クラス対抗リレーで、俺たち10組は惜しくも2位だった。
ビブスを係に返し、同じくリレー選手だった井筒と久我山と連れ立ってテントへと戻る。
「惜しかったなー。あとちょっとで1位取れたのに」
顔を歪めて悔しがるのは第一走者だった井筒だ。
「ごめん。俺がもうちょっといい位置でバトン渡せてたら」
第二走者の頑張りもあり、俺は3位でバトンを受け取った。
前を走るクラスと距離を縮められたのだが、バトンを渡す段階で大柄な2位の選手を避けようとして少しもたついてしまった。
その下手なバトン交換で走り出しがワンテンポ遅れた久我山が言う。
「2組のやつ、ラグビー部でデカかったし、小田はよく頑張ったよ」
「あの……」
久我山の声に重なり、背後から女子の声が聞こえてきた。
三人とも足を止めて振り返った先で、私服の女子四人が立っていた。
その中で一番小柄な美少女が、お腹の前で指を握り締め、顔を真っ赤に染めて口を開く。
「この前、電車で助けてくれた方ですよね」
井筒と久我山と顔を見合わせ、「お前?」「いや俺じゃない」という二人のやりとりの末、結果、俺になった。美少女をまじまじと見つめて、ようやく、GW明けに電車で痴漢されていた女子を助けたことを思い出した。
あのときは制服だったし、ポニーテールだった髪が今は清楚なハーフアップになっていて、すぐにはあのときの彼女だと気づかなかった。
「小田の知り合い?」
井筒の問いに、「あ、えーっと」と答えを濁して言葉を探す。
「電車で気持ち悪そうにしていたから声をかけて、降りるの手伝ったんだよ」
痴漢されていたことは、人に言いふらされたくないことに違いない。そう思って咄嗟に嘘を吐いた。
「制服で青葉ヶ丘ってわかったんですけど、名前も聞けなかったから、今日会えたらお礼を言いたいと思ってて」
それって、わざわざお礼を言うためにうちの体育祭を見に来たってことだろうか。
「あ……、えっと……。わざわざすみません」
礼を言われて礼を返したら、それで会話が終了する。
ただ、他の女子たちの圧が強く、立ち去りがたい空気を感じていると、見かねたように美少女の隣にいた背の高い女子が口を挟んできた。
「私たち桐ノ宮女子です。せっかくだから青葉ヶ丘の人たちとお近づきになりたいんですけど、体育祭の打ち上げ兼ねて一緒にカラオケでもどうですか?」
こちらも、吊り目がちの目とストレートのロングヘアが少し気が強そうではあるが、美人と言える整った顔立ちをしている。
「桐ノ宮ってめっちゃお嬢様学校じゃん!」
「合コン的なやつだよね?そっちは四人?」
俺以上に話に食いついたのが井筒と久我山だった。――と、背後からまた別の声がする。
「へー合コンかぁ。いいなぁ」
ずしりと肩に重みを感じ顔を横に向けると、シバだった。シバが俺の首に腕を回していた。
俺のほうが20センチ近く低いせいで、少し寄りかかられる感じになっている。
シバを見たからだろう。付き添いの女子たちがどこか恥ずかしそうに、そわそわし始めた。
「何でお前がここにいるんだ?」
「ん? トイレに行こうとしたらサクが見えたから。合コン、俺も行っていい? 俺含めたらちょうど四人でいいじゃん」
「是非!」
付き添いの女子たちの声が揃った。
俺の首に腕を絡めたまま、シバが俺の頭越しに井筒と久我山に声をかける。
「いいよね?」
中学の頃はそれが普通の距離感だったのに、久しぶりなせいか、筋肉の浮き出た男らしい首筋とそこに浮く汗の粒に、一瞬ドキリとしてしまった。
「あ……あぁ。もちろん」
「だいかんげーです」
若干引き気味の二人の返事で、合コン開催が決定されたようだ。
「じゃ、私たち、近くで時間潰してるから、終わったらここに連絡ください」
ロングヘアの吊り目女子がメモを渡したのは、俺ではなくシバだった。
女子たちが帰って行き、「じゃ、俺たち先に戻るな」と井筒と久我山も離れていく。
「長谷川来たらあいつの一人勝ちじゃん」
「あいつ合コン行く必要ないだろ」
歩きながらひそひそと囁き合う声が聞こえてきた。
「お前、この学校にそういう人がいたんじゃないの?」
二人の声が聞こえなくなったところで、俺もシバに尋ねる。
「そういう人?」
「前に言ってた『会いたい人』って、好きな人とか、そっち系だろ? まだ告白してねーの?」
「告白は……たぶんしない。あ、ヤベッ。そろそろ戻らないと、正宗に居残りさせられる! じゃ、終わったら連絡する」
シバが慌てて俺の肩から腕を離し、手を上げて去っていく。
「会いたい人」について追及されたくないことがバレバレだった。
正宗って、あの先輩のことだよな……。お互いに名前で呼び合う仲なんだ……。
中学の頃は好きな人に告白すると言っていた奴が、今度はしないという。それってやっぱり……。
離れていく後ろ姿を見送りながら、シバの好きな人がマネージャーだったと知ったときとはまた別の、どこか納得のいかない、割り切れない感情を自覚していた。

