路地裏の主夫~最強ヒロインたちを餌付けしました。「生活能力ゼロ」の彼女たちは、俺の飯と掃除がないともう生きていけないようです。~

 湿った土の匂いで目が覚めた。
 アスファルトの熱気でも、コンビニの揚げ物の匂いでもない。もっと濃い、草とか土の匂いだ。
 目を開けると、そこは緑一色だった。
 空が見えないくらい木が生い茂っている。その木々の間から太陽の光が差し込んでて、地面の苔がキラキラ光っていた。
 俺はゆっくりと起き上がった。
 背中は痛いし、尻は少し濡れている。
 周りを見渡す。
 見たこともないデカい植物。毒々しい色の花。ビル数階分はありそうな巨木。
 どう見ても、日本じゃない。さっきまで俺が歩いていた、住宅街であるはずがない。

「……マジかよ」

 口から出たのは、情けない独り言だった。
 状況を整理しよう。
 休日の俺は、ルンルン気分で近所のコンビニで夜食のカップ麺を買って、店を出た。
 その瞬間、視界が真っ白になって、気づいたらここにいた。
 トラックに轢かれた記憶もないし、神様みたいなじいさんに会った覚えもない。
 ただ、いきなりここに放り出されたみたいだ。

 慌てて自分の体を確認する。
 服装はパーカーにTシャツ、作業ズボンにスニーカー。

 手足はある。怪我もしてない。

 ポケットを探る。

 おいおい、スマホも財布もない。
 そして、右手に持っていたはずのコンビニ袋がない。
 俺のシーフードヌードルは、どこかへ消えたらしい。

「最悪だ……」

 ため息をつくと、喉が渇いていることに気づいた。
 水、飲みたいな。
 そう強く思った瞬間だった。
 体の奥から何かが流れてきて、手へと向かっていく感じがする。
 驚いて右手を見ると、そこから先の空間で水が噴き出していた。
 蛇口を全開にしたみたいに、ドバドバと。

「うおっ!?」

 慌てて手を振るけど、水は止まらない。
 まるで俺の手がホースになったみたいだ。

 止まれ、止まれ!

 念じると、ピタリと水が止まった。
 俺は呆然と自分の手を見つめる。
 濡れている。舐めてみると、ただの水だ。美味しくも不味くもない、普通の水。

「これが……魔法、ってやつか?」

 異世界転移。魔法。ネット小説で読んだことあるやつだ。
 もしかして、俺は勇者として凄い能力をもらったのかも?
 期待して、次は炎を出そうとしてみた。

 ……シーン。何も起きない。

 じゃあ雷!風!
 いろいろ試したけど、出るのは「水」だけだった。
 しかも、お湯も氷も出ない。ただのぬるい水だ。
 勢いを変えることはできた。高圧洗浄機みたいに強くしたり、霧吹きみたいにしたり。
 でも、それだけ。

 攻撃力ゼロ。

 できることと言えば、いつでも顔が洗えることと、喉が渇かないことくらい。
 地味すぎる。勇者っていうか、これじゃ「歩く蛇口」じゃん。

「はぁ……」

 俺はがっくりして、木の根元に座り込んだ。
 食料なし。武器なし。場所も不明。
 あるのは水が出るだけの微妙な能力。
 このまま夜になったらどうなる? 熊とか出たら終わりだぞ。
 そう思った時だった。

 ガサッ。

 後ろの茂みが揺れた。
 風じゃない。何かが動いている音だ。
 俺はビクッとして振り返る。
 そこから出てきたのは、デカい犬だった。
 いや、犬じゃない。軽自動車くらいある。
 狼だ。その狼の毛並みは灰色でゴツゴツしてて、口からは長い牙が見えていた。
 目が合う。黄色い目が、俺をじっと見ている。
 ヨダレがダラダラ垂れている。
 完全に「エサ」として見られているのがわかった。

 グルルルル……。

 唸り声を上げて、その化け物が姿勢を低くする。
 逃げられない。
 こんなデカいやつから逃げ切れるわけがない。
 やるしかないのか。この水魔法で。

「くそっ!」

 俺は震える両手を前に突き出した。
 イメージしろ。最強の高圧洗浄機だ。
 水圧で目を攻撃して、怯ませるんだ!

「来るなあああああっ!」

 叫びながら、俺は全力で水を出した。

 バシュウウウウウッ!

 激しい水流が化け物の顔面に直撃する。
 当たった!
 顔が水しぶきで見えなくなる。やったか!?
 一瞬喜んだ俺の目の前で、化け物がブルブルッと体を震わせた。
 水が飛び散って、そこにはさっぱりした顔の化け物がいた。
 傷ひとつない。
 むしろ汚れが落ちて、毛並みが綺麗になっている。
 化け物は「何してんのコイツ」みたいな目で俺を見て、また唸り声を上げた。

 終わった。
 俺の異世界生活、開始三十分で終了。
 死因、シャワーの水圧不足。
 化け物が地面を蹴った。大きな口が迫ってくる。
 俺はギュッと目を閉じた。

 ――ザシュッ。

 肉が切れる音がした。
 でも、痛みは来ない。
 ドサリ、と何かが倒れる音。
 恐る恐る目を開けると、目の前にあの化け物の首が転がっていた。
 そして、その向こうに誰かが立っていた。

「おい。生きているか?」

 鈴を転がすような、綺麗な声。
 立っていたのは、とんでもない美人だった。
 銀色の鎧を着て、金色の長い髪をなびかせている。
 目は透き通るような青色で、俺を鋭く見ていた。
 手には、彼女の身長くらいありそうな長い剣。
 その剣には、べっとりと血がついていた。

 俺が呆然としていると、彼女の後ろからもう一人、女性が出てきた。
 こっちは白い服を着ている。シスターみたいな感じだ。
 同じ金髪で青い目だけど、髪はふわふわしてて、優しそうな雰囲気だった。
 手には大きな杖を持っている。

「まあ、フレイヤ。そんな言い方をしないでくださいよ。彼、腰が抜けちゃっているじゃないですか」

 白い服の女性は、俺の前にしゃがみ込んで心配そうに顔を覗き込んできた。

「怪我はないですか? どこか痛いところは?」

「あ、え、ええ……」

 俺は声を出すのが精一杯だった。
 美人すぎるのと、強すぎるのを同時に見て、頭が追いつかない。

「ふん、無傷か。運のいい男だ」

 フレイヤと呼ばれた鎧の女性が、剣をブンと振った。
 血が飛び散って、剣が綺麗になる。
 彼女は慣れた手つきで剣を背中にしまうと、呆れたように俺を見下ろした。

「それにしても、水遊びで魔物を追い払おうとするなんてな。無茶にもほどがあるぞ」

「い、いや、あれしか方法がなくて……」

「力を持たない一般人が、この森に迷い込むなんて自殺行為だ。道に迷ったのか?」

 どうやら彼女たちは、俺をこの世界の人だと思っているらしい。
 異世界から来ましたって言っても信じてもらえないだろうし、説明する元気もない。

「……気づいたらここにいて。右も左もわからないんです」

「遭難者、ということですね。可哀想に」

 育ちの良さそうな雰囲気の白いシスター服の女性が、同情たっぷりに言う。

「私はアリシア。こっちは騎士のフレイヤです。貴方のお名前は?」

「あ、俺は……ケンジです」

「ケンジ様ですね。私たちは開拓都市フロンティアへ戻る途中、ここでキャンプをする予定でした。もしよろしければ、ご一緒しませんか? 一人で森を歩くのは危険すぎます」

 渡りに船とはこのことだ。断る理由なんてない。

「お願いします。本当に、助かりました……」

 俺は深々と頭を下げた。
 フレイヤは鼻を鳴らし、足元の化け物の死体を足で小突いた。

「まあいい。ついでだ、こいつの肉も持っていくぞ。今日の晩飯は豪華になりそうだ」

「まあ、素敵! 焼きたてのお肉、楽しみです」

 二人はでかい化け物の死体を前にして、まるでランチのメニューを選ぶ女子高生みたいに明るい声を上げた。
 フレイヤが化け物の後ろ足を掴む。
 そして、どう見ても数百キロはありそうな巨体を、片手でズリズリと引きずり始めた。

「さあ、行くぞケンジ。遅れると置いていくからな」

「は、はい!」

 俺は慌てて立ち上がり、彼女たちの後を追った。
 助かった。
 でも、美女二人と魔物の死体っていう組み合わせがシュールすぎた。



 連れて行かれたキャンプ地は、小川の近くのちょっと開けた場所だった。
 手際よくテントを立ているフレイヤと、魔法で結界みたいなのを張るアリシア。
 二人の動きはプロって感じで、俺は焚き火用の枝を集めることくらいしかできなかった。
 腹が減ってグゥと鳴る。
 そういえば、最後に食べたのは昨日の夕飯だ。ああ、あのカップ麺が恋しい。

「ふふ、お腹が空いているみたいですね」

 作業を終えたアリシアが、石を組んだかまどの前で微笑んだ。

「ちょうど私たちも夕食にするところでしたの。ケンジ様も一緒にどうですか?」

「え、いいんですか?」

「もちろんです。助けたついでですし」

「獲物はたっぷりあるからな」

 フレイヤが、引きずってきた化け物の死体をドスンと置いた。
 そして、腰からゴツイナイフを抜く。
 ギラリと光る刃先。
 まさか、今から解体ショーが始まるのか?

「よし、久々の生肉だ。気合を入れて調理するぞ」

 フレイヤはそう言うと、ためらいもなくナイフを突き立ていた。
 ザクッ。
 皮を剥ぐ手つきは豪快そのものだ。
 でも、俺は目を疑った。

 ……血抜きは?

 普通、狩った獲物はすぐに血抜きをしないと臭くなるはずだ。ましてやこんな獣臭い肉だぞ。
 でもフレイヤは、血が滴る肉の塊を適当に切り出して、そのまま串に刺そうとしている。
 内臓の処理も適当だ。なんか変な汁とかついてないか?

「……あの、フレイヤさん?」

「なんだ。腹が減って待ちきれないのか? 今焼いてやるから待ってろ」

 彼女は血まみれの肉塊を、あろうことか直火の炎にかざした。

 ジュウウウウッ!

 焦げる音と共に、強烈な獣臭と血の匂いが漂ってくる。
 煙が目に染みる。

 これは……料理じゃない。ただの焼却処分だ。

 俺の視線は救いを求めてアリシアへ向かう。
 彼女は鍋に水を張り、そこにそこらへんで摘んだ草を入れていた。

 ああ、スープか。それならまだ……。

 俺の期待は、次の瞬間、粉々に砕け散った。
 アリシアが持っている草の根元には、べっとりと黒い泥がついていた。
 葉っぱの裏には、小さな虫が動いているのが見える。
 彼女はそれを気にする様子もなく、沸騰もしてない水の中に放り込んだ。

「大地の恵みをたっぷり吸った薬草ですわ。栄養満点ですよ」

 ニコニコと笑う聖女様。

 待て待て待て。

 洗わないのか!?
 この世界には「洗う」って概念がないのか?

 泥だらけの草と、血なまぐさい黒焦げ肉。

 これを食えと?

 無理だ。絶対に無理だ。
 俺は日本の綺麗な環境で育ったんだ。多少の賞味期限切れならいけるけど、これはレベルが違う。
 食中毒で死ぬ未来しか見えない。
 魔物に食われるより、腹壊して死ぬ方が情けないだろ。

 俺の中の何かがプツンと切れた。
 遠慮とか言っている場合じゃない。

「ストップ!! 二人とも、ストップです!!」

 俺は大声で叫んで、二人の間に割って入った。
 フレイヤが驚いて肉を落としそうになり、アリシアが目を丸くする。

「な、なんだ急に! 敵襲か!?」

「違います! その料理、待ってください!」

 俺はフレイヤの手から串を奪い取り、アリシアの鍋を火から下ろした。

「い、いきなり何を……」

「いいですか、二人とも。料理っていうのは、下処理が命なんです! 特に魔物の肉や野草なんて、そのまま食ったら腹を壊しますよ!」

「下処理? 火を通せば毒は消えますし、土は大地のスパイスですわ」

 アリシアが本気で不思議そうに首を傾げる。
 この美人顔で、中身は野生児かよ。

「肉など焼けば食える。細かいことを気にするのは軟弱者の証拠だぞ」

 フレイヤが不満げに言う。
 ダメだ、この人たち。
 戦闘力は最強かもしれないけど、生活能力が終わっている。
 このままじゃ俺も道連れだ。
 俺は決意した。
 自分の命を守るために、そしてまともな飯を食うために。

「俺に代わってください。少なくとも、泥水と焦げ肉よりはマシなものを作りますから」

「……貴様、料理ができるのか?」

「プロじゃないですけど、自炊歴は長いです。見ててください」

 俺は深呼吸をする。
 さあ、出番だ。俺の地味な水魔法。
 戦闘では役に立たなかったけど、ここなら輝けるはずだ。

「まずは、この肉です」

 俺は血の滴る肉の塊を大きな葉っぱの上に置いた。
 右手の指先を、肉の切り口に見える太い血管に押し当ている。
 目的は、血管の中を洗うことだ。
 水圧をかけて、中に残った古い血を押し流すんだ。

 俺は魔法で水を出した。
 俺の指先から、細くて鋭い水流が血管に入っていく。

 血管の隅々まで行き渡った水が、血を絡め取って、反対側から薄赤くなった水となって出てくる。
 ドロリとした血が、サラサラした水に変わっていく。
 あの鼻をつくような獣臭さが、みるみる消えていくのがわかった。
 肉の色も、どす黒い赤から、鮮やかで美味しそうなピンク色に変わる。

「なっ……なんだ、なにをしているんだ……?」

 フレイヤが目を見開いて見ている。
 俺は構わず続ける。

「次は野菜です」

 泥だらけの草を手に取って、今度は左手をシャワーヘッドみたいに構えた。

 シュババババッ!

 指先から出た鋭い水流が、葉っぱや根っこの汚れを直撃する。
 こびりついていた泥が、一瞬で吹き飛んだ。
 葉っぱを傷つけずに、汚れだけを完璧に落とすコントロール。
 虫も、砂粒も、一切残さない。
 数秒後、そこにはスーパーで売っているより綺麗な野菜があった。

「水魔法を……こんなふうに使うなんて、この私ですら、聞いたことがありませんわ……」

 アリシアが驚いてつぶやく。
 二人とも、ポカンと口を開けて俺の作業を見ていた。
 
 俺はフレイヤのナイフを借りて、肉を一口サイズに切った。
 血抜きをしたおかげで、サクサク切れる。
 鍋に新しい水を入れて、肉と、香りの良さそうな草を入れる。
 強火で一気に沸騰させると、灰色の泡が浮いてきた。アクだ。
 これを放置するから不味くなるんだよ。
 俺は木の皮で作った即席のお玉で、丁寧にアクをすくい続けた。

「何をしているんだ? 煮汁を捨てているのか?」

「これは雑味の塊です。これを取るだけで、味が全然変わるんです」

 アクを取ったスープは、黄金色に透き通ってきた。
 肉と野菜の旨味だけが溶け出した、いい匂いがする。
 味付けは、ポケットに入っていた携帯用の岩塩と、森で見つけたレモンみたいな木の実の汁だけ。
 シンプルだけど、下処理さえ行えば、これでも美味いはずだ。

 さらに、残りの肉は串に刺して、じっくり焼く。
 表面はカリッと、中はジューシーに。
 脂が炭に落ちて、いい匂いの煙が肉を包む。

「……いい匂いだ」

 フレイヤがゴクリと喉を鳴らした。
 さっきの焦げ臭さとは全然違う、食欲をそそる匂いだ。
 アリシアも、鍋の中をじーっと覗き込んでる。

「よし、完成です」

 俺は熱々のスープを木のお椀によそって、焼けた肉を葉っぱの上に乗せて差し出した。

「『特製スープ』と『香草焼き』です。どうぞ」

 二人は顔を見合わせて、それから恐る恐る料理に手を伸ばした。
 まずはフレイヤが、串焼き肉にかぶりつく。
 ガブリ。
 モグモグ……。
 その動きが、ピタリと止まった。
 次の瞬間、彼女の目がカッと見開かれた。

「っ!? なんだこれは!?」

 フレイヤは叫ぶなり、猛烈な勢いで肉を食べ始めた。

「柔らかい! あの固い狼の肉が、なんでこんなに柔らかいんだ! それに、臭みが全くない! 噛むたびに、肉汁が……甘い肉汁が溢れてくる!」

 彼女は感動しながら肉を貪っている。
 その横で、アリシアもスープを一口すすった。
 彼女の反応は静かだった。
 でも、その青い目から、ツーっと涙がこぼれ落ちた。

「……ぁ……」

 ため息みたいな声が漏れる。

「美味しい……。泥の味もしない、血の味もしない。ただ、優しい旨味だけが……体に染み渡っていきます……」

 アリシアは震える手で器を持ち直して、夢中でスープを飲み干した。
 上品だけど、飲むスピードが速すぎる。

「こんな料理、王宮でも食べたことがありません。調味料もほとんど使ってないのに、なんでこんなにおいしいのでしょうか?」

「ただ、汚れと余分な血を取り除いて、素材の味を引き出しただけですよ。ああ、ほら、料理は引き算といいますから」

 俺も自分の分のスープを飲んだ。
 うん、悪くない。
 魔物の肉って、日本の肉より味が濃いんだな。血抜きで臭みが消えたから、めちゃくちゃ美味い。
 疲れた体にスープが染みる。

 二人の食欲は凄まじかった。
 鍋いっぱいのスープと、数キロはあった肉が、あっという間に消えていく。
 普段、あんなマズイ飯を食っていた反動かな。彼女たちは一心不乱に俺の料理を平らげた。

「ふぅ……」

 最後の一滴までスープを飲み干したアリシアが、とろんとした目で息をつく。
 ほっぺが赤くて、すごく満足そうな顔だ。

「……ケンジ」

 フレイヤが、骨だけになった串を見つめた後、鋭い目で俺を見た。
 なんだか、さっきの化け物に見つかった時より怖い気がする。
 獲物を狙う目だ。

「はい」

「お前、行く当てはないって言ってたな」

「ええ、まあ。ここがどこかもわからないですし」

 フレイヤとアリシアが、無言で頷き合った。
 なんか会話したな、今。
 そして、二人は左右から俺の腕をガシッと掴んだ。
 逃がさない、っていう強い意志を感じる力強さだ。

「決まりですね」

 アリシアが、満面の笑顔で言う。

「貴方を、私たちの拠点がある街へご招待しますわ。宿の心配はいりません。私たちの家に住めばいいのです」

「拒否権はないぞ」

 フレイヤが鼻息荒く付け加える。

「責任をとってもらう。こんな美味いものを我々に食わせた責任をな。……明日から、元の食事が喉を通るとは思えん」

「私もです。ケンジさんの食事がない生活なんて、もう考えられません」

 その言葉は、まるでプロポーズみたいだったけど、彼女たちの目はもっとギラギラとしたものだった。
 美味しいエサをくれる人間を見つけた、野良猫のような……いや、猛獣かもしれない。
 その餌を目の前にした猛獣のような雰囲気を持った、彼女たちの圧に、俺はただ頷くことしかできなかった。

「……よろしくお願いします」

 こうして、俺の異世界生活は、最強の女騎士と聖女の専属料理人として始まることになった。