後宮の歌姫は声を隠す―特殊な目を持つ歌姫が、後宮で2人の皇子と出会って、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る―【中華×サスペンス】

※こちらは本編とは別の後日談です。



 今日は、とってもとってもめでたい日。

 さて、何の日でしょう――?




「はわ~、翠蓮(スイレン)……きれいすぎ……」

 明鈴の声に、翠蓮は照れて目を伏せる。
 目もくらむようなまばゆい衣装に、翠蓮は身を包んでいた。
「そ、そうかな……ありがとう」

「ほんと、似合ってるよ! ね、蒼瑛さま?」

 話を振られた蒼瑛は、まったく照れる様子もなく即答した。
「本当に――世界一きれいな皇太子妃だ」
 
 すっ、と翠蓮の顎に蒼瑛の手が触れる。
 吸い込まれそうになるような、蒼い瞳――


「もちろん翠蓮は、普段のままでも美しいが」

「もう、やめてください……」
 翠蓮は蒼瑛の手を払うと、顔をふいっと背ける。めげない彼は、もう一度翠蓮の顔を、自分へ向けさせた。

 わざとなのか、さっきよりも近い。

「本当のことだ」

「~っ……」
 耳元で囁かれ、翠蓮は声にならない声を上げる。


 あの日求婚を受けて以来、蒼瑛はずっとこの調子だ。極上の砂糖菓子のような甘さで、十年越しの想いを爆発させているようだ。

 
 太凱(タオガイ)が、手刀を斬りながら割って入る。

「ったく、よく恥ずかしげもなく……」
 その声に負け惜しみが入っていることは――翠蓮以外は気づいている。


 明鈴がそっと慰める。
「まぁまぁ、蒼瑛さまが相手じゃ……逆立ちしても勝てないよ」


 太凱は、今日は珍しく言い返さなかった。心なしか金髪のツンツン頭も、しおれて見える。
 明鈴は口をきゅっと結ぶと、太凱に体当りする。


「もー、太凱には私がいるじゃんっ」

「あー、そーだな。明鈴がいるな……」
 投げやりな言い方だが、明鈴は一瞬固まり、すぐにぐるんっと絢麗(ケンレイ)に向いた。


「今日は絢麗(ケンレイ)が祝歌担当だねっ!」
 絢麗は満足げだった。

「婚礼の儀に主役で歌えるなんて、光栄だわ。翠蓮、おめでとう」


「ありがとう」
 色々と騒ぐ者もいて大変だったが、皇帝も芙蓉妃も、二人の結婚を快く認めてくれた。
 皇帝に至っては、過去の先帝が行なった過ちも詫びてくれた。


 皇后は――

 その前に、彼の話をしないといけませんね。

 皇后の息子である炎辰は、自らが手を染めた陰謀を公にした。
 翠蓮の不正受験も、衣装破損を指示したのも自分だと告白したのだ。

 おかげで炎辰は皇位を剥奪され、今は一介の武官として過ごしている。

 皇后は、皇子がいなければ先は短い。権力を失い、静かにしている。


 遠くで祝砲が聞こえる。
 出席は叶わないが、きっと炎辰が撃っているのだろう。

「翠蓮、そろそろ式が始まる。準備はいいか?」


「はいっ!」
 声が裏返る翠蓮を見て、蒼瑛はほほ笑んだ。

「……かわいい」

「だから、やめてくださいっ……」

 皆の、温かい笑い声が響く。
 二人の未来も、きっと笑顔が絶えないことでしょう。


 いつまでも、末永くお幸せに――



――後日談編 完――