前髪の切れない男の話。

映画が終わると、会場は紙吹雪と興奮の渦に包まれ、まるで鴨川の河原に突如現れた縁日みたいだった。観客のざわめきの中、山部は突然立ち上がり、椅子の上でバランスを取りながらポップコーンを宙に放り投げるという、得体の知れないパフォーマンスを開始した。

「見ろ!映画は観るだけじゃない!体感するものだ!」
彼の声は高らかに響き、誰も止められない熱狂が会場に広がった。観客は笑いと拍手と、恐怖と興奮の混じった不思議な感情を同時に味わった。

その瞬間、仁王立先輩が、まるで場違いなオーケストラ指揮者のように両手を掲げ、紙吹雪の舞う会場を制御しようとした。しかし、彼の真剣な指揮は、誰一人として理解せず、むしろ会場の混乱を増幅させる。山部はその指揮棒に向かってポップコーンを投げ、仁王立先輩は軽やかにジャンプで回避する——まるで無言の戦いである。

私はというと、椅子に座ったまま、息をのんでこのカオスを見守った。篠崎は遠くから微笑みつつも、目だけはスクリーンと会場を行き来させ、奇妙な秩序と混沌の間で微妙に揺れていた。

そして、ついに映画祭の審査員が壇上に現れ、受賞者を発表する時間が訪れた。会場は一瞬静まり返る——が、静寂は長くは続かない。山部は突然、壇上に飛び乗り、受賞者の発表を自分のギャグとアクションで“補強”し始める。仁王立先輩もまた、全く予告なしに壇上に現れ、竹刀を振り回す仕草で空気を引き締める。

「塚原、お前の映画だろ!ここは俺たちが舞台装置になる!」

山部は叫び、仁王立先輩は無言で頷く。観客も審査員も床屋の店主も、最初は困惑していたが、やがてこの異常な光景を笑い、拍手し、歓声を上げた。

そして、ついに結果が発表された。
歓声と拍手が会場を震わせ、山部は飛び跳ね、仁王立先輩は満足げに胸を叩いた。小野的女史は誰とも知らぬ男性と肩を組んであおるように酒を飲んでいた。私はただ、じっとスクリーンを見つめ、映画の中の篠崎の笑顔を思い出した。彼女の微笑は、混沌の祭典を包み込む光のようで、私の胸にじんわりと染み入った。

その夜、私たちは映画の上映を喜びを祝いながらも、鴨川沿いを歩いた。川面に映る月は、静かに、しかし確実に、映画祭の熱狂を照らしていた。酔いつぶれた小野的女史を担ぐ山部はポップコーンを川に投げ、仁王立先輩は空を見上げて何かを呟き、私はただ篠崎の隣を歩いた——恋と映画と、奇想天外の夜、それから幻のハサミを抱えながら。