手だけど、給水塔の影とかなら少しはマシかもしれない。
屋上にはあの人がいるだろうことは察しが付いたが、案外優しいところもある人だったし、別に一緒に過ごそうって訳じゃない、顔を合わせたら軽く挨拶して日陰に移動すれば…なんて軽く考えられるくらいに、解放感と爽快感は僕の気持ちを軽快にしてくれていた。
そうと決まれば弁当バッグを抱えて屋上へ向かう。
それなのに、いざ屋上への階段を昇り終わる頃には足取りが重くなる。
僕のばか。
なんで深く考えずに来ちゃったんだよ。
せめて本の一冊でも借りて持ってきておけば、心強かったのに。
ポケットにスマホがあるのを確認して、困ったらとりあえずこれで間を持たせるか…と扉に手をかける。
ゆっくりと扉を開ければ、やっぱりちょっと眩しい。
少し陽光に慣れた頃に見渡した先には…誰もいなかった。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、背後からの声に飛び上がりそうになった。
「来たんだな、屋上」
「ひぇっっ!」
慌てて扉から手を離したものだから、開きかけた扉がまた閉まってきた。
「危ねっ!」
閉まりそうになった扉を背後の人物が慌てて手を伸ばして止める。
「わわっっ!すみません!
あ、あの、やっぱ僕、戻ります!」
慌てて後ずさろうとしようも、扉と背後の人物との間で身動きが取れない。
「おいおい、せっかく来たのに帰んなって」
「え、あ、でも……」
「別に取って食おうってんじゃねーし」
背後の人物に押し出される形で僕は屋上に出た。
さすがに陽光の真下に晒されれば、眩しくて目が眩みそうになる。
思わず目元を手で覆って日陰を探す。
「大丈夫か?」
「あ、はい。強い光がちょっと苦手で…」
「なら、そっち側が日陰だから」
促されるままに給水塔の日陰に腰を下ろすと、その人も僕の隣に腰を下ろした。
まさかの展開。
この状況に対応できず固まったままの僕の隣でその人は、コンビニの袋の中から菓子パンを取り出し封を開けた。
「食わねぇの?」
「えっ?あ、た、食べます…」
誰かと一緒にお昼を食べるなんて久しぶりすぎるけれど、この緊張感の中での食事はなかなかに経験が無い。
第一、何を話せば良いのかもわからないし、目線の遣り場にすらも困る。
沈黙のまま、ちまちまと箸を進めていると、袋から二つ目の菓子パンを取り出したその人が唐突に沈黙を破った。
「なぁ…お前はさぁ、俺が怖いか?」
「えっと……
怖くない…って言ったら嘘なんですけど……」
「…けど?」
「意外と…っていうか、優しかったり…面倒見良いとことか、あって……」
「……」
「…でも、僕…先輩のこと何も知らないし……」
視線を落として箸も止まった僕に、思わぬ言葉が返ってきた。
「…嵐」
「え?」
「俺の名前。国分嵐」
「…あ…えっと、国分さん?」
「うん」
「え…えっと、僕は…」
「水澄、だろ?
船木水澄」
「え?あ、はい。…でも、なんで……」
驚いて思わず国分さんの顔をじっと見てしまった。
「俺、図書委員だろ?
貸し出しの処理する時に…ほら……」
「あ…そう…なんですね」
確かに。
毎回貸し出しの時に名前見るんだから当然か。
それにしても、こんなに近くで顔を見るのは初めてで、緊張なのかよくわからないけど心臓が忙しないくらいに鼓動する。
切れ長な目元に鼻筋が通ったクールな顔立ち。
右の目尻にホクロがあるのも、なんだか魅惑的というか何というか…
そしてこの髪の色。
あの時、陽光に透かされて綺麗だったな……
思わず、見惚れてしまった。
「水澄さ、その目の色…生まれつきか?」
国分さんの言葉に我に返った。
しまった…気付かれてしまった。
『うわ、気持ち悪い…』
『その目でこっち見んな!』
脳裏に過去の嫌な記憶が蘇る。
誰にも気付かれないように、距離をとってきたのに……
「あ、えっと…そう、生まれつきで色素が薄くて…
強い光とか…苦手なのも、その影響みたいなんです。
あ…あの、えっと…
き、気持ち悪いですよね……」
「え?なんで?」
「僕…中学の頃、この目の色が変だって、気持ち悪いって……
だから…その、できるだけ目立たないようにしてたんですけど……」
「そっか。キツイよな…そういうの。
でも俺はキレイだと思うけど、水澄の目。」
まさかそんな風に言ってもらえる人に、また出会えるなんて…
「ほ、ホントに…ですか?」
「うん…。初めて見た時から。
なぁ、もっと見せて」

国分さんは、僕の眼鏡を抜き取ると、長く伸ばした前髪を指で払って、じっと目を覗き込んだ。
さすがに近すぎる。
人に見られる事に耐性の無い僕は、ただどうすることもできず視線を右往左往させるしかなかった。
見られるのは怖い、けれど…
「やっぱり……妖精だ。」
「よ、妖精…?」
「あの時も思った。妖精みたいだなって」
「え…っと、僕が…?」
この至近距離もさながら、国分さんの口から妖精なんて言葉が出るなんて。
みるみる顔が真っ赤になっていってるだろうことが、熱くなっていく顔の感覚的にわかる。
国分さんの方を見遣れば、僕の反応に自分の言った言葉を反芻したのか、同じく照れたように顔を赤らめて目線を逸らせていた。
「悪ぃ…
俺の方が気持ち悪ぃよな…」
「そ、そんなことないです…
…嬉しいけど、ちょっとだけ…恥ずかしくて……」
お互い顔を見合わせて笑ったものの、その場に漂う空気が居たたまれなくて誤魔化すように慌てて残りの弁当を掻き込んだ。
弁当箱の蓋を閉じる頃には予鈴が鳴る。
「ヤベッ!急ぐぞ」
「は、はいっ」
二人連れだって屋上を後にする。
「じゃ、またな」
「はい、では…また……」
それぞれに教室へと戻っていく。
教室の扉に手を掛けた僕の口許は、弧を描くように弛んでいた。
