6時にサイカイ橋で。



 その日は部活中も集中力を欠いていて、先輩たちから何度か注意を受けた。
 帰宅後、先にシャワーを浴び、髪を乾かすのもそこそこに食卓へ向かうと、帰りの遅い父の姿はなく、母と妹は先に食べ始めていた。
 自分でご飯をよそって席に着き、「いただきます」と手を合わせてから、俺は何でもないことのようにシバの話を切り出した。

「そういや今日さ、学校でシバに会った」

 吸い物を取ろうとしていた母がお椀を取り損ね、テーブルの上に中身が零れる。

「キャッ!」
「あ、ご、ごめんなさい。手が滑っちゃった」

 母が慌てて台拭きを取りにキッチンへと向かう。
 妹は特に気にする様子もなく、食事の手を止め、身を乗り出す勢いで話に食いついてきた。

「シバってバスケ部だったシバ君? 同じ学校だったの?」

 妹の彩花(あやか)は現在中1で俺たちとは入れ替わりだ。小学生の頃から俺がよくうちに連れて来ていたから、シバのことは知っている。

「そうそう。入学してから今日まで気づかんかった」
「えー。おにぃ、ボーっとしすぎじゃないの? ねぇ。今度、家に連れてきてよ! 先輩たち、未だに『伝説のシバ先輩』の話してるんだから! 写真撮ってみんなに自慢する!」

 目を輝かせる妹とは裏腹に、台拭き片手に戻ってきた母親の表情は冴えない。仕事で疲れているのかな。

「でも、あいつ。中学でバスケはやめたって。昼練につき合わせたんだけど、体なまってるからってスクリーンしかしてくれなかった」
「シバ先輩はバスケしてなくても、存在してるだけでいいの!」
「斯波君には斯波君の事情があるんだから……。無理に誘っちゃ駄目よ」

 零れた吸い物を拭く母が、テーブルに視線を落としたままやんわりと窘める。
 「無理に誘っちゃ駄目」なんて言葉、母から初めて聞いた気がする。

「無理に誘ってないよ。スクリーンくらいならいいよって、あいつも言ってたから。またうちに連れてきてもいいよね?」
「シバ君が来たいって言うなら。うちはいつでもいいわよ」

 母が濡れた台拭きをキッチンへと持って行く。

「ねぇねぇ、写真ないの?」
「ねぇよ!」
「じゃ、絶対、明日撮ってきて!」
「一年で顔が変わるわけねーだろ。去年の写真見とけ」
「そりゃ、おにぃは身長も全然伸びてないけどさー」
「ミリ伸びたわ!」
「ミリとか。ウケる」

 うるさい妹の相手をしているうちに、母に対する違和感も自然となくなっていた。