会場に入ると、まず空気の重さに息をのんだ。観客は映画の神殿の信者のように静まり返り、スクリーンの光にだけ心を奪われている。だが、その静寂を破るかのように、突然ステージ上の照明がランダムに点滅を始めた。
「……なにこれ、停電?」
山部は眉間に皺を寄せ、枝豆の皮を握りつぶした。だが照明は完全に意図的に、そして完全に奇妙に、三秒ごとに赤と青と緑に変化する。まるで映画祭そのものが私たちを試すかのようだ。
その時、スクリーンの隅から、誰かが不意に飛び出してきた。
「わあっ!」
それは、着ぐるみの中に入り込んだ謎の生物だった。頭は巨大な金色の猫、手には巨大なカメラを持ち、奇妙なリズムで踊りながら観客席の間を跳ね回っている。観客は驚くどころか、拍手と歓声を交互に上げていた。
「……猫、撮影班?」私は呟いた。山部も肩をすくめる。仁王立先輩はただ黙って眉を上げるのみである。
そのとき、私の視界の片隅に異様な光景が飛び込んできた。審査員席の奥、普段は威厳に満ちた面々が座るその場所に、なぜか床屋の店主が腰を下ろしていたのだ。革のシザーケースを膝に乗せ、眉間に深い決意の皺を刻み、まるで「ここは俺の席だ」とでも言いたげに座っている。
「え……な、なぜ、ここに……?」
思わず私が声を上げそうになった言葉を代わりに篠崎が口にした。山部も目を丸くして持参したポップコーンをポロリとこぼし、仁王立先輩は無言のまま、事前に知っていた風の顔をして、ほんの少し肩を揺らして眉を上げる。小野的女史は酒を服にこぼしたと騒いでいる。観客のざわめきの中で、床屋の店主だけが冷静に審査員用のスコアカードを探している。
「おい、誰か沖田のハサミを持っていないか!」
その叫びは、太鼓の轟音や猫の跳躍の隙間を縫って、まるで空気を切り裂く剣のように届いた。私は息を呑んだ。映画祭とはいえ、これはどう考えても異常事態である。審査員席に店主——しかも沖田のハサミを探している——この組み合わせは、あまりにも非現実的すぎて、私の理性が完全に迷子になった。
猫は舞台中央からぴょん、と跳び、店主の肩に飛び乗った。店主は動揺するでもなく、むしろ自然な流れでハサミを探し続ける。まるで「ここに座るのは当然」とでも言わんばかりだ。私はその瞬間、映画祭の全てのルールが、重力と同じく無意味になったことを悟った。太鼓の音が会場全体を震わせ、観客の手拍子が重なり、映画祭はまるで即興の祭典と化した。
「これ……映画祭なのか、祭りなのか……!」
私は心の中で叫んだ。だが、驚くべきことに、スクリーンには我々の短編映画が再生されていた。カオスの中で、映像は淡々と、しかし凛として存在している。篠崎の顔が光に浮かび上がるたび、観客のざわめきが少しだけ静まる。
「塚原、笑うな!」山部が叫ぶ。笑いそうになっていた私を叱責する声は奇妙に威厳があったが、篠崎と小野的女史の方は堪えきれなかったらしい。
その瞬間、猫が舞台中央で突然ジャンプし、スクリーンの前に落ちて、映像の一部がほんの一瞬隠れた。観客は驚き、私たちは凍りつき、仁王立先輩は無言のまま、事前に知っていた風の顔をして、微妙に首をかしげた。
——これが映画祭なか。
カオスと秩序、騒音と沈黙、狂気と静謐が混ざり合い、私たちの映画は、その真ん中で光を放ち続けている。
「さあ、戦え、我らの短編映画よ!」私は心の中で叫んだ。映画祭はすでに戦場となり、奇想天外な祭典はその戦場に火を灯していた。
「……なにこれ、停電?」
山部は眉間に皺を寄せ、枝豆の皮を握りつぶした。だが照明は完全に意図的に、そして完全に奇妙に、三秒ごとに赤と青と緑に変化する。まるで映画祭そのものが私たちを試すかのようだ。
その時、スクリーンの隅から、誰かが不意に飛び出してきた。
「わあっ!」
それは、着ぐるみの中に入り込んだ謎の生物だった。頭は巨大な金色の猫、手には巨大なカメラを持ち、奇妙なリズムで踊りながら観客席の間を跳ね回っている。観客は驚くどころか、拍手と歓声を交互に上げていた。
「……猫、撮影班?」私は呟いた。山部も肩をすくめる。仁王立先輩はただ黙って眉を上げるのみである。
そのとき、私の視界の片隅に異様な光景が飛び込んできた。審査員席の奥、普段は威厳に満ちた面々が座るその場所に、なぜか床屋の店主が腰を下ろしていたのだ。革のシザーケースを膝に乗せ、眉間に深い決意の皺を刻み、まるで「ここは俺の席だ」とでも言いたげに座っている。
「え……な、なぜ、ここに……?」
思わず私が声を上げそうになった言葉を代わりに篠崎が口にした。山部も目を丸くして持参したポップコーンをポロリとこぼし、仁王立先輩は無言のまま、事前に知っていた風の顔をして、ほんの少し肩を揺らして眉を上げる。小野的女史は酒を服にこぼしたと騒いでいる。観客のざわめきの中で、床屋の店主だけが冷静に審査員用のスコアカードを探している。
「おい、誰か沖田のハサミを持っていないか!」
その叫びは、太鼓の轟音や猫の跳躍の隙間を縫って、まるで空気を切り裂く剣のように届いた。私は息を呑んだ。映画祭とはいえ、これはどう考えても異常事態である。審査員席に店主——しかも沖田のハサミを探している——この組み合わせは、あまりにも非現実的すぎて、私の理性が完全に迷子になった。
猫は舞台中央からぴょん、と跳び、店主の肩に飛び乗った。店主は動揺するでもなく、むしろ自然な流れでハサミを探し続ける。まるで「ここに座るのは当然」とでも言わんばかりだ。私はその瞬間、映画祭の全てのルールが、重力と同じく無意味になったことを悟った。太鼓の音が会場全体を震わせ、観客の手拍子が重なり、映画祭はまるで即興の祭典と化した。
「これ……映画祭なのか、祭りなのか……!」
私は心の中で叫んだ。だが、驚くべきことに、スクリーンには我々の短編映画が再生されていた。カオスの中で、映像は淡々と、しかし凛として存在している。篠崎の顔が光に浮かび上がるたび、観客のざわめきが少しだけ静まる。
「塚原、笑うな!」山部が叫ぶ。笑いそうになっていた私を叱責する声は奇妙に威厳があったが、篠崎と小野的女史の方は堪えきれなかったらしい。
その瞬間、猫が舞台中央で突然ジャンプし、スクリーンの前に落ちて、映像の一部がほんの一瞬隠れた。観客は驚き、私たちは凍りつき、仁王立先輩は無言のまま、事前に知っていた風の顔をして、微妙に首をかしげた。
——これが映画祭なか。
カオスと秩序、騒音と沈黙、狂気と静謐が混ざり合い、私たちの映画は、その真ん中で光を放ち続けている。
「さあ、戦え、我らの短編映画よ!」私は心の中で叫んだ。映画祭はすでに戦場となり、奇想天外な祭典はその戦場に火を灯していた。

