居酒屋で私と山部は、反省会と称する反省の欠片もない飲み会を執り行った。
反省すべき点は天の川の星の数ほど存在したが、それらはすべてビールと安酒の濁流に押し流され、最終的に「まあ、あれはあれで映画だったのではないか」という、取り返しのつかない結論だけが卓上に鎮座した。
かくして我々は、自らの不出来を直視する代わりに、枝豆の皮を剥くことに全精力を傾けていたのである。
「なあ塚原」
山部が、枝豆を突き刺した箸を振り回しながら言った。
「今日の篠崎、変じゃなかったか?」
私はその瞬間、胃袋の奥で小さな地滑りが起きるのを感じた。
変だった。
実に変だった。
彼女は終始、私という存在を、カメラの画角から巧妙に排除するかのような立ち居振る舞いを見せていた。
あれは距離ではない。編集でカットされた人物に対する態度である。
「……そうか?」
私は、あくまで無関心を装った。
なぜなら、ここで動揺を示すことは、山部に余計な洞察を与えることになるからだ。
彼はそういう男である。余計なところだけ鋭い。
「いや、明らかにお前と距離取ってただろ」
取っていた。
それも、礼儀正しく、的確に、そして残酷に。
そこへ、嗅覚だけで生きているとしか思えぬ男――仁王立先輩が現れた。
この人はいつも、空気が最も腐敗した瞬間に出現する。
「お前ら、映画撮ったんだって?」
その一言で山部は饒舌になり、私は沈黙した。
なぜなら映画の話題は、必ず篠崎の視線を思い出させるからだ。
あの、優しく冷たい視線を。
「……塚原」
仁王立先輩が、唐突に真顔になった。
「君、あの子に何かしただろ」
この人は、どうしてこうも核心を、軍手もはめずに掴みに来るのか。
私はグラスを見つめた。
そこには、薄まったビールと、取り返しのつかない過去が、ほぼ同量で揺れていた。
「……何もしてません」
「“何もしなかった”って顔だな」
先輩は、それ以上何も言わなかった。
追及されないという事実が、これほどまでに胸を締め付けるとは思わなかった。
店を出たのは、終電の一本前。
夜の鴨川は、昼間の騒動など最初から存在しなかったかのように静まり返っていた。
橋の上に、篠崎がいた。
それは偶然だった。
だが、人生における最も残酷な出来事は、たいてい「偶然」という仮面を被って現れる。
「……篠崎」
彼女は振り返った。
その表情は、もはや私を“先輩”としてではなく、“関係者の一人”として見ている顔だった。
「先輩、映画、絶対成功させましょうね」
そう言って、彼女は笑った。
丁寧で、礼儀正しく、そして完全に他人行儀な笑顔だった。
「……それだけか?」
思わず漏れた言葉に、彼女は一瞬だけ困ったように眉を寄せた。
「それ以上、何かありますか?」
その瞬間、私は悟った。
もう、何もないのだ。
私は告白しなかった。
言い訳もしなかった。
誤解を解く最後の機会を、「物語的でない」という、最低最悪の理由で放棄したのである。
篠崎は去っていった。
夜の川面に、彼女の影だけが溶けていく。
そのとき、私ははっきりと理解した。
私は映画を撮り始めた代わりに、恋愛を未完成のまま打ち切ったのだ。
どちらも同じである。
始める勇気はあった。
だが、最後までやり切る覚悟がなかった。
後日、完成した映画を観た。四十分ほどの短編作品だ。
エンドロールの最後に、篠崎の名前が流れる。
私は、そこで初めて泣いた。
拍手はなかった。
ただ、篠崎がスクリーンを見つめていた。
「……私、この映画、好きです」
その一言で分かった。
この映画の中心にいるのは、私ではない。
だが、とうとう我々は短編映画と名のエクスカリバーを手に入れた。いざ参ろう。戦場という名の映画祭へ。

