パーティーから追放された万能サポーターと、死にたくないので逃げてきた悪役令嬢の辺境スローライフ ~二人で始める、誰にも邪魔されない第二の人生~

「おいアレン、お前は今日でクビだ」
 王都の酒場の喧騒も凍りつくような、冷ややかな声だった。  声の主は、王国最強と謳われるSランク冒険者パーティ『聖なる剣』のリーダー、勇者レオン。そして宣告されたのは、俺――荷物持ち(ポーター)のアレンだった。
「クビ、ですか」
「ああそうだ。来週には魔王討伐の遠征が控えている。正直言って、レベル15のお前じゃ足手まといなんだよ」
 レオンがテーブルに叩きつけたのは、俺のステータスプレートの写しだった。そこには確かに『レベル:15』と刻まれている。対して、勇者レオンや聖女、賢者といった他のメンバーは全員レベル80を超えている。数値だけ見れば、俺は紛れもない落ちこぼれだ。
「悪いな、アレン。回復魔法も使えない、攻撃魔法も使えない。ただ荷物が持てて、飯が作れるだけの雑用係なら、もっと安く雇えるやつがいるんだ」
「退職金代わりだ、この金貨10枚を持ってとっとと失せろ。俺たちの『伝説』に泥を塗るな」
 仲間たちが嘲笑う視線を向ける中、俺は金貨を受け取り、静かに酒場を出た。怒りはなかった。むしろ、心のどこかで「やっとか」と安堵する自分がいた。
 俺のジョブは『支援術師』だ。確かに戦闘力は皆無に近い。だが、俺が裏で何をしてきたか、彼らは何も気づいていなかった。
 野営時の結界維持、魔物の接近を匂いだけで察知する索敵、ポーションの調合、武具のメンテナンス、そして何より、ダンジョン内での栄養管理と調理。彼らが万全の状態で戦えていたのは、俺が「生活魔法」と「サバイバルスキル」を極限(カンスト)まで上げていたからだ。レベルが低いのは、経験値のほとんどを戦闘スキルではなく、生産系スキルに割り振っていたからに過ぎない。
「でも、もういいや」
 王都の大通りを歩きながら、俺は大きく伸びをした。  徹夜の素材整理も、不寝番の押し付け合いも、不味いと言われないための工夫も、もうしなくていい。
「これからは誰のためでもなく、自分のために生きよう」
 俺の足は自然と、王都の門へと向かっていた。  目指す場所は決まっている。  ここから馬車と徒歩で三日。魔物が多く、人が寄り付かない「迷わずの森」の奥深く。 かつてクエストの最中に迷い込み、偶然見つけた『打ち捨てられた廃屋』だ。
 あそこなら、誰も来ない。あそこなら、静かに眠れる。貯め込んだ貯金と、この身につけたサバイバルスキルがあれば、森の中での自給自足なんて余裕だ。
「まずは屋根の修理だな。それから畑を耕して……ああ、のんびり本を読むスペースも欲しい」
 想像するだけで、足取りが軽くなる。 俺は一度も振り返ることなく、Sランクパーティの栄光と喧騒を背に、静かな森へと歩き出した。
迷わずの森を歩くこと、丸三日。木々の隙間から、廃屋の屋根が見えた時、俺は思わず口元を緩めた。
 かつてクエストの最中に偶然見つけた、この場所。王都からも、街道からも遠く離れ、魔物除けの結界石が自然に機能している天然の要塞。  ボロボロだが、俺のスキルがあればすぐに快適な城になるはずだ。
「さて、まずは大掃除からだな……ん?」
 近づいて違和感を覚えた。 閉めておいたはずの扉が、わずかに開いている。風で開いたのか? いや、蝶番はまだ生きていたはずだ。野獣か、あるいは迷い込んだ冒険者か。
 俺は警戒しつつ、音を殺して扉の隙間から中を覗き込んだ。
 そこにいたのは、魔物でも冒険者でもなかった。
 部屋の隅、埃にまみれた床の上で、小さくうずくまる人影。金色の髪は泥と枯れ葉で汚れ、着ているのは見るも無残に破れた、かつては純白だったであろう豪華なドレス。一見して、この森に似つかわしくない貴族の令嬢だった。
「誰だ?」
 俺が声をかけると、彼女は弾かれたように顔を上げた。やつれ切った顔。目の下には濃い隈があり、充血した青い瞳が見開かれる。
「ひっ……!?」
 彼女は床を這うようにして後ずさり、壁に背中を押し付けた。そのガタガタと震える様子は、獲物を前にした小動物そのものだ。
「こ、来ないで……! あなた、追手なの!? お父様が差し向けたの!?」
「追手? いや、俺はただの旅人だ。この廃屋を使おうと思って来ただけだが」 「うそよ! こんな森の奥に、人が来るはずがないわ!」
 錯乱している。無理もない、こんな場所で一人、何日過ごしたのか分からないが、極限状態なのは明らかだった。俺は敵意がないことを示すために、両手を上げてゆっくりと扉を開け放った。
「信じられないなら、それでいい。ただ、俺はこれからこの家を掃除して、飯を作る。あんたを追い出すつもりはないが、邪魔もしないでくれ」
 俺は彼女から視線を外し、部屋の中央へ進んだ。 長年放置された室内は、足を踏み入れるだけで埃が舞う有様だ。
「洗浄」
 短く唱え、指を鳴らす。生活魔法の一つだが、俺の熟練度は桁違いだ。一瞬で部屋中を巡った風が、床の埃、天井の煤、壁の汚れを根こそぎ絡め取り、外へと弾き出した。 ついでに、部屋の隅で固まっている彼女にも魔法の効果範囲を広げておく。
「え……?」
 彼女が呆然と声を漏らした。 泥だらけだった肌も、汚れたドレスも、絡まった髪も、洗い立てのように綺麗になっていたからだ。
「悪いな、勝手に洗わせてもらった。埃っぽいのは飯が不味くなるから」
「あ、ありがとうございます……」
「礼はいらない」
 俺はリュックを下ろし、手慣れた動作で準備を始めた。 暖炉に残っていた古い薪に、生活魔法「着火」で火を灯す。パチパチという音が、冷え切った部屋に微かな熱をもたらした。
 次は食事だ。 俺の行動を、彼女はまだ警戒心を残したまま、けれど縋るような目で見つめている。 リュックから愛用の小鍋を取り出し、水魔法で満たす。具材は携帯食の干し肉と、乾燥野菜のミックス。これだけだと味気ないが、来る途中で採集した「ネギ」と「ハーブ」がある。
 ナイフで香草を刻み、鍋に投入する。 グツグツと煮立つ音と共に、干し肉の凝縮された旨味と、ハーブの爽やかな香りが部屋いっぱいに広がった。  肉を柔らかくするために、微量の魔力を浸透させるのも忘れない。俺独自の「料理魔法」だ。
「……っ」
 背後で、ゴクリと喉が鳴る音が聞こえた。  俺は煮えたばかりのスープを木のお椀によそい、彼女の近くの床にコト、と置いた。
「毒なんて入ってないぞ。俺が先に味見をしただろ」
「食わないなら、俺が食うが」
 その言葉が引き金だった。  彼女は恐る恐る近づき、震える手で器を持ち上げた。  温かさが指先から伝わったのか、ふっと表情が緩む。そして、意を決したように口をつけた。
「……!」
 一口飲んだ瞬間、彼女の動きが止まった。  大きく見開かれた目から、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ出した。
「おいしい……」
 掠れた声だった。
「温かくて味がする」
 彼女は器に顔を埋めるようにして、夢中でスープを飲み干した。  具の干し肉を噛みしめ、野菜の甘みを喉に通すたびに、張り詰めていた何かが溶けていくようだった。  王族の料理に比べれば、冒険者の携帯食なんて餌のようなものだろう。  だが今の彼女にとって、この一杯のスープは、どんなフルコースよりも尊い「生」の味だったに違いない。
 俺は何も聞かなかった。 なぜこんな場所にいるのか。なぜ追われているのか。  それを聞くのは、彼女がもう少し、人としての輪郭を取り戻してからでいい。
 ただ黙って、鍋に残ったスープを温め直す。 廃屋の外では、日が沈み始めていた。
食事を終えると、部屋には静寂が戻った。 聞こえるのは、パチパチと爆ぜる薪の音と、外を吹く風の音だけ。 俺は食後の茶として、森で摘んだリフレッシュ効果のある野草を煮出し、彼女に手渡した。
「……落ち着いたか?」
「はい。ありがとうございます」
 彼女はカップを両手で包み込み、揺れる炎をじっと見つめている。その横顔は、先程までの怯えきった表情とは違い、どこか覚悟を決めたような、それでいて深い悲しみを湛えたものだった。
「私は、エリザベートといいます。公爵家の娘です」
「俺はアレンだ。元冒険者の」
「アレン様……」
 彼女は一度言葉を切り、震える唇を噛み締めてから、独り言のように呟いた。
「私はね……逃げてきたの」
「王都からか?」
「ええ。……今日、王城で夜会があるわ。そこで私は、婚約者の王太子殿下から婚約破棄を言い渡されて、処刑される運命にあるの」
 穏やかな口調だったが、その内容はあまりに不穏だった。 俺が眉をひそめると、彼女は自嘲気味に笑った。
「身に覚えのない罪よ。でも、証拠も証人も全て揃っている。そういう運命が決まっているから」
 彼女の視線が、炎の赤に吸い込まれていく。その瞳の奥には、俺には計り知れない、異質な絶望が渦巻いていた。

***
(言っても理解されない。ここが『ゲームの中』だなんて)
 エリザベートは、燃え上がる炎の中に、忌まわしい記憶を幻視していた。 彼女の中には、かつて「現代日本」で暮らしていた頃の記憶がある。 数ヶ月前、高熱を出して目覚めた時、彼女は自分が前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖なる王国のラプソディ』の悪役令嬢に「憑依」してしまったことに気づいた。
 最初は、運命を変えようとした。 断罪なんてされたくない。ヒロインとも仲良くしたい。 そう思って、彼女に近づいたあの日。
『ごきげんよう』
 そう挨拶しようとしたはずだった。 けれど、喉の奥が焼け付くように熱くなり、自分の意思とは無関係に、声帯が勝手に震えたのだ。
『平民風情が、私の視界に入らないでくださる?』
 口から飛び出したのは、完璧な悪役としての罵倒だった。「こんなことは言いたくないのに」と心の中で叫んだ。だが、恐怖はそこで終わらなかった。 ヒロインがつまづいたのを見て、とっさに助け起こそうと伸ばした手は、空中で奇妙にねじれ、あろうことか彼女の肩を強く突き飛ばしたのだ。
 オートモード。あるいは、ゲームの強制力。
 それは、心は正常なまま、体だけが何者かにジャックされ、誰かがプログラムした通りの「悪意ある行動」を遂行していく。まるで、コントローラーを握った神様に、操作されているようだった。
 私は操り人形。『悪役令嬢エリザベート』という役割を演じさせられるだけの、肉の器。
 そして今日、パーティの夜。そこは、私が全ての罪を暴かれ、断罪されるラストステージだ。 ゲームのシナリオ通りなら、私は弁明の機会すら与えられず、地下牢に行かされる。
(嫌だ、死ぬのは嫌だ。この体はエリザベートのものかもしれないけど、痛みを感じるのは今の『私』だ)
 だから私は、強制力がふと緩んだ一瞬の隙を突いて、窓から飛び降りた。 ドレスが裂けるのも構わず、裸足で森へ走った。  死にたくない。「悪役」として処理されるなんて御免だ。私は私だ、誰かのオモチャじゃない!
 
***
 ふと、薪がパチンと爆ぜる音がして、エリザベートは我に返った。 目の前には、心配そうにこちらを見るアレンがいる。 この人は、ゲームには出てこなかった人だ。シナリオに存在しない、イレギュラーな存在。  だからこそ、言えるかもしれない。
「信じられない話でしょうけど」
 彼女は顔を上げ、アレンを真っ直ぐに見た。 その瞳は、狂人のそれではない。理不尽な暴力に晒され続けた者が持つ、悲痛な光だった。
「私の体は、私のものじゃないみたいだった。勝手に動いて、勝手に他人を傷つけた」
「勝手に?」
「ええ。抵抗しようとしても、見えない糸で手足を操られて、心にもない暴言を吐かされた。今日の夜会で、私はその『操られてやったこと』で裁かれるわ」
 彼女は自分の両肩を抱き、震え出した。
「誰も信じてくれない。怖かった。人形のまま殺されるのが、たまらなく怖かった」
 見えない糸。 普通なら「頭がおかしい」と笑い飛ばす話だ。だが、アレンは笑えなかった。 彼女の訴えが、「強力な呪い」や「精神支配」の症状に酷似していたからだ。そして何より、彼女の言葉が、アレン自身の古傷を刺激した。
「なるほどな」
 アレンは焚き火に新しい枝を放り込んだ。
「俺を追放した勇者たちもそうだったよ。俺がどれだけ貢献しても、あいつらは『レベル』という数値しか見なかった。俺という人間を見ようとせず、ただの便利な『道具』として扱った」
 決められた評価。決められた役割。それに縛られて、中身を見てもらえない苦しみ。 彼女のが呪いなのかは分からない。だが、その苦痛の種類は、痛いほどよく分かった。彼女もまた、世界から「いらない」と切り捨てられた仲間なのだ。
「アレン様?」
「安心しろ、エリザベート」
 アレンは彼女に向き直り、はっきりと告げた。
「ここには誰もいない。あるのはボロい屋根と、美味い飯と、俺たちだけだ」
「呪いだか知らないが、こんな森の奥までは追ってこないさ。もし、その『糸』がまだ繋がっているなら……俺が断ち切ってやる」
 アレンの力強い言葉に、彼女は目を見開き、やがてくしゃりと顔を歪めて泣き出した。  今度は恐怖の涙ではなく、初めて得た理解と安堵の涙であることを祈りながら、アレンはそっと彼女の背中に手を置いた。

そしてエリザベートの異変は、月が中天に昇った頃に始まった。
「あ……」
 暖炉の前で膝を抱えていたエリザベートが、突如として虚空を見つめ、ガタガタと震え出したのだ。顔面は蒼白になり、脂汗が頬を伝う。瞳の焦点が合っていない。
「エリザベート? どうした」
「行かなきゃ、戻らなきゃ」
 彼女はうわ言のように呟いた。
「おい、しっかりしろ!」
 アレンが肩を揺さぶるが、彼女の反応は薄い。 
 エリザベートが弾かれたように立ち上がり、扉へ向かって走り出した。 その動きは異常だった。足がもつれても、壁に激突しても、痛覚を感じていないかのように、ただひたすらに「王都」の方角へ吸い寄せられていく。  まるで、巨大な磁石に引かれる鉄屑のようだ。
「させるかよッ!」
 アレンは彼女の背後から飛びつき、その細い体を強く抱きすくめた。
「離して、離してよ! シナリオ通りにしなきゃ、世界が壊れちゃう! 私が死ななきゃいけないの!」
「壊れればいい、そんな世界は」
「嫌ぁぁぁぁ! 戻らなきゃあああ!」
 彼女は半狂乱で暴れた。 細い令嬢のどこにこんな力が、と思うほどの馬力だ。これが「強制力」運命そのものが、彼女を舞台へ引きずり戻そうとする力なのか。  
廃屋全体がギシギシと悲鳴を上げる。風もないのに窓ガラスがガタガタと鳴り、扉が激しく叩かれるような音が響く。  世界そのものが、「異物を排除するな」「運命に従え」と激怒しているようだ。
(ふざけるな)
 アレンの胸に、かつてない怒りが湧き上がった。  勇者たちに捨てられた時の怒りとは違う。目の前の少女を、ただの「部品」として使い潰そうとする理不尽への、猛烈な反骨心だ。
「エリザベート、俺を見ろ」
 アレンは暴れる彼女を羽交い締めにし、左手を床に叩きつけた。  体内の魔力をありったけ練り上げる。 戦闘魔法なんて使えない。攻撃魔法も知らない。だが、守ることに関してなら、俺は誰にも負けない。
「展開、家内安全!」
 本来は、家の隙間風を防ぎ、害虫、悪意あるセールスマンを遠ざけるための、ささやかな生活魔法。 だが、レベル99まで極めたアレンのそれは、概念すら弾く絶対不可侵の結界と化していた。
廃屋を中心にして、淡い金色の光が爆発的に広がった。  それは温かなドームとなって家を包み込み、外から押し寄せていた「黒い圧力」を物理的な衝撃音と共に弾き飛ばした。
「ハァ……ハァ……ここは、俺の家だ! 運命だろうが負けない!」
 アレンは彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
「俺の許可なく、手出しはさせねぇッ!!」
 結界が軋む。世界が修正しようと圧力をかける。  だが、アレンの作り出した「聖域」は、ビクともしなかった。 嵐のような轟音が外で吹き荒れる中、アレンは震える彼女の耳元で、一晩中、名前を呼び続けた。

 やがて窓の外が白み始め、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
 昨夜の嵐のような轟音は、嘘のように消え失せている。 アレンの腕の中で、気絶したように眠っていたエリザベートが、ゆっくりとまぶたを持ち上げた。
「……ん」
「おはよう、エリザベート」
 アレンの声に、彼女はハッとして体を起こし慌てて窓の外を見る。
「朝だよ」
昨夜行われるはずだった夜会は、もう終わっている時間だ。
「私、生きてる……?」
 彼女はおそるおそる自分の胸に手を当てた。心臓が動いている。そして何より――軽い。 常に体にまとわりついていた、見えない鎖のような重圧が、綺麗さっぱり消滅している。
(シナリオが……崩壊した?)
 重要イベントである「断罪」をすっぽかしたことで、ゲームのフラグが完全に折れたのだ。「悪役令嬢エリザベート」という役割は、舞台に上がらなかったことで消滅した。 今ここにいるのは、ただの「エリザベート」という一人の人間だ。
 彼女はその場に泣き崩れた。 それは絶望ではなく、生まれて初めて「自分の人生」を手に入れた、魂の底からの歓喜の号泣だった。

 それから、数か月が経った。
「アレン様! そっちの畑、水やり終わりましたわー!」
「おー、サンキュ! こっちも獲物が捕れたぞ!」
 迷わずの森の奥。かつて廃屋だった場所は、今や見違えるようなログハウスに生まれ変わっていた。  屋根は綺麗に修復され、庭には整えられた家庭菜園があり、煙突からは穏やかな煙が上っている。
 エリザベートは、土で汚れた頬を袖で拭いながら、満面の笑みを浮かべていた。  令嬢としての「魔力」の才能は、ここでは「全自動水やり機」として素晴らしい威力を発揮している。  アレンの生活魔法と、エリザの知識・魔力が組み合わさったこの生活は、想像以上に快適だった。
「今日の獲物はコカトリスだ。唐揚げにすると美味いぞ」
「まあ! じゃあ私、付け合せのサラダとスープを用意しますね。あ、パンも焼きましょうか?」
「助かる。……へへ、楽しみだな」
 アレンが笑うと、エリザもつられて花が咲いたように笑った。 誰かに決められた評価も、強制されたシナリオも、ここにはない。 あるのは、自分たちの手で作る家と、美味しいご飯と、自由な明日だけ。
「さて、帰ろうか。俺たちの家に」
「はい、アレン様!」
 二人の笑い声が、優しく森に溶けていく。  放された最強のサポーターと、運命から逃げ出した元悪役令嬢。  二人の本当の人生、スローライフは、まだ始まったばかりだ。