6時にサイカイ橋で。




 夏休みに入って最初の日。俺は部活の練習に行く前に、地元の駅近くのファミレスに寄った。
 平日の午前中のせいか、埋まっている席はかなりまばらだった。
 緊張を落ち着かせるためにグラスの水を呷っていると、頭上で「お待たせ」という声がした。

 声をかけたのはポニーテールの女子。中学の頃より幾分大人びたワンピース姿で、はにかんだ顔で立っていた。

「久しぶり……って言っても、数カ月ぶりだけど。小田君、ちょっと痩せた?」
「卒業前が受験勉強で部活もしてなくて、ふっくらしてたんだよ。陽菜ちゃんは……変わんないね」

 笑顔を向けると、彼女はわざとらしく頬を膨らませる。

「そこはお世辞でも、綺麗になったとか言うところでしょ」

 園田陽菜(そのだはるな)は中学の頃のバスケ部のマネージャーだ。
「ちょっと聞きたいことがあって」と俺から連絡して呼び出した。卒業式以来の再会となる。
 
 二人ともドリンクバーを注文し、好きなジュースをグラスに注いで席に戻る。
 ジュースで喉を潤しグラスをテーブルに置くと、園田は探るような目で俺を見た。

「私を呼び出したってことは……斯波君と再会できたってこと?」
「……シバがうちの高校に来てるの、知ってたの?」
「別に口止めされてないし?」

 彼女は肩をすくめてみせた。

「転校したあと、随分経ってから斯波君から連絡があったのよ。『サクがどこの学校受験するか知ってたら教えてほしい』って」
「……え?」

 理解が追いつかず、間抜けな声が出た。

「何それ……何で俺の受験する学校をあいつが知りたがるの?」
「普通に考えたら、同じ学校を受けたいからじゃない? 実際にそうなったみたいだし」

 園田が呆れたように言い、ふいに表情を険しくする。

「フッた相手に久しぶりに連絡してきて、聞くのがそれって……正直、酷くない?」

 俺の混乱は深まるばかりだ。

「それってどういうこと? シバって中体連の最終戦のあと、陽菜ちゃんに告白したんじゃないの?」

 園田がバンっと片手でテーブルを叩き、俺の前に人差し指を立てた。

「私がそこまで教えてあげる義理はないからね! 自分で考えるか、本人に聞きなさい!」

 けれど次の瞬間、吊り上がっていた目元がふっと緩む。

「斯波君とちゃんと話ができたら、そのうちバスケ部のみんなで会おうよ。斯波君のこと気になってたの、小田君だけじゃないから」

 泣き笑いみたいな笑顔だった。

「そうだね。今日は来てくれてありがとう」

 俺が彼女に聞きたかったのは、最終戦のあと二人がいなくなったときの話だ。しばらく二人が一緒にいたのかどうかを知りたかった。
 シバは彼女の告白に「ごめん」と返事をすると、即行で帰ったらしい。

「フッた私をほったらかしにして、『サクを待たせてるから』って走って行ったのよ! 何であんな人好きになったんだろ」

 思い出し、また怒りがぶり返したようだった。
 その後、30分ほど、お互いやバスケ部員たちの近況を報告し合い、彼女とはそこで別れた。