その恋は星空のように

雲に隠れていた夕陽が顔を出したのだろうか、オレンジ色の光が、靡くカーテンの隙間から教室に差し込んでくる。
「私、好きな人ができたの」
綾音(あやね)からのその言葉、少しだけ不安になった。その感情を映し出しているようだった。
「好きな人、できたんだ! いいね! ちなみに、誰、かな……」
綾音の、色付きリップで少しだけ濃くなった唇が縦に動く。
(とおる)くん」
時間が止まったような気がした。
少し空いてる窓から風が吹いた。綾音のすらっと長い髪が靡いた。

――
『漢字わかるんだ! 透くん、すごいね!』
幼稚園の頃、透とおるはわたしの憧れだった。
足は少し遅かったけど、絵がとっても上手で、何より頭がよくて。私はひらがなもあんまりわからなかったから。
よく公園で遊んだりもして。小学校に上がってからは、一緒に花火をしたこともあった。
透は、花火を2本に持って、青色と緑色の光を放ちながら、なんか必殺技? みたいなのを叫んでて、頭がいいのに無邪気で少し可愛いなって思って笑ったりしてた。
花火がだんだん無くなってきて、2人で線香花火に火をつけた。
バケツの水面が反射してキラキラする。空は星が降るように綺麗で。そこは、私と透の2人だけ。
『……なあ、紗凪(さな)
『……ん?』
私が透のほうを見ると、透は少し目を逸らした。
そして、また、私の方を見て、言った。
『俺たち、大きくなったら、結婚しような』
その透が、さっきまで無邪気に笑ってた透とは思えないくらい、かっこよくて、声が綺麗で、そして、何より、とっても嬉しくて。
『ふふっ、いいよ。結婚しよ』
そう言うと透は顔をとっても紅くして、笑顔になって。
『よっしゃ! 約束』
って。私たちは、小指を結んだ。2人で笑い合いながら。そのまま線香花火が落ちてしまったんだっけ。忘れちゃった。

――
中学校の正門とは逆側にある自転車置き場は過疎ってる。でも、だからこそ、いつメンと集まりやすいのかな。
今日も、私は綾音と一緒に、自転車を引きながら中学の門を出る。
「さよなら〜」
「さよな……あ、紗凪! ……今日の小テスト満点だったな。これからも頑張れよ」
なんだよ〜もう心臓に悪いな……。適当に返事して学校を出る。
「ねえ、綾音、そういえばさっき部活行く前に話してた、好きな人、って……」
「ああ、えっとね、そうなの、私ね、好きなひ……っ!」
綾音は急いで俯いた。綾音の奥で、ツンツン髪の毛の日向(ひなた)が私たちに向かって手を振っている。今日も元気なこと。 そして、その奥に、やっぱり。前髪が目にかかりそうな透が、日向を冷たい目で見ながら自転車を引いている。
「よお、綾音と紗凪! 部活おつかれい」
ひひっと日向が笑う。透はそれを無視して前に進み続ける。綾音がフフッと笑い、
「おつかれいって、全然疲れてなさそうじゃん日向ひなた」
ってつっこむと日向が、
「は、はあつかれてるし! グランド10周走ったんだから」
って言うと透が小さい声で
「5周」
とか言ってツッコミ入れるから面白くて笑って。

私たち4人は、帰り道、みんなで合流できた時は、近くの神社で夜が更けるまで話す。同じクラスで仲良くなって、最初は、中学生ってたのしー! とか、先生に見つからないかな、とか色々考えてたけど、夏休みが過ぎて9月も後半に差し掛かった今、いつのまにかそれが日常になっていた。