体育館に床を擦るゴムの摩擦音や金属同士がぶつかる音が響いている。
初めて見る車椅子バスケの試合は、今まで見たどのバスケよりも激しかった。
白と紺のユニフォームを着た選手たちが、車椅子をまるで自分の体の一部のように駆使して、縦横無尽に走り回っている。すごい勢いで走り込んできたかと思えば、ぶつかる直前で急停止し、相手の隙を突いてボールを奪う。ときに、停止が間に合わずぶつかることや、その衝撃で車椅子ごと転倒することも。
「すげーな……」
思わず感慨混じりの声が漏れる。
長身のシバは車椅子に座っていてもすぐにわかった。肩幅の広さ、無駄のない動き。
ボールを受け取り、迷いなく前に出る。その姿を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
車椅子バスケはそれぞれのプレーヤーが障害の程度によって等級分けされていて、シバのように走ったり跳んだりはできなくても歩くのに支障がないと一番低いポイントのクラスに分類されるのだそうだ。
障害の程度が軽いことが俊敏性に直結するのはわかる。でも、随分前から車椅子を使わなくなったシバが、競技用の車椅子をあれほど自在に使いこなせるようになるまで相当な努力をしたことも想像できる。
シバから車椅子バスケをしていることを聞かされたのは、花火の夜だった。
あの日は結局、シバの元実家のマンションに泊まり、「何もしない」という奴の言葉を信じて一緒に風呂に入ったのだが、奴のバキバキの腹筋が羨ましくてどんな筋トレをしたらそうなるのか問い質したところ、高校生になってから車椅子バスケを始めたことを聞かされた。試合を観に来たのは今日が初めてだ。
なぜ車椅子バスケで腹筋が鍛えられるのか結局のところ謎だったが、確かにこの試合を見れば、腹筋だけでなく上半身全ての筋力が必要なことがわかる。
そんな激しい試合の最中、相手選手が車椅子でシバに体当たりし、彼が車椅子ごと横に倒れた。
「あああっ! ちょ、ちょっと! あんなラフプレーいいんですか!?」
あまりの衝撃に、思わず隣にいた知らないおじさんに話しかけていた。
「初めて見るとびっくりするよな。でも、あれくらいは反則じゃない。車椅子バスケの場合、ポジション争いで倒されても、反則にならないことが多いんだよ。あの子はシュートは上手いけど線が細いからね。無理に踏ん張るより倒れたほうが安全なときもあるよ」
そうは言っても絶対に痛いだろうと思うと、ぶつかられるたびにハラハラする。
シバがブロックに入ろうとする敵をかわし、外側へ大きく回った。
ゴールから遠い、スリーポイントラインのさらに外でパスを受ける。
すらりとした長身の背筋がすっと伸び、ボールを持った長い腕が振り上げられる。
会場がしんと静まり返り全ての観客が呼吸も忘れてその姿に魅せられる。
次の瞬間、ボールが両手から離れ、高い放物線を描いた。
入る――!
放った瞬間に確信した。
高く上がったボールが時間が引き伸ばされたみたいにゆっくりとゴールネットに吸い込まれていく。
一度膨らんだネットがしゃらりと揺れ、一拍遅れて観客席に歓声が爆発した。
こちらを振り返ったシバが、ガッツポーズを掲げる。
その姿は、中学の頃、試合でスリーポイントを決めたときの何十倍も、輝いて見えた。
体育館で練習に付き合ってくれていたとき、フォームが全然崩れていなかったのも、ずっと練習を続けていたからなのだろう。
「あの人、かっこいいね」
「まだ高校生らしいよ」
「年下じゃん! でもあの人なら年下でもいい! 彼女いるのかな」
背後から聞こえてきた声に、胸の辺りがむず痒くなった。
――俺の彼氏です。
秘かに心の中で主張する。
――俺の彼氏で、親友で、幼馴染で、大好きな人です。
シバは高校でも俺がバスケを続けていることを知って、車椅子バスケを始めたそうだ。
でも、「俺が車椅子に乗っているところを見たら、サクが自分を責めるんじゃないかと思ってずっと言い出せなかった」と言っていた。
胸の奥が、じんと熱くなる。
――バスケをやめないでいてくれて、ありがとう。
涙で視界を滲ませながら、試合が終わったら、その言葉を一番にシバへ伝えようと思った。

